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間宮 晴彦の女難  作者: 捻じ曲がり式
災難の始まり
3/5

倉野 伊織という災難①


「じゃあ、ここを……間宮、読んでみろ」


「………」

なんか名前を呼ばれた気がするが、返事をする気力が出ない。


「おーい、間宮〜聞いてるか〜?」


「せんせー!間宮君は今、BAD入ってるので動きませーん」


そんな俺を見かねて萩原が庇ってくれた。

故障してますみたいな言い方やめろ。


間宮はこっちを見ながら、『貸し1』とでも言いたげに恩着せがましくウィンクしてくる。


テメェ、マッチポンプにも程があんだろうが。



「しゃーねーなぁ〜。じゃ、隣の倉野(くらの) 〜」


その声に、まさか自分が当てられるとは思ってなかったのか、『ひゃぁぃ』と変な声をあげる倉野さん。

ごめん、俺がダウンしてるばっかりに流れ弾を送ってしまって。


「おーい、倉野〜?どしたー?」


……?


思ったより、あわあわとしている。不思議に思った俺は彼女へ視線を向ける。

なんとか誤魔化してるようだが、開けてる教科書がよく見ると違う……


あー、なるほど。忘れちゃったのね。ほんと俺、タイミング悪いよね。



「先生!」


「おわっ、間宮、急に立つな!びっくりしちゃうだろうが」


「心の病院にかかりたいので、とりあえず保健室行ってきます!」


「お、お前…このご時世に、なんてツッコミにくい理由を……」


『まぁ、わかったよ。早よ行ってこい』

と渋々ながらも先生は許してくれた。これも日頃の行いの賜物だね。

扉へ向かう際、倉野さんの机にそれとなく俺の教科書を置いていく。


驚いた顔でこちらを向く倉野さんに、『それ使って』と、小声で伝えて、俺は教室を出ていった。




○●○●




本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教室の中から号令が聞こえ出す。先生が教室から出ていくのを見計らい、入れ替わるように教室へ入る。


「おー、はるっちおかえり〜」

そんな俺を萩野が迎えてくれた。


「ういうい〜、ほんじゃま、帰ろうぜ〜」


「お前……学校で好きに振る舞いすぎだろ」

倫太郎が何か言いたげだな……俺、何か変なことしたか?


「とりあえず細かいことは置いとこうぜ〜?それより、帰りどうする?どっか寄ってく?」


「お前、そんなこと言ってるとまた−−−−


「間宮!」


「ゲ…」


俺がこんな渋い反応をしてしまうのも仕方のないことだ。

何せ声をかけてきたのは、あの北条『《ほくじょう》 なぎさ

男嫌いで有名。規律や拘束に厳しく口うるさい女だ。


そしてこいつ、女子なのに顔がイケメンなのだ。

キリッとした目つき、綺麗な鼻筋、薄くもぷっくりした唇。シャープな顔の輪郭。


顔も小さくまさに八頭身。

身長も高く175以上ある俺の身長と大差ない。

身体もすらっとしており、実にスレンダーだ。


清潔感のあるショートカットは涼しげな印象を与える。


その美しく丁寧な振る舞いと合わさって、めちゃくちゃ女子にモテてる。

まさに、女子が理想とする王子様といったところだ。


勉強もできるし運動もできる、さらにさらに、どうやら良いところのお嬢様でもあるらしい。


こいつもこいつで、周りからは高嶺の花というような扱いをされている。


男を寄せ付けないその態度が逆に良いと言ったような意見があるらしい。

甘えん坊大好き侍な俺には考えられないね。



「君、授業中のあのふざけた行為はなんだい?もう少し真面目に授業を受けてくれ。クラスメイトの士気に関わる」


彼女は鋭い目つきのまま捲し立てる。


「だいたい、何が心の病院だ。ふざけてそういうことをされると、本当に困ってる子が信じてもらえなくなるかもしれないだろ。デリケートな問題を下らない理由で刺激するな」


ぐ、グウの音もでねぇ……

「こ、心が傷ついてたのはほんとだもん」


「とにかく、今後ああ言った低俗な真似はやめろ。わかったね?」


「…さーせん」


俺のしおらしい態度を見て、一旦溜飲は下げてくれたみたいだ。『最後までふざけた男だ』と文句を言いながら去っていった。


「……んじゃま!気を取り直して、帰りますか!」


「はるっちって、めげないねー?」


「お前のそのタフなところ、たまに羨ましく思うよ」


「ははは……それ、褒めてんだよね?」





自分で言うのもなんだが、俺たちは結構仲が良い。登校はともかく、下校は一緒に行うくらいには仲良しさんだ。

なので今日も今日とて一緒に登下校。


3人でロッカーへ向かい、下駄箱を開ける……だがその中には、俺にとって非日常を表す光景があった。



「晴彦、どうした固まって」


「なになにー?どしたの?」


「……春だ」


「何?急に自己紹介?」


「違う!俺に春がやってきた!」


そこには一枚のかわいらしい手紙があった。

ドキドキしながら、封を開けて中を確認する。

内容はシンプル。


 間宮 晴彦くん

  伝えたいことがあります

   屋上で待ってるね

              』



「……わーお、今時恋文(ラブレター)なんて、超奥ゆかしいね〜。大和撫子だね〜」


「よかったな、晴彦。邪魔にならいよう俺たちは先に帰るよ」


「えー!りんちゃんそれはおかしいよ!こんなおもし−−−……面白そうなイベント見逃すなんてそりゃないよー!」


こいつぅ、言い直すの諦めやがった……。

人の恋路をなんだと思ってんだ。



「馬鹿なこと言ってないで、いくぞ」


『えーやだやだー!』と駄々をこねる萩原を引きずり出す倫太郎。だが、途中で背を向けたまま止まり出す。


「なんだよ倫太郎。やっぱりほんとはお前も気になるのか?」


「違う……ないと思うが…もし、胸糞悪りぃイタズラだったら言え……犯人を見つけ出して…必ず落とし前をつけさせる」


こ、怖ぇ……!ダークサイド出ちゃってますよ倫太郎さん!

っていうか、そんな悲しい可能性を提示すんなよな……考えないようにしてたのに……



「とりあえず行ってみるよ」


「絶対どうなったか教えてね!今日ね!電話でだよ!絶対だよ!いつものグループで待ってるからね!」


『絶対の絶対だよー!』と騒ぎながら倫太郎に引き摺られてゆく萩原。野次馬根性凄すぎだろ。

どんだけ気になるんだよ……



嫌な可能性が頭の隅にへばりつきながらも、俺はどうしようもなく胸をたからせながら屋上へ向かった。




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