14 聖女だなんて初耳です
「せ、聖女ですって……?!まさか、ロティーナが?!」
「はい、我が国の占星術師からの正式なお告げでございます」
胡散臭さ倍増な笑顔のジルさんの言葉に、両親がひっくり返りそうなほどに叫び声を上げたのでした……。
ジルさんが異国の使者を名乗って我が家にやってきた理由。それは「ラスドレード国の王家が桃色の髪の少女を探している」と言うことでした。
なんでもラスドレード国では国の未来を占星術で決めるならわしがあるとかで、最も信頼ある占星術師が「神聖なる奇跡の桃色の髪の少女を“聖女”として国に迎え入れればラスドレード国はさらに栄えるだろう」と宣言したそうなのです。
えぇっと……それって絶対嘘ですよね?この桃色の髪の事を「気味が悪い」と囁かれても「神聖な色」なんて言われた事などありませんもの。そんなデマカセ信じる人などいませんわ。
両親だってそんな簡単には信じるわけがな「なんてことだ!ロティーナが聖女だったなんて!」「あぁ!やっぱり、この子が桃色の髪に生まれたのはちゃんと意味があったんですわ!ロティーナを馬鹿にしてきた親戚の奴ら……ざまぁみろですわね!」……うん、信じちゃってますね。そしてものすごく喜んでます。
両親なりに、私の髪色の事を気に病んでいたのでしょうか。それが他所の国では必要とされてると知って嬉しいようですね。
しかしさすがにふたつ返事で了承することはなく、「この国を出るのなら領地の事もあるし、ラスドレード国のような大国が関わるのならば自国の王家に確認を取らねばならないから」としばらく話し合いをすることになりました。
「もちろんです。ぜひ良いお返事をお待ちしております」
にっこりと笑顔を向けるジルさん。あのにんまり(悪どい)顔を知っているからか、いかにも爽やかなこの微笑みが胡散臭過ぎて寒気がしそうです。絶対この人、腹黒いですよ!
しかし、まさか聖女とは……。どこでそんな設定を拾ってきたのでしょうか?そんなの、いまやお伽噺の中にしか存在しないと思うのですが。適当な事を言って私を聖女に仕立てて一体何をするつもりなのでしょう?
そんなわけで両親が王家とラスドレード国からの使者の事を相談する間、ジルさん御一行は我が家に滞在することになったのです。どうしても気になり、この事態の説明を求めようとこっそりジルさんに近づいたりもしましたが、その度に「もう少ししたらわかるよ」などと言ってはぐらかすのです。それに、ジルさん以外の御一行の方達は私を「聖女様」と拝んでくるし……この人たち本当に本物のラスドレード国の方たちなのでしょうか?それとも隣国のスパイ仲間?せめて本物か偽物かだけでも教えてくれないと対応に困ります……!
さらにジルさんのせいで私にラスドレード国から婚約の申し出があったなんて話が出ているという根も葉もない噂があっという間に領地に広がってしまいました。なぜか領民たちはお祭り騒ぎをしています。
いや、“聖女”に勧誘されただけですから!婚約とかそんなんじゃないですから!と叫びたいのですが、なんとなく自分から「実は私は聖女に選ばれたみたいです」なんて言うのも躊躇います。だって偽物なのに、なんだか自意識過剰みたいで変な感じがしてしまい弁解も出来ないまま噂は広がっていきました。ついでにアニーまで「お嬢様が聖女だなんて素敵です!」と大興奮する始末なのです。あなたは私がジルさんに関わるのは反対していたのでは?両親にジルさんの事を黙っていてくれたのは感謝しますが、アニーまで信じないで欲しいです。
そしてこの噂は、どうやらエドガーの父親……エルサーレ子爵の耳にも届いていたらしく、私には内緒で両家の話し合いもしているようなのです。エルサーレ子爵は普通に好い人ですし、エドガーのお兄様も優秀な方なのですがなんでエドガーだけがあんな感じになってしまったのかはいまだに謎でしかありません。
そう言えば、ジルさんはどこかへ行っているのか時折姿を消してしまいます。戻ってきても「いいから、いいから」と誤魔化すばかりなのでモヤモヤしながら数日が過ぎたある日……。
奴がやって来ました。服がところどころ破けているしだいぶ土で汚れているようです。門は閉めていたはずなのに、もしかして塀をよじ登ったのかしら?
「さぁ、ロティーナ!俺に婚約破棄されたくなかったら慰謝料を払って泣いて謝れ!!今ならまだ許してやるぞ!」
ガハガハと下品な笑いを響かせ、どや顔で堂々と我が家に乗り込んできたのはもちろんエドガーです。顔が真っ赤でなんだか目は虚ろだし、歩く度に足がもたついています。まだ昼過ぎだというのに、遠目から見ても明らかにかなりのお酒を飲んでいるように見えました。
そちらから婚約破棄してくださるなら喜んでお受けしますが、なぜ私が泣いて謝らねばならないのでしょうか?なによりも、あなた不法侵入ですわ。




