第4話 ー 本の中へ吸い込まれる
ハルトは言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くしていた。
本の挿絵の人物が動いたように見えたが、すでに姿は消えていた。
「今のは本当に……?」
疑念が胸をよぎる。
彼はじっと絵を見つめ続けた。すると再び人物が現れ、口に指を当てて「静かに」と合図した。
ハルトは衝動的に他の二人へ証明したくなったが、合図を理解し、言葉を飲み込んだ。
人物はページの端を指差し、続きを読めと促す。
ハルトはその指示に従い、ページをめくった。
そこには「異世界から来た英雄たちが物語に入り込み、悪を倒そうとした」と記されていた。
だが、悪の描写があるはずの部分は真っ白に消されており、文字列は途切れることなく続いていた。
その不自然さに、ハルトは眉をひそめた。
次のページには遠い王国の挿絵が描かれていた。
そしてまた、人物がその絵の中に現れた。
彼は手招きし、ハルトに近づくよう示した。
その様子を見ていたダイチは、母親が来るのではと怯えていたが、ハルトが本へ近づくのを見て思わず彼の隣に寄った。
普段は無関心なユイも、ダイチが怖がらずに近づいたことに驚き、好奇心から二人の様子を覗き込んだ。
「……また絵が動いたって言うつもり?
嘘ばかり言わないで。」
ユイは疑いの目を向けながら近づいた。
しかしハルトは彼女の言葉を聞いていないかのように、ただ絵に集中していた。
その瞬間――部屋の扉が閉まり、突風が吹き荒れた。
まるで竜巻のように空気が渦を巻き、家具を巻き込みながら三人を本の中へと吸い込んでいく。
ページは勝手にめくられ、そして閉じられた。
子供たちの姿は絵の中へと消えた。
「アアアアアーーッ!」
ダイチの悲鳴だけが響き渡る。
ハルトは声を発することなく、ただ静かに本へと吸い込まれていった。
ユイは反応する暇もなかった。
あまりにも非現実的な出来事で、理解が追いつかなかったのだ。
次の瞬間、三人は草原に横たわっていた。
近くには森が広がり、遠くには王国らしき街並みが見える。
目に映るその景色は現実離れしていたが、確かに存在していた。
最初に目を覚ましたのはダイチだった。
彼は慌ててハルトを揺り起こす。
ハルトは深い眠りから覚めたようにゆっくりと目を開けた。
続いてダイチはユイのもとへ走り、彼女を起こした。
ユイは飛び起き、困惑と不安に満ちた表情を浮かべた。
ハルトは周囲を見渡し、目を輝かせた。
本で読んだ光景に酷似していたからだ。
ここは「物語の守護者」が住む、通過のための王国だと理解した。
しかしユイは懐疑的なままだった。
彼女はハルトの胸ぐらを掴み、問い詰めた。
「ここはどこなの、ハルト? 本当に現実なの?
冗談でしょう? 私はすぐに家に帰りたいの。
勉強を続けなきゃいけないのよ。
こんなの現実であるはずがない!」
ダイチは膝を震わせ、歯をガチガチ鳴らしながら汗を流していた。
「ユ、ユイ……い、今は言い争ってる場合じゃない……。
ひ、人が近づいてきてる……そ、それも剣を持ってる!」




