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「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか契約聖女になってしまいました  作者: As-me・com


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18 断罪された男2(エドガー視点)

  あの後、俺は本当に喉を潰され奴隷として鉱山へ連れて行かれてしまった。抵抗する俺の顔を乱暴に押さえつけて無理矢理あの薬を飲ませてきた兄上は人の心を捨ててしまったのだ。


 鼻と口を塞がれ、吐き出す事も出来ずに薬を飲み込む。その途端に喉が焼けるように熱くなり、体中の毛穴を針で刺されているかのような痛みが全身を駆け巡った。


「ヴヴヴヴヴ────っ!!!!」


 あまりの痛さに地面に転がりながら悲痛な叫びを上げるが、すでに潰れてしまった喉からは獣の唸り声のような叫びしか出てこなかった。


「………………」


 涙と鼻水と唾液を垂れ流しながらその様子を側で無言で見ている兄上に助けを求めるが、その目に光は宿っていない。


 まさかあんな怪しい薬を本当に俺に飲ませるなんて……たかがあんな脅しをされただけでだぞ?正気か?あんなの、その場では約束していたって後からどうとでもなるじゃないか。実は薬を飲ませた事にしてこっそり俺を逃がしてくれるつもりなんじゃないかと期待していたのに……。俺は婚約者だけでなく、血の繋がった父や兄にまでも裏切られたのだ。


「ヴ、ヴ、ヴ…………」


 俺が力尽きて暴れるのをやめると、そのまま目隠しをされ手足を拘束された。そして乱暴になにかの土台に乗せられる。動き出したのを感じて荷馬車だろうことはすぐにわかった。人の気配もあったのでたぶん兄上が一緒に乗り込んだのだろう。どこまで行くのだろうか。まさか奴隷にするというのも本気なのか?


 目的地に着くまでの距離は長く、ガタゴトと激しく揺れた。その度に何度も体をぶつけては呻いて訴えたが、付いてきてくれているはずの兄上はひと言も俺を心配する言葉など発しなかった。


  ようやく荷馬車が止まるとドサリと荷馬車からゴミを捨てるかのように蹴落とされ、乾いた荒い土がジャリジャリと頬に擦れる。痛みと共にやっと目的地についたのだとわかった。


「ヴーヴゥーッ!」


  やっと目隠しを取られて光に目が眩む。俺は薄目を開けながら必死で側にいるだろう兄上に再び無実を訴えることにしたのだ。きっと、さっきは頭に血が上っていただけなのだろう。本当に俺を見捨てる気ならこんな長距離を付き添ってくれるはずがない。そうだ、兄上は昔から厳しかったが根は優しいんだ。俺がロティーナに婚約を申し込んだ事を報告した時なんてそれはそれは俺を褒めてくれたのだから。


「エドガー、よく聞け」


 やっと光に目が慣れてくると、兄上はすぐ目の前にいた。きっと優しい笑みを向けて俺にした事を謝ってくれる。そう思っていたのに……兄上はまるで感情の捨てたかのような瞳で俺を見下ろしていたのだ。


 ゾクリと、背筋に冷たい汗が流れる。兄上は全て本気だったのだ。さっきまでの俺の考えがどれだけ甘く生ぬるい事だったのかと悟った。あぁ、兄上は俺の末路を見届けるためについてきたのだ……。



 そんな兄上がため息を吐きながら口を開く。


「……お前のせいで、子爵家は終わりだ。いいか?あのあの馬鹿女(母親)の残した負債のせいで子爵家は傾きかけていた。それを伯爵が娘の婚約者の家の為だと支援してくれていたんだ。“これからも周りから辛辣な言葉をかけられるであろう娘を守ってくれるんだからこれくらいたいしたことない”と、税を上げなくて済むように物流の仕事まで回して下さっていた。

  ただ、ロティーナ嬢の心の支えにさえなってくれればそれ以上は望まないと、勉強も出来ない後ろ楯もないお前を受け入れてくれたんだ。それなのにお前は……お前が愛してやまない母親はな、2度と子供たちと接触しないという条件で負債を子爵家に押し付けたんだぞ?浪費癖も酷かったが、“自分は子爵夫人だ”と領地での暴挙もさらに酷かった。父上はなんとか心を入れ替えて欲しいと説得したがとても無理で、だからお前が産まれた後すぐに離縁したんだ。

  勘違いしないように言っておくがあの女から言ったんだからな?“負債を全て引き受けてくれるなら2度と子供たちなどには会わない”と。

  わかったか?お前は母親に借金のカタに捨てられたんだ。そんなお前があの女の毒に染まり今度はロティーナ嬢を傷つけた。返済はいらないと言われたが、きっと父上は今まで支援された金を返すつもりだ。なにがなんでもな。お前が作った借金に慰謝料も合わせれば途方も無い額になるだろう。……その原因を作ったお前もお前をこんなクズに染めたあの女も決して許さない!


