9.マジックボムの完成
「この魔術具、いつもは使わないんだけど今回は念のため造って見たやつ。いつもは液体調製したら直ぐに今作った砂と混ぜるから。液体を砂と混ぜない状態で置いておくのは出来るだけ避けたいし、基本的には砂を作ってその後に液体を作ってすぐ混ぜるが基本になるね。」
青年は、側面に付いてる青色の石から、微弱な魔力を感じる10cm×10cm位の木箱について、そう言いながら木箱の蓋を開ける。
「液体の作り方は後で教えるよ。さて、今日は既に僕が用意してたこの液体を使う訳だけど、こっちのガラスからこの細長いガラスで、こんな感じでゆっくり液体を吸い出して・・この位吸ったらゆっくり少しずつ、さっき作った砂に加えて行く。」
そう言いながら青年は、木箱の中から液体の入った100mlビーカーくらいのガラス容器を取り出して、無色〜薄い淡黄色の液体を少年に一度見せると、素早くかつ丁寧に上にゴムが付いてる10mlメスピペットのような器具でビーカーから液体を吸い出して行き、少年に自身が採った液体の量を見せて直ちに砂に少しずつ全体に回すように、そして高い位置で液体を落とさずに、限りなく砂に近い位置でポタポタと垂らして行く。
それを2回繰り返した。
垂らし終わると100mlのようなガラスを青い石の付いた木箱へと戻し、その箱から30cmくらい右側に離すようにピペットをそっと置いた。
「出来るだけ液体に衝撃は、加えないように注意して扱ってね。じゃあ、こっちの砂を混ぜて行こうか。」
念を押しながら、液体を加えた砂をゆっくりと優しく且つ念入りに回し混ぜて行く。
液体により濡れた砂の表面は、掻き混ぜる事により全体に水分が広がる。
青年は暫く液体を掻き混ぜていたが、満足したように頷くと、
「よし、こんな感じ。後はこの残った液体と細長いガラスに入ってる液体の処理だね。まずは、いっぱい残ってる液体にそっと少しずつ水を加えて行くよ。」
《湧水》を使用して水をビーカー内壁に滴らせるように流して行き、全量が80ml程度になるくらい入れたら、ピペットも持ってスライムの箱の方へ向かって行く。
「ポーション作った時の草の余りを与えたのと同じスライムにこの液体を与えるんだけど、偶にスライムが内部から破裂する事があるから注意してね。魔力とかで強化してれば、このくらいのスライムなら掛かっても大丈夫だけどね。・・全部液体がなくなっても何度か水を入れてしっかり洗うよ。」
スライムの近くで溶液をピペットを使いながら入れて行き、溶液が大体なくなったら《湧水》を再度使用して溶液が100mlビーカーのような入れ物にも、ピペットの内側にも残らないように念入りに洗浄して行く。
(ん?「気」と魔力とが微妙に反発したように動いてるな。)
少しだけ「気」について思考を逸らしながらも、少年は黙って青年の話しを聞く。
「ふぅ、扱いが一番難しい作業はこんな感じかな。あの液体を作る時も危ないけどね。」
少しだけホッとした様子でそう言いながら青年は机に戻る。
「さっき作った砂についてなんだけど、あれに…何だっけな?名前は忘れちゃったけど、魔物素材の黒い砂を入れるともっと安全になるから保管とか運ぶ時に便利になるよ。だけど、今回は量がそんなにないし、どうやら直ぐ使う見たいだから、使う時にちゃんと爆発出来るように、魔物素材は足さないでこのまま次に行く。」
机上を少し整理しながら補足説明を口頭でして、青年は先の工程に進める。
「次は、この紙に今作った砂を詰めてくよ。端の方を・・こんな感じで捻って砂が端から出ないようにして、大体この高さまで入ったら、もう片方の端も同じように捻ってく。もうこの砂は危なくないから君もやってみなよ。あっ、もう魔力の強化は解いて良いからね。」
机上から、やや黄色みがかった半透明・長方形の紙を取り出して、円筒形に丸めて端の方をキャンディの両端のように捻って作成した砂を入れて行く。
「気」とやらを解いて砂を紙に詰めて行く青年に促されて、少年も魔力での身体強化は解いて紙の片側を捻り、木製のボウルから細い木製スプーンを使用して砂を円筒状にしたパラフィン紙に詰める。パラフィン紙の表面はツルツルしていて、どこか湿っぽいというか油っぽい触り心地を感じながら詰めて行くのだが、円の直径が大きく丸めて詰めると、砂を溢してしまいそうになるので、一度ボウルに砂を戻して底面となる円の直径を丸くするように紙を丸め直してから再度詰めて行く。
砂を粛々と詰めながら少年は、危険な液体を加えた砂の事を考える。
問いとして口には出さなかったが、その危険性を何度も青年が念押しをしていた液体を、ただ加えただけで危険性を低下させる事が出来る砂が不思議だったから。
魔物素材を使ってたし、何か特別な素材なのだろうか?しかしそれなら、なぜ魔物素材だけではなく淡黄色〜薄茶色の砂も一緒に混ぜたのだろう?
