8 弱味とは、使ってこそだと思うのです
あれからアニーに連れられてすぐさま屋敷に帰宅しましたが、トーマスにも事情を知られものすごく心配されてしまいました。なぜか武装して「その不埒者を成敗してきます」と飛び出そうとするのをアニーと必死に引き止めるのが大変でしたけれど。
「しばらくはお店には行かないわ。……だから、女であることがバレた事はお父様たちには内緒にして欲しいの。あまり心配をかけたくないから……お願い」
両親にはエドガーとの婚約を破棄したいと考えている事すらまだ伝えていないのです。あの銀髪男の事を報告するとなると、結果的に私がエドガーとアミィ嬢の関係を調べていることがバレてしまうかもしれません。中途半端に報告したらお母様はショックで倒れてしまうかもしれませんし、出来れば決定的な証拠を集めてから伝えたいと思っていました。というか、もう婚約破棄しかない状況にしたいのが本音です。もしもエドガーが反省しているからと私の両親に懇願してそれを許されてしまったらと考えたらゾッとしますから。
「しかしお嬢様……」
「それに、たぶんその人はこの国の人ではないわ。移住しにきたとも思えないの。どこの誰ともわからない人を口封じするのは難しいし、旅人ならそのうちどこかへ行くでしょう?そうなればもう会うこともないわ。ね?お願いよ、トーマス」
私の言葉に動揺するトーマスの姿に、私は心の中でガッツポーズを取りました。我が家に昔から仕えてくれているトーマスとは赤ちゃんの頃からの付き合いです。彼が私のお願いに弱いことは熟知しております。親戚からすら煙たがられている私を両親よりも可愛がってくれていたのは、何を隠そうこのトーマスですから。というか、溺愛されている自覚ありますからぁ!だから私の「お願い」にトーマスがどれだけ弱いかなんて手に取るようにわかります。まぁ、それでも私の身が危険になるようなら絶対に却下されるんですけど。だからこそ、押し切ります……!
「こんなこと、トーマスにしか頼めないわ。エドガーとちゃんと婚約破棄出来るまで揉め事は起こしたくないの。ね?お願い……!」
「お、お嬢様ぁ……!────くっ!承知いたしました……!」
こてりと小首を傾げてお願いすると、トーマスは心臓の辺りを右手でぎゅっ!と、掴みながら片足を地につきました。息も荒いし……え、なにごとですか?
「……うわぁ。執事長様が旦那様への忠誠心と戦って負けるなんて……お嬢様恐るべし」
なにやらアニーが関心したように頷いていますが……とにかく私の要望か通ったということでいいのでしょうか?
とりあえずは、しばらくの猶予を得られたようです。両親にこの事を知られたらそれこそ大変な事になりますからね!




