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15.課題と次の研究と




「漸く完成か……でもなぁ」


 697番は、遂に完成までありつけた筈の魔術具の作製に対して、達成感と共に徒労感を覚えていた。


 出来上がった魔術具は、「高等回復を行える魔術具」であり、本来ならば教会の威信を揺るぎかねさせないくらいの大発明・研究の成果であるはずだったそれは、結局のところ欠陥品であった。

 


 まず、素材の観点。

 希少で手に入りにくい魔物素材をふんだんに使用してのゴリ押し、つまりはコスト度外視の代物。

 

 そして、再現した術式と文字列と回路の点

 自身の研究の成果が凝集したそれは、その魔術具を造った自身ですら使えないくらいに馬鹿みたいな魔力量を必要とし、さらに加えて、魔力操作に感しても治療の際に的確な判断と魔力コントロールが出来るような人間でないと扱えない魔術具になってしまった。



 つまる所纏めると、

 適性が低過ぎて或いは何らかの要因で全く無くて、これまで使えなかったのが逆に不思議くらいな、優秀で外科的な知識のある、とある国の宮廷魔術師相当の魔力量を持っている存在が、高等レベルの回復魔術を魔術具を使用する事で使えるようになったよ!

 みたいなものである。


 それも、コストが高いから全員に与える訳には行かず、更にそんな需要なんて極限られ過ぎて、まさに無用の長物という酷いものであった。



「まぁ、だからこそ新しい研究なんだが…」



「司令書」と一番上に大きく書かれた複数枚の紙に書かれた指示内容を見ながら、面倒そうな内容に頭を抱えつつ考える。

 

 それは、今までやって来た魔術具の製造研究を無駄な物にしない為に、その技術を用いて、さらにそこへ新しい研究内容を加えることにより「外科的な基礎知識を学べば、誰でも高等回復魔術を、魔術具の使用により扱えるようにする為の研究」だった。

 もっとも、誰でもとは言いつつも、(魔力的なコントロールが魔術具初学者レベルよりは高度な腕前を持つ中級者手前くらいには必要とする前提の)誰でも、ではあるのだが。



 要するに次やる研究は、高等回復が可能な魔術具の普及において、ネックとなる魔力量の問題を解決するために、魔力電池的なもの=人工魔石 をつくる研究だ。


 テーマが「無属性人工魔石の結晶成長プロセスと製造法および命属性への変換」というものであり、「そもそも人工的に魔石を作る」のと、「出来た魔石を命属性に変換させて回復魔術具を使えるようにしよう」というのとで実質的に2つ分だった。

 さらに、魔術具製造部部長が責任者になっている事から、そこそこ力が入れられる予定である事、そして、自分の報告書が重役そうな存在の近くまで届いてしまう事等々、その事実だけで少年にとっては今から嫌な気分になるには十分な威力を持っていた。


 しかし、少年に追い討ちを掛けるように既に着手している無属性人工魔石の製造の時点でもう不穏な気配が漂っていた。


 そもそも無属性人工魔石について、今更新しいプロセスで作る意味はそこまで無いくらいには既存の先行研究が幾つかあるのだ。

 

 そして問題も既にハッキリとしており、第一に魔力充填時の消耗やそこから魔力を引き出す際のロス。そして、その不安定性によって起こる属性変換時の目的属性ではない副次的不純属性エネルギーへの自然変質等が主たる使用時効率の悪さの要因であり、その効率の悪さは、まだまだ単位の確立が曖昧である為にその殆どが研究者や被験者の体感にはなるが、最大効率でも大体充填に30%程度まで注入魔力の減少。それから取り出す際に受け取れる魔力まで加えると2〜3%程度。


 このことから、幾ら充放電のような事が出来るからと言って、そこまで万能でない事は容易に想像が着く。


 (既存の方法では、改良したところで効率が大幅に改善出来るまでにどれだけ掛かるか分からないからこその新しいプロセスの模索も含めてるんだろうが、魔物の素材や鉱物類でまだほとんど研究されてないような希少な物資を供給されてやる研究ならまだ分かる、だが、この紙に書いてある内容を見るに、なんとか供給も大量に見込める物でと言ってるようなものだから、そんな先人達に研究され尽くされてるような素材や条件で、果たして開発に成功する気が本当にあるのか?)


 厄介払いする為に誰かが少年を嵌めたのかを疑うレベルで無理難題な研究計画を見て697番の頭には疑問がグルグルと渦巻く。


 (命属性の魔石か…こっちに関しては需要が多少はあるのかも知れない。重役の側使えに居そうな腕利きの回復系術師が死んだ際に、繋ぎとして緊急用に使い捨て魔術具を持っておくのは十分にあり得る。だが、それなら値段は張るだろうが、高位魔物から取り出す魔石を使った方がまだ効能は安定するんじゃないか?長年生きた魔物の魔石は、魔力を取り出す際の効率が結構高かった気がするし。もしかして、無属性人工魔石については将来的に高位魔物の魔石の結晶構造を調べて模倣して人工的に造るための布石とかなのか?そんな事が出来る程度までこの研究室の文明レベルは高いのだろうか?……まぁ、数年やれば分かる話だな……)


 などと考えながらも手際良く今日の製造ノルマを終わらせて、後片付けももう直ぐ終わりそうな少年は、どんな条件から始めるのか考え始める。


 (最初の実験は、勿論時間経過による影響観察の為に放置時間を変えての実験・時間別の観察になる。次は温度…いや、濃度を先に変化させるか?過飽和状態にして結晶の析出をし易くして…先行研究では予め小さな種結晶を入れたりしてたからそれもやっておきたい。あとは、結晶の構造が綺麗になってそうな方が効率は良いのかな?攪拌させて不規則な形にした奴と効率を比較してみるのもアリだな。あとは…………)


 頭を巡らせて幾つか予定やすべき事メモに取り、後片付け後の報告書も纏めた697番は、この日は珍しく周囲と同様に眠りに入ることにした。

 そろそろ眠って頭をスッキリさせて明日へと備えてたかったから。

 そのため、順調に進んでる趣味且つ実益の研究は起きたら少し時間を取る事にして、意識を緩やかに暗転させ心地よい久しぶりの微睡みに浸りながら、明日の自分へと繋いで行く。

 

 


 

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