  だが、お前は運が良いよ。本当ならあの場でアレクサンドルト伯爵に八つ裂きにされていてもおかしくなかっただろうに、伯爵はロティーナ嬢にそんな汚い物を見せたくないから我慢なされたんだ。

  いいか?ロティーナ嬢は、いや、ロティーナ様は“聖女”だ。この国よりもはるかに大きい異国の聖女として選ばれたんだ。もうお前のような者が視界にすら入れることは許されないお方になったんだよ。

  例え偽りでも、ちゃんと婚約者として振る舞っていればお前は今まで聖女を守っていた騎士として栄誉を与えられていたのに残念だったな。

  ()()()、父上はその話で呼び出されていたんだ」




  え?




  兄上が何をいっているのかイマイチ頭に入ってこなかった。


  母上が俺を捨てた?多大な負債を子爵家に押し付けた?いや、だって母上は泣く泣く俺を父上に奪われたって……父上の有責で離縁したんだから、本当は引き取りたかったって……。


  ロティーナが本物の聖女?俺は栄誉ある騎士になれたはずだった?


 一体なにがどうなってるんだ?訳がわからない。


「まぁ、実はお前が伯爵領で暴挙を働いていたと言う証拠や資料を使者の方が持ってこられたのでどのみち騎士にはなれなかっただろうが……せめてロティーナ様に優しく接していればこんな結末にはならなかっただろうに」


  それって、もしかして 俺の事が調べられていたってことか?


  目を見開いたまま、ガクガクと震える俺を見て、兄上は呆れたように再びため息をついた。


「何を驚いているんだ?当たり前だろう。聖女として迎え入れる方の婚約者なんだ。素行調査されるに決まってるじゃないか」


  そこまで聞いて俺は閃いた。……ということはすでにアミィとの事もわかっているんじゃないか?それなら今すぐアミィに連絡をとってもらえばいい。すぐに俺の無実が証明されるはすだ!そうすれば兄上だって俺への態度を考え直してくれるだろう!


「ヴーッ!ヴゥーッ!」


  兄上になんとかこの事を伝えようと必死に訴えた。だが、その訴えがこの冷酷に成り下がった兄上に伝わる事はなかったのだ。


「お前に言いたいことは山ほどあるが、これでお別れだエドガー。いや、もう名も無き奴隷だな。さようなら、弟だった男よ」









 ***






  あれからどれくらいの時間が経ったのだろう?


  鉱山での労働は想像以上に大変だった。

  足には重い鎖をつけられ、休むことさえ許されない。食事だって酷いもんだ。石のように黒くて固いパンとまるで泥のような水なんてとてもじゃないが食えたものじゃなかった。


  だが、次第にそんな固いパンすらも美味しいと感じるようになった頃、いつもと違う騒ぎが起こったのだ。


「うー……」


  騒ぎの中心に近づくと、そこには項垂れたひとりの女が十字に組まれた木に張り付けられていた。

  そしてその横にある板には『この者に石を投げつければ褒美にミルクのスープが貰える』と書いてあったのだ。


  ミルクのスープ!以前はそんなもの貧乏人が食うものだと馬鹿にしていたが、今ではどんな宝石よりも素晴らしいと感じる。


  すでに石を投げつけている奴らに混ざって俺も必死に石を投げた。


「ぎゃあっ!」


  やった!顔に当たったぞ!これでスープが貰えると喜び視線を向け……俺は驚きのあまり次に投げようとしていた石を落としてしまう。


  なんてことだ……あそこで石を投げられているのは、母上じゃないか?!


  なぜ母上がこんなところに?!訳がわからなかったが、もしかしたら俺を助けるためにここへ来て捕まってしまったのではとも思った。


「ヴーッ!ヴーッ!」


  急いで母上の元へ駆け寄りその体を揺らす。石は容赦なく投げられていて俺にも当たったが、今は母上が優先だ。


「お、お前は……エドガー……?」


「うーっ!」


  母上もすぐ俺に気付いてくれた。あぁ、やはり母上は俺を愛してくれているのだ!俺を捨てたなんて、兄上が言った事はまちが────


「さわんじゃないよ!この役立たずがぁっ!!」


「?!」


  見たことの無いような恐ろしい形相の母上がそこにいた。


「お前のせいで捕まってしまった!せっかく伯爵家の財産を裏から自由にしてやろうと思ったのに、計画が丸潰れだ!お前がグズなせいでこっそりと裏でお前を操っていたことまでバレてしまったじゃないか……!

  お前のせいだ!お前のせいだ!お前なんか産むんじゃなかった……!」


  母上はいつも優しかった。離れて暮らしていても、いつもお前の事を考えているよと、お前はとても素晴らしい人間なのだから何をしても許されるんだよと、優しく教えてくれたのに……。




  俺は頭が真っ白になり、フラフラと母上から離れた。時折石が当たり血が吹き出たが歩き続け……そして気づくとひときわ大きな石を担いで母上に投げつけていた。





  あはぁ、今夜はご馳走だ。











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