21 これは闘いのための装いです
「こ、これは一体どうなってるんですか……?!もしや幻覚でも見てるんじゃ……」
王女様のお茶会当日。私は鏡を見て驚愕しました。
朝から目をランランと輝かせたアニー率いるメイドたちにもみくちゃにされ、肌はまるでつるつるゆでたまご。鏡の中の私は、なんだかウエストが細くなっているし胸は大きくなっているように見えました。やっぱり魔法でも使いましたか?
桃色の髪は結い上げられて銀細工と白薔薇で見事に飾り付けられキラキラと輝いていますし、ジルさんからプレゼントだと渡されたドレスは上等なシルクに銀の糸で豪華な刺繍がふんだんに施されてさらに惜しげもなく真珠の粒が縫い付けられています。ちなみに肌触りは最高級ですが……このドレス、この領地の年間の予算を軽く超える気がしてなりません。もし汚してしまっても弁償は難しそうです……。
さらにはいつもとは違うお化粧をされたからか顔つきまで違う気がしますし、これまたジルさんから渡された大粒の上品な真珠をふんだんに使ったアクセサリーをつければ……まるで本当に聖女になったかのような私がそこにいました。
「もはや別人です……」
この鏡の中の人物は本当に私なのでしょうか……?艷やかな肌と髪も、しっとりとした顔も……やっぱり別人なんですけど。
未だ信じられず、手を動かしたりくるりと回ってみたりして見ましたが鏡の中でも同じように動くのです。……やはり私でした。
「なかなか似合ってるね。サイズもピッタリだ」
「ジルさん……これはなんなんですか」
「ん?聖女の正装な感じ。的な?」
いえ、そんな小首を傾げられても困ります。聞いているのは私ですよ。というか、いつの間に私のサイズ調べたんですか?
「まぁまぁ、一応王女や公爵令嬢とのお茶会なんだからそれなりの格好をしとかないとね。ラスドレード国が選んだ事になってる聖女を見た目で馬鹿にされちゃオレが困るわけ」
「まぁいいですけど……」
それにしても、偽の聖女なのにこんなものまで用意するなんてすごいなぁ。とは思います。でも確かにこれくらいしないと名前負けしちゃいそうですよね。今や“聖女”は噂の有名人ですもの。それなのにいつもの私が登場してはガッカリされてしまうでしょうから。そう考えたら、これは変装だと思えばいいのかしら?
「おぉ!とても美しいぞ、ロティーナ!」
「まさに聖女様ね!あなたは自慢の娘だわ!」
「お嬢様、ご立派になられて……!」
「さすがはお嬢様!これは世界を狙える美しさですよ!!」
「お嬢様、バンザーイ!」
ほら、両親に加えてトーマスやアニーたちまで感激して泣いていますから。なんで使用人たちは万歳三唱してるんですか?今すぐやめて下さい。
ジルさんが両親にした説明では王家から出国の許可が貰え次第、私はラスドレード国に聖女として旅立つことになっています。しかし、一生ラスドレード国にいるというわけではなく数年程のことなのだとか。ラスドレード国の街や村を巡礼して教会で聖女の祈りを捧げて欲しい。とのことなのですが……。お父様なんか「ロティーナが使命を果たして帰還するまでこの父に任せておけ!」と私が戻ったら領主を安心して継げるようにしておくぞ。と張り切ってしまっています。やっぱり微塵も疑っていないようです。
私、偽の聖女ですよね?ラスドレード国に居場所なんかありませんよね?本当に出国することになったら数年もどこへ身を寄せればいいのでしょう。ジルさんったら話を大きくしすぎでは……?いざとなったら住むところとか仕事くらいはなんとかしてくれるのでしょうか。さすがに放り出したりはしませんよね?
少し不安になりジルさんに視線を向けますが、いつものにんまりした顔を見せるだけでその思惑は全く読めません。やはりこの人はよくわかりませんわ。
「では聖女様。行きましょうか?」
どうやらジルさんがエスコートしてくれるらしく、私の前に腕を出されました。
ジルさんの腕に手を回し、もう一度鏡に視線を動かしました。そこに映る姿はまさしく聖女で……そうですね、ジルさん。確かにこのドレスは聖女の正装……まさに戦闘服です。
とにかく今は、王女様とアミィ嬢が待つお茶会に集中致しましょう。レベッカ様も仰っておりました。お茶会とは、女の戦場なのだと。私はこれから戦場に足を踏み入れるのですから。
「参りましょう……ここからが戦いの始まりですわ」
「やる気があるようで何よりだ」
だって、勝負はチェスと同じ……最初の一手が重要ですものね。




