聖女のヒロインが現れたので大人しく身を引こうと思ったら王太子殿下がクズすぎた
「あの、実は王太子殿下の件でご相談が…」
ついに私と直接対決しようっていうのね、ヒロインちゃん。さて何を言われるのだか。
「殿下が私に付きまとってくるの迷惑なのでやめていただけませんか、とお伝えしてほしくて…」
んんん????
私、イレイナ・カルミール公爵令嬢は転生者だ。そして、この世界では100年に1度聖女が召喚されるのだけど、私は王太子殿下の婚約者。こんなの悪役令嬢ポジションじゃない!
別に王太子殿下に未練もないので、聖女ちゃんが召喚されたら大人しく身を引こうと思っていたのですが…
まさかの殿下がクズすぎる件について
今までは上手く隠していたのか、それとも私が気づかなかっただけなのかは分からないけど、どうやら今代の聖女であるセナ様にかなりひどく執着しているらしく、さらに他のご令嬢にも見境がないらしい。
こんなクズと結婚なんて真っ平ごめんですけど!
気づかなかった私も悪いんですかね。だとしてもどうしようかしら。よほど何かやらかさない限り婚約破棄にはできそうもないわ。
「そう…そんなことがあったのね。全く気づかなかったわ、ごめんなさいね」
「いえいえ!イレイナ様が悪いわけではないので謝罪なんて!」
「それでも私の婚約者のことだわ」
さて、どうすればいいのかしらね。思わぬところから殿下の本性を知ってしまったけれど、今の私には婚約破棄する術を持ち合わせてないわ。
少しセナ様と話し合いを続けながら策がないか考えていると
「なら、私がおとりとして動きますか?」
「おとり?どういうことですか?」
彼女が言うには、セナ様が殿下と仲を深めるフリをして、私と婚約破棄させるように誘導しようという作戦のようだ。たとえどのような理由であったとしても婚約破棄になったとなれば印象はどうしても悪くなってしまうけれど、その点は聖女としての権力で何とかするから大丈夫だと。
「けど、どうしてそこまでしてくれるんですの?」
とても親身になってくれているのですが、ここまで来るともはや罠だとさえ疑ってしまうのですが…
「それはあなたが……だから」
「はい?」
とても小声だったのでほとんど聞こえませんでしたが、何か答えを言っていた気がします。
「…秘密です」
セナ様はそう言って微笑んだだけでした。
その後は予定通りセナ様が動き、予定通りに事は進んでいきました。あの性格ですから殿下に取り入るのは相当簡単だったらしく、2人で思わず笑ってしまったものです。まさか2、3日で「たぶん行けます」なんて言われるとは。
「来週の学園の記念パーティは国王陛下もちょうど参加しますので、その場が良いのではと唆してみました。本来このような独断は自分が最も権力の高い場でするべきだけどそこまで頭は回らないと思います」
結構しっかり貶してる、相当嫌だったのね。そんな役をさせてしまってることにちょっと申し訳なくなってきた。
「分かったわ、来週になるのね。それにしても、まだ協力してくれる理由は教えてくれないの?」
気になる言い方されたせいですごくそわそわしてしまう。本当になんだろう?
「…なら、この計画が成功したときにでも」
「言質は取ったわよ」
さーて、どうしてなのか教えてもらおうじゃないの。
そして迎えた記念パーティーの日。まだ婚約者の身であるはずなのですが、当然のように殿下は私をエスコートしません。少しは取り繕おうという気持ちすらもないのかしら。
「少し時間を取らせてもらうぞ、イレイナ・カルミール。前へ来い」
来たわね、ついにこの時が。
「はい、なんでしょうか」
「お前との婚約をここで破棄することを宣言する!!そして、新しい婚約者を聖女セナとする!」
セナ様も上手くやったみたいね。
さて、反撃と行きましょうか。
「理由をお伺いしても?」
「お前は私の聖女を定期的に呼び出し、嫌がらせを繰り返していたようだな!!」
私のって…まあそこはどうでもいいか。すぐにあなたのではなくなりますよ。
と、ここでセナ様が口を開く。
「殿下、イレイナ様との婚約破棄は決定事項ということでいいですね?」
「ああ、当然だ!こんな女と婚約なんてできるか!」
「では、そういうことになりましたので、国王陛下。私は王太子殿下との婚約はお断りさせていただきます」
「…はっ!?な、な!どういうことだ!!」
少しだけ私を陥れる罠だったのかもと疑ったのはお許しください、セナ様。きちんと約束を果たしてくれたのですね。
「あなたのような女癖も悪く、見る目もないような人とは婚約したくありません。それに」
そこで言葉を切り、私の方に近づいてくる。なになに!?
「俺の運命の相手はあなただけさ、玲奈」
えっ?なんで私の前世の名前を知って…まさか!?
セナという名前はつまり、汐凪…
「でも、汐凪は男性よ。セナ様は女性じゃない」
「ああ、そのことか。それは召喚されたときの話をしないとだから長くなるな。だが、その前に」
そう言うとセナ様…いや、汐凪は女性の姿から前世でよく見た姿に変わっていた。は?え??
「後の話は邪魔の入らない場所でしようか」
そう言って、私を連れて控室に入る。
「つまり?女性しか召喚されない聖女が手違いで汐凪が選ばれて、女神が帳尻合わせのために性別を変えたと?ふざけてるわね」
「まあ、自由に変えられるようにしてもらったし、このおかげでまた玲奈と会えたから俺としては文句ないさ」
もう、そんなこと言うなら文句言えないじゃないの…。
「向こうで言えなかったからさ、こっちで言わせてほしい。結婚しよう、愛してるよ玲奈」
「…はい!」
~fin~