そんな事を考えながらも手だけは動かして行く。
そして元々量はそんななかった為に直ぐ詰め終わると、青年は続きの説明をして来る。
「そう、良い感じだよ。次はこの金属の筒の中に、今作ったこれを詰めて・・上にこの石、発破石って言うんだけど、これを入れる。入れ終わったら入り口をこの穴が間丸い金属で蓋をして、中を密閉するよ。」
強く握っては、直ぐに形を変えてしまいそうな0.1〜0.3mm程度の黒っぽく青みがかった色の表面にくすんだツヤのある金属に、砂を詰めたパラフィン紙を入れ、その上に紅色で内部に黄色のヒビが入ったような石を入れたら、端を円形で発破石などを詰めた円筒形の金属にスポッとちょうど嵌まるような中心に円形の小さな孔が開いている青みがかった灰色の金属を被せた。
「後は、これから魔術具を作るときは必須な、このインクとペンを使って道具用の魔術式をこの紙に描いて行くよ。」
そう言って、青年は少年が扱った事の無い文字列、見方によっては魔法陣のような、或いは刻印のような紋様・記号を書き連ねて行く。
「この記号は【2】、これは【分割】、これは【結合】と【接続】。そして【繰り返す】と【条件】。それから、【開始】、【出力】、【炎】、【光】、【変換】、【抵抗】、【増幅】だね。まぁ他にもあるけど、これらの記号とか今覚えなくても良いけど、魔術文字とかについては、図書室とかに関係した本が色々置いてる筈だからその都度確認してみてね。」
インクで独特な紋様のように記号をサラサラ描いて行きながら説明はそこそこにして、関連書籍などは自分で調べろなスタンスで、刻印を完成させた。
「この上に紙を乗せてるんだけど、ここの中心は必ず孔に会うようにしてね。そして紙の上にはこの小さな水晶を真ん中の文字が広がってる所に置いてこの糊で止めたら、その上にこっちの魔石を置いて、これも糊で止めてくよ。そして、このまま少し置いて乾かしておく。」
青年は、側面からも上からも確認しながら円筒形の金属容器の孔に紙の文字や記号が描いてるところを中心に微調整し、紙と金属、紙と水晶、水晶と魔石とを、それぞれ掌サイズの小さな陶器から粘り気のある黄色がかった白色のクリーム状の接着剤を細い金属製のヘラで採りだしてヘラの先端付近で伸ばしながら、丁寧に塗り付けて行く。
「さて、今描いたり付けたりしたのにどんな効果があるかだけど、ざっくり言うと魔力を流して規定量に達したら、一番上の石が白色に光を放つ。そして、7秒後に爆発するんだ。」
接着剤を塗り終わった青年は、マジックボムという魔術具の作成に使用した刻印のような文字・記号列の効果について概要を説明するが、当然のように少年にはどうしてそんな事が可能なのかは分からなかった。それを分かっているから青年は、文字一つ一つの意味など細かい事を全て説明したりはせずに、自分で調べろとばかりのスタンスで居る。
しかし、その態度は別に少年に対して白衣を来た大人達のように侮りや見下した雰囲気は全くなく、言外にそのこの場所の在り様を示している風だった。
「マジックボムについては、ここまでかな。分からなかったら自分で調べてね。それでも分からない場合は僕に分かる範囲内事であれば教えるよ。ここでは、生産速度が落ちなければ特になにも言われない……ような気がするから、そこだけは気をつけて。君には暫く今言った魔術具についての量産をお願いするから、基本はそれをやって貰いながら、時間がある時は僕の作業を手伝ったり、図書室で他のポーションとか魔術具について読んでおいた方が良いかも。」
マジックボムについて話終わると、引き継ぎ完了とばかりに急に少年を引き離す。どうやら、青年もそんなに余裕がある訳ではなく、出来る限りは自分で何とかして欲しそうな雰囲気を醸し出していた。
少年は、生産について不安が無い訳ではなかったのだが、今はそれよりも「気」について欲しかったのだが、中々に厳しそうだったので暫くタイミングを伺う事にした。
どこか697番にとってもやもやとする引き継ぎになったが、それよりも今までのように、ただ毎日顔面をボコボコにされるよりはマシだと思い、その意味では良い配置転換になったのだった。
「ところで君は、どのくらい睡眠が必要なのかな?この部屋の皆を見てもらえれば分かると思うけど、基本雑魚寝だから、他の人の邪魔にならない所で寝てね。」
「……分かった。」
少年は自身の周囲を見渡して、いつの間にか地面に寝転がって力尽きてるように見えるこれからの同輩を見て、引き攣った表情で肯定の言葉を青年に返した。
(あの独房よりはマシか……)