間宮 晴彦 という人間
「では、これでホームルームを終了する。授業の準備をしておくように」
そう言い終わると、教壇の上で書類を整えながら、担任の貝塚は教室から出ていった。
少ししてクラスメイトたちの雑談の声が溢れ、ざわめきが出てくる。
「はるっち〜、おはー」
「おはおは〜、どしたん萩原」
と言いつつ、彼女が何を求めてきたのか俺には予想がつく。
「数学の宿題、みーせて?」
実にあざとく首を傾げて上目遣いでおねだりしてくる。
実に予想通りだ。だが答えはもう決まっている。
「萩原、この俺がそんな真面目な人間に見えるか?自慢じゃないが、俺の宿題提出率は50%を切ってる」
『本当に自慢になんないね』
そう呟く彼女は『萩原 莉子』
俺の友達の一人。
セミロングの茶色がかった栗色の髪は、特に染めてはおらず地毛らしい。
クルンと内側に自然なカールが施されてる。
実に器用にナチュラルメイクをしており、生活指導から指摘されないぎりぎりのラインを保っている。
ナチュラルメイク…にも関わらず、彼女のその顔は実にあざとく、元々がたぬき顔なこともあり、男受けが良い。
器用なタイプで世渡り上手……なはずなのに、恋人関連のいざこざに勝手に巻き込まれることが多々あるそうだ。
そのせいで女子からの評判はあまり良くないが……彼女自身もそれを楽しんで場をかき乱している節があるので、これに関してはどっちが悪いかなどは俺には判断がつかない。
高校生の時点でファムファタールのようなその生き方に、俺は若干恐怖を抱いている……だけどその『いざこざ』の話を嬉々として聞いてしまうあたり、人のことをとやかく言う資格は俺にもないのだろう。
「そういうのは、我らが頼れる倫太郎きゅんに頼むべきだ……ということでお願いしゃーーすっ!」
「しゃっすしゃーーすっ!」
「お前らなぁ……はぁ、ほら」
タイミングよく後からやってきた男。
呆れながらも、ノートを出し、我らに救いの糸を垂らしてくれるこのお釈迦様は『宮坂倫太郎』
俺のもう一人の友達。クールガイだ。
顔は俳優のようにしっかりとした二枚目で、面倒見もいいときたもんだ。清潔感のある身なりをしており、目が鋭く、少し強面だが、逆にそこがいいという意見は多い。しかもガタイもよく筋肉質だ。
ぶっきらぼうに見えながらも、その真面目さと甲斐性からくる包容力…そしてその甘いマスクにやられた女性はそこそこいる。
そう、こいつは結構モテる。
本人が隠そうとしてるのにも関わらず、偶然告白されてる現場などを目撃してしまうくらいにはモテてる。
正直羨ましい。
「あざーーっす!」
「あ、ちょっと!莉子が先ー!」
「ぐははは、この世は弱肉強食の早い者勝ちじゃい!おらぁ!」
強引にノートを強奪する。
「さ、最低すぎる。だから五回もフラれるんだよ」
「………」
とんでもないカウンターパンチを喰らった。
こいつ、人の心抉るのうま過ぎるだろ。
『スキあり!』と俺が傷心で絶望してる合間にノートを奪い取ってゆく萩野。俺はしばらく呆然と地面を見つめ、動けないでいた。
『お前が悪い』と倫太郎からもダメ押しを喰らう。こいつら……もっと友達を大切にしやがれ……
そう、俺は今までの人生で、五回告白して、全て失敗に終わってるのだ。
しかもその相手の一人が、『蓮見 雪』さん。一つ上の先輩で……この学校で高嶺の花として扱われてるお人だ。
所作が美しく文武両道。優等生でありながら人望も厚い。
なんてすごい人なんだ、流石だぜ。
とても綺麗な方なので、俺以外にももちろん告白した男は多い。そしてその男子生徒は全て散っていった。まさに玉砕。
俺もそのうちの一人というわけだ。
そりゃフラれるよね。
告白の仕方も、『見た目が超絶どタイプです!付き合ってください!』だったからね。
終わってんね。
でも仕方ないね、狐顔の美人さんに弱いんだ俺。
あーいう一見クールな人に、めちゃくちゃに甘えられたい。
でも、ああいう綺麗な人は、このクラスにいるもう一人のモテ男くん、『桐原 颯太』君みたいな男と付き合うんだろうな。
あいつ、自分は陰の者です、みたいな雰囲気だしてるけど、全然モテてるから腹立つ。
すれ違いざまに目にも見えぬ手刀を首に打ち付けていいか?
因みにこのクラスに女子生徒を沸かせる生徒がもう一人いる。
このクラス、顔面偏差値に偏りがありすぎないか?
「おーい席につけ〜」
先生が入ってくる。だが俺の心は未だ傷心中。
先生の言葉が何も頭に入らないまま、俺は授業を受けるのだった。
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