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40 復讐のその後で

「……これで私の復讐は終わりですね」


 翌日、私はアールスト国に別れを告げ異国へと向かう馬車の中で呟きました。






 あれから王子は私の宣言通り全てを奪われ、名前も戸籍も何もない存在となりました。平民ですらいられなくなった元王子は『異国の聖女に無礼を働いた罪人』として広場に3日間吊し上げられ見せしめの刑になることになりました。もちろんそれ以外にも罪状は山ほどありましたが、聖女への罪が一番重くて庶民から貴族までもが納得する罪だからだそうです。さらに見せしめの後は奴隷としてどこかへ売られていくことも決まったのだとか。「もう気持ち悪いままだから専門の所に送るよ~」とジルさんが言っていました。


なんだかあっけない幕切れでしたが、変態専門の奴隷とは……私では想像しきれません。


そして王家はどうなったかというと……。まず国王陛下は「息子の罪は親の罪」として王位を返還なされました。しかしアールスト国の跡継ぎがいないとなると国が滅びるのでは?と問題になるも、ジルさんが「じゃあ、異国に取り込まれちゃえば?」とかなんとか言ったらしく、なんと国王と上位貴族がそれを了承してしまいました。つまりアールスト国は異国の領土になってしまったのです。後ほど異国から領主がくることになり、アールスト国と言う国の名は消えてしまうことになりました。国王と王妃様は異国の一貴族としてお腹の子供を育てる決意をなさったのです。


私の個人的な復讐のせいでひとつの国の名が消えてしまいましたがこのことに後悔はありません。せめて領民やその他の貴族たちはそのまま変わりなく過ごせるようにとはお願いしました。ですが……後悔はなくても誰かに恨まれる覚悟はしなくてはいけないかな、とは思いました。あのままのアールスト国を好んでいた人間がいなかったとも限りませんからね。



ちなみに王子を影で操っていた宰相ですが……ジルさんが首を切り落としたそうです。


元を正せばその宰相が王子をあんな風に育てたせいでレベッカ様の事件が起きたのですから、私が手を下してやろうと思っていたのですがジルさんに止められてしまいました。


「君は手を汚さなくていいって言ったろ」と。


ジルさんは私に甘いですね。一緒に罪を背負わせてくれればいいのに。ここまで来たら一蓮托生でいいじゃないですか……と言ってもジルさんは承諾しないのでしょうけど。









 ***









「そうだわ!そういえば、あの王子はなんであんなに気持ち悪くなってしまったんですか?しかも私に内緒でアニーまで巻き込むなんて ……!まさかとは思いますけど、なにか予定と違うことしましたね?!」


最初の予定では王子に気持ちを不安定にする薬を摂取させたあと、プライドを煽って激昂させて私に襲いかからせるはずでした。私としては胸ぐらを掴ませて頬を殴られる覚悟くらいはあったのです。私が傷を負えば物的証拠になりますからね。そして聖女に暴行したとなればそれなりの罪になります。その事実と周りから責められれば、不安が駆り立てられて薬の作用で自分の中で不安に思っていることを全て喋りだすはず。と、聞いていたのですが……。


まさかドM宣言された上にロックオンされるなんて思いもしませんでした。なにをどうしたらあんなに気持ち悪くなるのか理解不能です!


 するとジルさんはにんまりと笑いながら私の隣にいるアニーに視線を動かしました。アニーもにこにこと嬉しそうにしています。


「いやぁ、それにしてもアニーちゃんはお手柄だったよ!あの馬鹿王子がまさかなんの疑いもせずにあの水を被るとは……事前に臭いとか確認もしないなんて本当に王族だったのか疑いたくなるくらい馬鹿だよね。それに香水だって言ってるんだからちょこっとつければよかったのに全部一気に被るから効果がえげつなかったみたいだけど。いやぁ、予想以上だったなぁ」


「わたしの名演技のおかげですよね!でもあの変態王子、絶対に元々変態でしたよ!ずっとわたしの胸ばっかり見てましたし、話してる最中も鼻息が荒くて気持ち悪かったですから!」


「あの王子が変態だったかどうかはどうでもいいんです!何もなかったからよかったものの、もしもアニーが暴力を振るわれたりもっと酷い事をされていたらどうするつもりだったんですか?!」


 はしゃぐアニーを思わず抱きしめてジルさんに抗議します。それにしても、相談しても絶対に反対するから言わなかったって……酷くないですか?!しかもアニーまで頷かないで下さい!


「まぁまぁ、ちゃんと護衛は離れた場所につけてたし大丈夫だったろ?」


「それは結果論です!アニーは私の大切な侍女なんですからね!」


「お、お嬢様……アニーは感激ですぅ!でもこの旅に同行するための条件がジルさんのお手伝いをする事でしたのでジルさんを責めな「その話も聞いてませんよ!アニーはあとでお説教です!」はいぃぃぃっ」


 しょぼんとするアニーを叱りつつ無事であったことに安堵しました。もう、これじゃいつもと逆じゃないですか。


「それで、結局なにをしたんですか?」


「えーと……“ちょーっとだけ気持ち良くなって解放的になる薬”を針に塗って王子の椅子に仕込んだんだよね。十中八九あいつはその椅子に座るだろうからほぼ確実だと思っていたんだけど、もしも座らずにロティーナに突進してきた場合の事を考えてアニーちゃんに“ちょーっとだけ自分の深層心理に眠る欲望に素直になれる薬”を混ぜた水の匂いを王子が嗅ぐような状況に持っていってもらえるようにしたっていうか……。だから、王子があの水を被ったのは予想外なんだよ。怪しんで確認の為に匂いを嗅いでくれればよかったんだ。そうしたらもし王子が椅子に座って最初の薬が投与されていても不自然にならない程度の効果が出る予定だったんだけど……。まさか全部被るなんて全くの予想外。あれじゃたぶん口の中にも入ってるし体内に入ったとなれば効果は抜群なわけだ。でも、どっちも一応人体には無害なんだよ?本来は治療にも使われる薬でもあるんだし、いくらなんでもあそこまで過激になるわけないはず……あ、もしかしたらどっちもアルコールが入ると急激にヤバくなる欠陥品の薬を間違えて使っちゃったかも☆まさかとは思うけど、あの王子ってばお酒飲んじゃったのかなぁ~?いやぁ、うっかりうっかり!」


なんですか、その「てへぺろ☆」みたいな効果音を背負った顔は。絶対わざと間違えましたね?!


「なにやってるんですか……!もし国王が王子の変貌ぶりに薬物投与の疑いをかけて調べでもしたらどうするつもりだったんです?アールスト国に存在しない薬だったら真っ先に疑われるのは外からやってきた私たち……いえ、きっとジルさんが捕まっていました」


「うん、そうなんだけどさ。国王は王子を王太子にするのを悩んでいたし、宰相の不正も疑っていた。見限る寸前みたいだったから大丈夫かなって。……でも、勝手なことしてごめん。ただ……あの王子が君に触れたり、ましてや傷をつけるなんてやっぱり我慢出来なかったから、つい」


そう言ってジルさんは優しく微笑み、私の頬に手を添えたのでした。


 それって……聖女の顔に傷が付いたら困るってことかしら?でも私は偽物聖女だし、異国についたら数年は平民に紛れて暮らすつもりなんですからそんなに気にしなくていいのに。あ、それとも斡旋してくれる予定の仕事が顔に傷があっては不都合だとか?


首を傾げる私にジルさんはにこりと笑うだけでした。


相変わらず、ジルさんの言動は意味がわかりませんね。




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