ポーションの作成
実験室と呼ばれる部屋の手前から二列目、入り口から右手側にある長机に青年と少年が並び、どこか弱々しい青年が小学校にも入ってないような背の低い少年に対しその造り方を最初に教えるポーションという液体は、誰がどんな目的で使用するのかという問いから視線を外せばとても画期的なものである。
そしてそれは、697番にとっても同じ事であり既に彼は経験済みで、なんなら毎日のように振り掛けられていた常用者の1人であった。
「僕達が使う机はここで、素材はこっちの棚にあるよ。」
青年は、少年に素材の定位置である入り口から右手側2番目の棚の前で教えながら、素材を取っていく。
幾つか取ると、先程少年を案内した机に置いてまた素材を取ってくるという動作を繰り返す。
「今から作るのは初級ポーションだから、素材は手に着いてもヒリヒリしないスライムゼリー・・この文字が書いてるやつ。それと魔力草って言われてるのと、これとこれ、後はこの草。」
青年は全草の名称は覚えてないのか、幾つか濁しながら教える。
図書室に案内しているはずであるのだが、読めない文字があるのか、或いは面倒で言うのを省略したのか、スライムゼリーの瓶に粘度20と書いてある所を指さしているのを少年は視認する。
「後、器具は・・・これとこれとこれ。あとはこれとこれとこれに、あとはこれ。これは、火が出るやつ。これは、草とお湯を分ける布で、この布は机したのここにいっぱい入ってるけど、初級ポーションを沢山作る時はずっとその布を使った方が良いよ。片付けが楽になるから。それと、ガラスはこれとこの形のを使ってね。あとこれは、ガラスを置くやつ。それからこの硬い編み編みと足が3本ある金属を使うよ。」
順にコンロのような丸いコンパクトな土台に円形の金属が乗っかっており、そこに小さな孔が複数空いている道具、四角い布。ビーカーのようなガラス2個と漏斗のようなもの。漏斗台みたいに「土」という感じみたいな形をした木製の台で、上から見ると上方の板に穴が左右に二つ空いている。次に、中心から円形に広がる白が焦げ付いて金属製で網状の理科室にあるような遮熱板と3本脚の上に円形で内部がくり抜かれた感じの薄い金属で出来たバーナー用の三脚台。
それら計8点を机に並べて青年は説明し始めた。
「本当は、もっと大きなガラスとかを使うんだけど、初めてだからいつもより小さい容器でやってみるね。」
まず、少年が手に持ったのは金属製の三脚台と遮熱板だった。三脚台を自分の前から40cm程度まで引き寄せると、三脚台に空いている穴に遮熱板の焦げ付きが目立つ中心円を合わせて乗せた。
次に、三脚台の脚の隙間へコンロのような道具を引き寄せて入れ、土台から盛り上がっている複数の孔が開いてある部分に合わせるように三脚台を少し動かした。
そして、ビーカーのようなガラス製円筒容器を遮熱板の中心円の上に置き、その中に草を全て入れた。
「器具はこんな感じで置いてね。それから、《湧水》」
器具の配置を実際に置いて見せた青年は、微小な魔力を操作して草が盛り上がるようにして入っているビーカーへと水を注いで行く。
「水はここに書いてある線ぐらいまで入れてね。」
(魔力は、使えて当たり前なのか…)
少年がよく見ると、透明なビーカー内部に薄く線が引かれているのが確認出来た。
「水が入れ終わったら、この道具のここの石の部分に魔力を流して行くよ。」
コンロの土台側面には、赤色の直径10cm程度のサイズ感をした石が埋め込まれており、青年はそこに手を翳して魔力を流していく。
「あっ、そうだ。この下に温度計ってやつと時計、それとガラスの棒があるから机の上に置いておいてね。」
忘れていたとばかりに、青年は長机の引き出しからメモリが書いてある赤色の液体が中に入っている細長い棒状の温度計、懐中時計のような手のひらサイズの時計、ビーカーに入れても15cm程はみ出る長さのガラス棒を取り出してコンロから30cmほど離して置く。
「火はこのくらいになるように頑張って調節してね。あと、火の色は赤じゃなくて青にしたままで保って。」
コンロはその見た目に反し、バーナーのような火力とブォーという音を出しながら、青年の操る青色の炎が予混合燃焼しているかのごとく安定した状態で維持されていた。
「……青色にするにはどうしたら良い?」
ここで、コンロ土台の側面に摘みも何もない事に疑問を感じ、久しぶりに声を発する。
その声はか細く枯れて掠れ、しかし、青年には聞こえたようで、
「え?えーと、魔力を調節するんだよ。」
と、少年に話しかけられた事に吃驚したせいか、なんの説明にもなってない回答を返す。
(やってみないと分からないか…)
少年は一人胸の内でそう考えながらそれ以上青年に話しかける事なく見守った。
青年は途中で何度か中身を確認しながらガラス棒で中をかき混ぜながら、しばらく時間が経ってから、
「言い忘れてたんだけど、水がポコポコって弾けないように調節しながら、この時計の針が目盛り3つ分動いたら魔力を流すのを止めて火を止めて。」
そう言いながら、良い時間なのかコンロの火を消し、また机の引き出しからミトンのようなものを取り出して右手に装着すると、左手で2個用意した中で加熱する際に使わなかったビーカーと漏斗、そして漏斗台と布を自らの近くに引き寄せて、漏斗台の右側の下の板にビーカーを乗せ、漏斗台の上の板に空いてる穴に漏斗を通して置く。ビーカーの中の内壁に漏斗の尖った先端が着くように動かしてから漏斗に布を被せた。
「こっちの器具はこんな感じで置いて、温めた水をこの中に入れて行く。こんな感じで少しずつ上のガラスから水が溢れないようにね。」
煮出した草汁を、布を敷いた漏斗に通しながら少しずつ入れて行く。
液体が数滴残るがそれ以外の全量を入れると、今度は中にある濡れた草も漏斗の上に入れ、ガラス棒で押して行く。
「これくらい水を出せたら良いかな。」
そう言いながら、下に置いていた草の抽出汁が入っているビーカーを傾けながら漏斗台から離す。
そして、スライムゼリーの入った瓶の蓋を開けてとろみのあるスライムゼリー液を草の汁が入っているビーカーに注いで行く。
「この瓶で5目盛くらいスライムゼリーを入れたら、このガラスで混ぜる。」
入れた直後は暗い緑色であった液体が、ガラス棒で暫く攪拌すると色が明るく変化して行く。
「これくらいの色になったら、初級ポーションは完成だから別の入れ物に入れるんだけど・・・この容器に入れて、こっちの籠に入れる。出来上がったものは必ず瓶に何が入ってるか書いてね。」
少年にとってはお馴染みの手のひらサイズで試験管のようにも見える瓶と万年筆のようなペンを机の一番下から取り出し、出来上がった初級ポーションをビーカーから瓶に注ぎ入れ、こちらも一番下の机に入っていたコルクで蓋をしてから、それに「初級ポーション」と書いて行く。
そして、青年が作業していた長机の反対側の端っこに置いてあったトレーの中にある試験管立てに入れ置く。
「これで終わり。次は魔術具を教えるね。」