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16.呪術の再現と試行錯誤




 697番が寝て起きて研究して、を何度も繰り返した後のある日の事。

 趣味と実益を兼ねつつ個人研究していた呪術は、ある程度形になっていた。


 (【燃纏】)


 周囲の「思念」とも言うべき、魔力などに比べてやや粘着質に感じるエネルギーを体内に取り込んで、それを自らの体内で使用し易い形に整形しながら術を編んで行く。

 そうして術式が励起状態になると、本来ならばスライムに放り込み廃棄予定な、実験室より勝手に拝借もとい供給された素材の切れ端や廃材といった物目掛けて行使する。


 床が燃える可能性も考慮して、術の出力は抑え気味に調整。それから、燃えにくい素材として有名で重宝されている魔物の皮を下に置き、さらにその下に薄く伸ばした融点の高い金属のような物質を薄く伸ばしたシートを敷いて、慎重に効能を確かめる。


 ボウッという着火時の燃焼音の後には、ゆらゆらと揺れる怪しげな炎から音が鳴る事はなく、ただ静かに且つ着実に火の手を広げて着火した対象を燃やしていく。


 (【微風】)


 僅かに立ち上がる黒煙を魔術の行使により発生させた緩やかな風で散らして、部屋の角で影となる場所に気持ち寄せながら観察を続ける。


 (燃焼速度と範囲はある程度コントロール出来るようになって来たか。燃焼の持続力は流石呪術、魔術と比較するなら効率が段違いだ。)


 697番は、想定よりも順調な自らの成長を感じて内心喜びつつも、思考では次の成果を求める。


 (自分の内側にあるエネルギーと、外側にある使い用によっては有効に活用出来る莫大なエネルギー。両者間での擦り合わせにはまだまだ時間が掛かりそうか…。)


 自身の内側に意識を向けた際に感じる、身体中に拡散して行くかのような確かな疲労感。

 魔力を消費した際に生じる感覚と似ているそれは、しかし、同程度の量のエネルギー消費に比して気疲れという面ではずっと大きかった。


 (この、纏わりつくような嫌な感じも、慣れれば気にならなくなっていくのだろうか?)


 697番は、外部からエネルギーを取り込む際にどうしても生じる変換プロセスから被ってしまう、体内に滞留するドロドロとした物質が内臓に粘りつくみたいな感覚の気持ち悪さに辟易しながら、今後の方針を考える。


 (ほぼ文献通りに術式の再現には成功した。課題は山積みだが形にはなってきている。これで符を用いての術式が大体発動可能になった筈だから、呪術具の作成も可能な筈。他の術についてもこの調子でやれば、労力があまり掛からずに出来る事は増えていくだろう。)


 持って来た素材が燃え尽きて若干の燃え残りと灰になったのを見てからしゃがみ込んで、温度が下がるまで待つ必要もなく、敷いていた魔物の皮とシートに包むようにして折り畳む。


 (問題は、アンデッド造りの方だ。やはり最低でも文献が2〜3冊、いや4〜5冊は欲しい。だが、いくら探しても見つからない。この研究所がそういう研究に全く力を入れてないせいなのか?)


 ぐるぐると思考を回して何か画期的な案が出ないか今日も探すが、ここ数日と同様に結局は幾つかの固定された案が出るだけで、生産的な時間にはならなかった。


 (…やはり、活きの良い奴を無機物にぶちこんで、出られないように結界系の術式で閉じ込めて、そこに支配系の術式を編んで命令を聞かせるとかが現実的か?だけど、この方法だと効率が悪すぎて使い勝手が悪いんだよな……石とかに思念体を移しても正常に動作可能なのか全然予想がつかないから、実際にやってまた時に制御が一切効かないみたいな可能性も否定は出来ない。リスクが高過ぎるか。身体を幾つかのパーツに分けて使い易くするという手もあるが、可動域が不自由な身体で、そこまで器用な事はさすがに出来ないだろうし……。)


 暫くの間、あれこれ頭を唸らせていたが、いつも通りの手詰まり感が返ってくるだけで特に進歩らしい感触もなかったために思考を一旦中断し、切り替えるように顔を上げる。


 (まずは、物質的なアンデッドよりも霊質的なアンデッドの存在をつくる所から始めてみるか。霊的な存在でそもそもどんな挙動を示すかを知らない事には、そのまま進めて良いかの判断が付かないしな。)


 697番は、近くに居た適当なある程度新鮮で比較的穏やかそうな印象の霊に対し、自身の内側に由来するエネルギーを掛けて存在を強化していく。


 包み込むように優しく、壊れてしまわないように丁寧に。精密な制御に、いくら普段から魔力等の細かい扱いをし続けているからと言っても、身体に浸透するかの如く疲労は蓄積し、室温はそれほど高いとは言えないにも関わらず汗が噴き出る。


 (よし、外殻については固まった。後は、内部にある程度の流動性・自由度が残るように調整して…これで良いのか?)


 出来上がった存在は、付近に居る霊達と比較して優れた存在強度を視覚的にアピールしてくる。

 現世に蘇った訳ではない存在であるが、それでも物質に干渉可能であるのがなんとなく察せられる。


 (『---------』)


 (?言葉、いや霊が持つ思念か?)


 存在として強度が増したせいか、先程まで感じなかった思念のような者を697番は目の前の霊から感じ取った。

 故に、聞き取りづらい声や言葉に耳を傾けるように、霊に向けていた注意をさらに集中させた。


 (『痛い…』『苦しい…』『ここは…どこ……?』)


 (………………『その場で一回りしてくれないか?』)


 (『だれ?…わかっ……た…』)


 697番にとって意外にも、霊は従順にその場で一回転する。

 その後も幾つか指示を出して行動させたが、霊は予想を遥かに超えて完璧に動きを再現した。


 (この感じなら、次は獣の霊を呼び出しても大丈夫そうだな。どうやら、言葉で理解している訳じゃなく、思念から共有されるイメージによって行動しているみたいだ。)


 目の前で指示通り動いてくれる霊にホッとしつつも、どこか肩透かし感を覚えながらも考察していく。


(意志や自我、或いは本能が強すぎる場合はもしかしたら、こちらの指示を聞かないかも知れない。目の前のコイツは、こちらを主として見ている訳ではなく、自分の意識や無意識から来る命令と、俺がする指示との区別が付かずに霊体を動かしているように見える。)


 自分が考えつく現段階での行動を全て終了させると、暫くは自由にさせて、結果的に自ら主体性を持って動こうとはせずにただ只管プカプカと宙に浮くだけの存在になった霊の、存在自体を緩めるように操作して霊体を解していく。


 (『ありがとう、だいたい分かった。もう、戻って良いぞ。』)


 自身を構成する与えられたエネルギーを失った霊は、元の状態へと空間に溶け込んで戻って行く。


 (複雑な命令や、縛り付けるような命令でもしない限りは、実用可能なレベルで燃費が良いことが分かったのは大きな収穫だった。これなら、無機物系アンデッドなら案外なんとかなるかも知れない。)


 物事が進展しそうな気配を感じて、緩む口元を意識して引き締めてから、自身の魔術具を使用して部屋を出て実験室へと戻る。


 今日は久しぶりに良い日になりそうだった。

 

 

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