手取り足取り
「君、名前は?」
「佐藤 虎太郎です……」
「どこの学校に通ってるの?」
「え、っと、仁坂高校っすけど」
「何年生?」
「二年です」
「自分の長所と短所答えて」
――え、面接? これ、圧迫面接か?
面接受けたことねぇのに突然始まる尋問タイム。
教えてくれる? とかじゃなくて、答えてって……。
「俺、見た目、こんなですけど、意外と真面目――」
「ははっ、冗談だよ。晴眼の子の友達ってめずらしいなって思って」
ドギマギしながら一生懸命に答えたのに、めっちゃ笑われた。
すげぇ優しい顔して笑ってる。
というか
「せいがん?」
ってなんだ?
「ああ、目が見えてる人のこと。君が瑛二を助けてくれた子だよね。すごい嬉しそうに話してたよ。あいつ、ずっと暗い顔ばっかしてたからさ、ありがとうね」
俺の疑問に優しい眼差しのままで答えてくれるお父さん。
ずっと暗い顔って、大学生の彼女と別れたときに振られたのが瑛二のほうだったとか? なんて聞けるはずもなく
「いや、俺は別に……」
と答えるだけ。
「まあ、仲良くしてやって。一対一で話してみたかっただけだから、もう戻っていいよ」
ニコニコ顔でそう言われて、拍子抜けしながら俺は瑛二の部屋に戻った。
「なに? 大丈夫だった?」
部屋に入るなり、瑛二に心配された。
「うん、なんか、バイトの面接ってあんな感じなのかなって」
自分の場所に座って、未だにぼけーっとした感じで答える。
「え、なにそれ?」
千早からも聞かれた。
「うん、俺もよく分かんない」
圧迫面接のイメージが強すぎて、思わず、不良が抜けて素直に返事をした。
このあと、誰もそれに関しては聞いてこなかった。
俺、将来、面接、大丈夫かな……。
◆ ◆ ◆
ピピピピピッ、ピピピピピッ
しばらく勉強して、誰かのスマホのタイマーが鳴った。
「あ、僕、帰る時間だ」
まだ三時間くらいしか経ってないが、用事でもあるんだろう、千早が言った。
「瑛二のパパさんに玄関閉めてもらうから下まで来なくていいよ」
「そう? 気を付けて帰ってね」
こういう感じが小さい頃からこの家に来てるって感じがする。
階段の段数覚えてたり、玄関までの道覚えてたりするんだろうな、って。
「気を付けろよ?」
扉を出るところで俺が声を掛けると千早がピタリと動きを止めた。
――な、なんだよ?
「虎太郎、僕が居ない間に瑛二とイチャイチャしないでよ?」
振り返って、視線は合わないがすごい睨まれてる感じがする。
「何言ってんだ、バカか。早く帰れ」
はっ、と笑って見送ってやる。
イチャイチャするわけねぇじゃんか。
だって、俺と瑛二はお友達なわけだし。
「なんか疲れたな」
わちゃわちゃと騒がしいのが去って、少し疲れを感じた。
今日は結構集中して勉強してたし、ここらへんで休憩を、と思って、自分の鞄からグミの袋を取り出す俺。
「瑛二、口開けて」
「ん? なに?」
隣に言って、声を掛けると瑛二は戸惑いながらもそろりと口を開いた。
そこに紫色の丸いグミを軽く投げ入れる。
「っ! すっぱ! なにこれ!」
噛んだ瞬間、顔をしかめる瑛二。
「俺がいまハマってるやつ」
予想通りの反応で、俺はへへっと悪戯に笑った。
まあ、悪戯用っていうより、頭リセット用のグミなんだけど。
「千早にもあげればよかったな。いまのいままで忘れてて」
『スーパーすっぱい!!』とか書かれてるグミの袋を眺めながら、俺は言った。
千早も勉強頑張ってたし、どうせなら仲間に入れてやればよかった。
「本当、虎太郎っていい子だよね。――はい、俺も、これ、あげる」
ふっと笑った瑛二が、今度は自分のリュックからグミの袋を取り出して、一粒摘む。
――ん? これ、俺も手から食えってこと?
「ん」
そのままだと角度が難しくて、俺はグミを持った瑛二の手を優しく掴んで自分の口に運んだ。
「甘いな、これ。でも、美味い」
味に丸みのある甘いグミだった。
小さい子が好きそうな、そんなグミ。
形は星型だ。
「うん。もらって、ずっと気に入ってるやつ」
俺が手を離すと、瑛二はその部分にしばらく自分の手を添えていた。
優しく掴んだはずだったんだが、痛かったとか?
「ふーん」
なんとなく気まずくなって、そうこぼす。
誰にもらったとか、ちょっとは気になるけど、まあ聞かない。
そんな俺の目が点字の道具にとまる。
「それ、どうやって使うの?」
単純な疑問だった。
小学校で体験として使うところもあるっていうけど、俺はやった記憶がない。
「気になる?」
俺が聞いた瞬間、瑛二は食い気味でそう尋ねてきた。
なんで、そんな嬉しそうな顔してんだか。
「こっち来て」
「え、そこ座んの?」
とんとん、と瑛二の足の間を手で叩かれて、ちょっと戸惑う。