93 『マザーシップ』到着
地獄・クリスト城(玄関)
「と、いうことで2人とも準備はできたかな?」
「うん!」
「だいじょ〜ぶ!」
今日は待ちに待った『マザーシップ』乗船日。エクサーもフォルテもワクワクを大解放。
「じゃあ、3人共。気をつけてね。特にエクサー。こういう場に行くのは初めてだから気を張っておくのよ。」
「うん(?)なんで?」
「このイベントは地獄の中でも大注目のイベント。そんなところに来るのは、地獄の中でも選りすぐりの悪魔たちばかり。そういうのに圧倒されてたら、笑われちゃうわ。だから気張っていくのよ。」
「わかった。」
「お姉様も気をつけてください。」
「大丈夫!エクサーの面倒もしっかり見るわ。任せといて!」
煌々とした星空。雲の一切がない空に浮かぶ赤月はいつもよりも強く輝いていた。
すると、馬の鳴き声が響き渡ると星の輝く空にワープホールが現れ、中から馬車がこちらに向かって空を切って向かってきた。
「来たようだ。」
馬車は6人の前にちょうど扉が来るように止まった。エクサーが学校見学に行く時に乗った馬車のグレードアップバージョンだった。あの時と同じ首が無く、炎を纏う馬が引っ張るのは、装飾が豪華になり後ろが見えないほどに長くなった、豪華絢爛にふさわしい黒と金を基調とした馬車だった。
「こんなのあったんだ。」
「まぁ、A2 がいるからこんな物用意する必要はないんだが、まぁ、このぐらい豪華なら威厳も出るだろう。」
あまり小さく、安っぽい馬車に乗って行っても、力のある悪魔達に舐められてしまうと考えたF,Dは豪華な馬車を用意したのだった。
「では、行くとしよう。」
A2が扉を開けると、エクサーは乗り込み、フォルテ、A2の順で馬車に乗り込んだ。
なんと中はフカフカの赤いカーペットや金色の家具。天井には簡易的ながら虹色を小さく反射するシャンデリアが飾られていた。この豪華さでもここは玄関ロビーのような役割の部屋だった。
「ほぇぇぇぇ〜。」
流石にエクサーもこれには目を丸くした。このクオリティならば全然住めるほどだった。入ったところでも満足のいく豪華さだったが、この馬車にはもっと先があるようだった。
「私も2回しか乗ったことないのこの馬車。すごいわよねぇ。ホコリも汚れも一切無い。テンション上がる〜!」
フォルテも馬車に入るとテンションがさらに上がった様子だった。
「奥にはベットルーム、シャワー室、ベットルーム。基本的にはなんでもある。時間はかかるようだから、遊ぶなり探検するなり自由に過ごしてくれ。」
「「は〜い!」」
「では、出発しよう。」
エクサーは窓を開けて、3人に別れの挨拶をした。
「じゃあ、行ってくる!」
「楽しんでねぇ〜。ハメを外しすぎちゃダメよぉ〜。フォルテも頼むわよぉ。」
「は〜い。」
F,Dは首の無い馬を撫でていた。
「頼んだぞ。安全運転でな。」
首は無くともしっかりと返事をした2頭の馬。F,Dにはすごく懐いているようだった。
「では、しゅっぱ〜つ!」
A2の掛け声で馬は走り出すと、それに引っ張られるように馬車は少し揺れ、動き始めた。
ーーーーー
馬は『マザーシップ』との距離を最短で結び、なるべく早く現地にたどり着くために空を進んでいた。
エクサーとフォルテは一通り広い馬車の中を探検した後、3人はソファに腰をかけ、テーブルを囲み、エクサーとピアノはジュースをA2は紅茶を飲んで話をしていた。
「楽しみだなぁ〜。」
「やっぱり楽しみかい?」
「うん!だっていろんな物があるんでしょ?」
「もちろん。『マザーシップ』の中にはいろんな施設が建設されている。遊園地なんかもあるんじゃないかな?」
「えぇ!楽しみー!」
「とは言ったものの。エクサー。S,Bが言ったように少し注意しながら生活してくれ。『マザーシップ』に来るのは、お偉いさんやなんらかの権力者だ。地獄ではそういう『力を持つ者は何をしてもいい』という風潮から変態が多い。こんな場所だ。闇取引が裏で横行している可能性だってある。」
「大丈夫よ、A2!そのために私がいると思ってもいいんだから。」
「この話はフォルテも対象だ。女性である君もなんらかの事件に巻き込まれてもおかしくない。いくら戦闘に対して経験を積んでいるとは言え、中には強力な『魔術』を持つものがいる。相性が悪ければ一発アウトだ。」
「わかった!」
「A2は目的があるの?」
「目的?目的はないが。直感的に面白いことがある気がする。」
「何それ。」
「ハハハ!内容はわからない。でも、生きる上、成長する上ではこういう『直感』が結構重要だったりするんだ。」
「そうなの?」
「まぁ、心に留めておいてくれ。」
「うん。」
「では、食事にするとしよう。食べ終わった頃にはちょうど『マザーシップ』の入り口についているぐらいだろう。」
3人は食事を取るために、馬車の後方に歩いて行った。
ーーーーー
A2の好みで鹿肉のレアステーキを食べていた。馬車の窓からは、瞬く星々のを飾る夜空と小さく柔い光を放つ街の美しい景色が見え、食事の幸福度はさらに増していた。
チンチンチンチンッ
3人がちょうど食事が終わった頃、部屋の中に鐘の音が鳴り響いた。
「おっ、そろそろかな?2人とも、降りる準備をしよう。」
どうやら、この鐘の音がなったわけは『マザーシップ』までの道があと残りわずかであることを示しているようだった。
3人は自分の荷物を持って馬車が停まるのをソファに座って待っていることにした。そして、数分後。だんだんと馬車は速度を落とし、ゆっくりと停止した。
「ではでは、2人とも警戒を忘れず、でもし過ぎず、楽しもうではないか。」
A2は到着を確認し馬車のドアを開けた。エクサーは荷物を持ち、馬車の外の景色を見ると、目の前には燦々と光を放ち、纏う、全貌が確認しきれないほどの大きさの飛行船『マザーシップ』とそれに乗り込む、悪魔達でごった返していた。
ーー終ーー