頭の中をぐるぐるぐる
あの日から、なぜだか瑛二のことが気になって仕方がない。
俺の返答、間違ってないよな?
瑛二も男だし、俺も男だし、俺は女の子を好きになったことしかないわけで……。
ちゃんと好きになった理由とか聞いたほうがよかったのか?
三日経ったいまでも頭の中をぐるぐるぐるぐる、それにあれ以来、お互いに連絡取り合ってねぇし。
「コター、帰り、日和と隣の駅に新しく出来たファミレス行くけど、行く?」
またガバッと後ろから美香に抱き付かれて、どきりとする。
――ちょ、胸が……。俺だって、男だってのに無防備すぎだろ……!
「りゅ、龍生は?」
頭を撫でられながら、なんとか尋ねる。
帰りのHRが終わって気付いたら、もう龍生の姿がなかった。
「バイトだって」
いつのまにか目の前に立っていた日和に両頬を摘ままれる。
「ひょっほ、はえおよ」
「虎太郎、ほっぺたモチモチ~」
ちょっと、やめろよ、と言ったはずなのに全然離してくれねぇ。
また小動物みたいとか思われてるんだろうな。
「コタ、最近、元気ないしさ。行こうよ」
「そうそう、アタシら相談乗るからさ」
後ろと前からそんなことを言われて固まる。
「へ?」
え、俺って、瑛二のこと気にしてんのそんなに顔とか態度に出てた?
「はい、行こ行こ」
衝撃を受けている間に俺は二人に挟まれながら気付いたら電車に乗っていた。
◆◆ ◆
「それで? 虎太郎は何に悩んでるの?」
結構でかめのチョコレートパフェを前に日和が尋ねてくる。
新しく出来たファミレスってことで良い感じに人が溢れていて、話しやすいといえば話しやすい雰囲気だ。
「悩みっていうかさ……」
ただし、そこで止まってしまう俺。
だって、これって仲良いっていってもこいつらに話していいことなのか?
「だいじょぶだって、ちゃんと聞くよ? うちら」
美香がパフェの上の部分をスプーンですくいながら言う。
まあ、ふざけてるようには見えないな。
「んじゃ、二人に聞くけど、初対面というか会って日が浅いやつに急に告られたらどうする?」
恐る恐るという感じで聞いてみる。
俺はてっきり顔や見た目がよければとか言われるもんだと思っていた。
「えー、それは断るっしょ」
「ごめんなさい、ってね」
美香も日和も微妙そうな顔でそう言った。
「やっぱそうだよな」
ほっとする。
俺の瑛二への返答は間違っていなかった。
会ったばっかで一目惚れしたって言われてもそうなるよな。
「なに? コタ、告白されたの?」
「嘘! ほんとに?」
突然、向こう側の席から乗り出すように美香と日和が言う。
パフェがガタンと揺れて、二人はすっと戻ったが
「嘘ってなんだよ。この際俺かどうかはどうでもいいんだよ。お前らはどう思うのかなって聞きたかっただけっていうか……」
俺はもごもごと尻すぼみになった。
「コタに告白するって、どんな人だろう?」
「だよね、虎太郎は可愛い系だもんね。クールな女子とか?」
どんどん勝手に話しが進んでいく。
「可愛いって言うなよ」
ここらへんで止めておかないとと思って言ってみれば
「コタ、人ってね、可愛いって言われ続けると慣れるらしいよ?」
なんて美香に言われる始末。
可愛いに慣れるって、どういう現象だよ、と思ったときだった。
――あ、れ……?
視線が大きなガラス窓のほうに吸い寄せられる。
瑛二が歩いていたのだ。
しかも、隣に俺くらいの背の男子がいる。
可愛い系ってああいうやつのことを言うんじゃないかって感じの男子だ。
じゃなくて、なんで、俺、なんかもやっとした?
瑛二が仲良さそうに知らないやつと歩いてるから?
そいつがちょっと俺に似たタイプの人間だから?
まだ俺に振られて三日しか経ってねぇのに、それっぽい男子と歩いてるから?
「ちょっと俺用事思い出した。足りない分、明日請求してくれ。それも食っていいから」
ガバッと立ち上がって、俺は千円札をテーブルに置いて鞄を持ち、美香と日和に言った。
「え、なに、突然」
「太っちゃうよう~」
そう言う二人を置いて、ファミレスを出る。
そして、ちょっと悪い気もしたが、瑛二と可愛い系男子の後ろから二人の会話を盗み聞きした。
「千早、誰にでも何でもやってもらって当然っていうのはよくないよ」
「いいじゃん、僕だってお姫様になりたいもん」
腕組みながら、二人で白杖持ってるってことはその隣の千早ってやつも目が見えないってことだよな?
「僕、瑛二大好き。瑛二は優しいし、背も高いし、いつもみんなにかっこいいって言われてるし、ほんとに僕の王子様」
キャピキャピルンルンという感じでさらに瑛二にぎゅっと近付く千早という男子。
やっぱり二人は付き合ってるのか?
「はあ?」
無意識に声がもれていた。
なんかムカッとする。
だって、三日だぞ?
そんな早く相手が見つかるなら、やっぱり俺のこと揶揄ってたってことだよな?
いや、俺もなに言ってんだって感じだが。
「瑛二!」
声を掛けずにはいられなかった。