90 バーナボー
タルタロスが出てきましたが、3章のリンドとヴァットは天界に輸送される前に、一時的にここに置かれていました。まぁ、2人ともすでに死んでいるので特に何かあったというわけではありません。
地獄・クリスト城
翌日。エクサーのマザーシップに対するワクワク感は異様な昂りを見せていた。
「エクサー、なんでワクワクしてるです?」
「えぇ!わかる?」
「だって、なんかホワホワしてるです。」
次の教室に向かうクーとエクサー。クーは敏感にエクサーのワクワクを感じ取っていた。
「実は、今度大きめの旅行に行くんだ。」
「へぇ〜、いいですねぇ。どこ行くです?」
「フフフ、内緒。」
「なんでです!?」
エクサーは謎の子供心が発動してマザーシップという明言することを避けた。
「気になるです〜。」
「お土産買ってくるから。」
「絶対ですよ。」
「わかった。」
「そういえば、私も週末、親と旅行(?)に行くです。」
「そうなんだ。」
「旅行というかお仕事の手伝いみたいなものですけど。」
「そうなんだ。じゃあ、お土産交換できるといいね。」
「エクサーが買ってきてくれるなら私も買ってくるです。」
「約束ね。」
「あっ!ドラギナがいるです。」
「ほんとだ。」
2人が喋りながら廊下を進んでいくと、その途中に一枚の紙を見つめるドラギナがいた。1年半も時が過ぎているため、ドラギナの背丈は成長期と重なり160cmに乗り始めていた。
「ドラギナ〜。何してるの?」
「あぁ、父さんから伝言が来た。珍しいこともあるもんだ。」
ドラギナは手紙を読み終わるとすぐに弱い『ファイア』で焼き切った。
「手紙燃やしちゃうの?」
「ん?あぁ、父さんから読んだら燃やせと言われてるんでな。」
「そうなんだ。」
「ドラギナ。今から空きコマです?」
「そうだが。」
「じゃあ、少し早いお昼にするです。」
「そうだね。」
「そうするか。」
「何食べる?」
「今。私すごい辛いものが食べたいです。」
「いいな。中華系にでもするか。」
3人は学校の食堂に向かい、談笑を楽しんだ。
ーーーーー
地獄・最終監獄
最終監獄。地獄において許容しきれぬレベルの犯罪者を管理する場所。ここにいる犯罪者達の半分は、終身を言い渡された者。もう半分は、処刑が確定した者であった。
ここの管理者は、地獄において『断罪王』の名を冠するF,Dであり、F,Dは『level 666』の一員でありながら、代々受け継ぐ最終監獄最高責任管理者の側面も持っていた。
地獄に広がる大地の地下深くに形成された最終監獄は深層に貼られた超強力な結界によって一切の脱獄も許したことはなかった。加えて、管理は地獄だけでなく天界も関わる稀有な例だった。
「久しぶりだな。ログロード。」
「おっ。」
最終監獄へと足を踏み入れたF,Dは、昼食を食べている男の悪魔の元を訪れた。その男は、黒紫色の短髪に黒紫の軍服を崩したような服を着た背丈の高い容姿だった。
『ログロード』
最終監獄の最高責任管理者代理の地位を任された悪魔。緊急時以外の最終監獄の運営はログロードが行っていた。
ログロードはいきなりのF,Dの姿に手に持っていたスプーンを床に落としフリーズしてしまった。
「やれやれ。」
F,Dは手をパンッと叩くと、ログロードは我に返ってきた。
「お、お久しぶりです。F,D様。いやまさか、なんというか、いきなりのことでして、驚きで意識が飛んでしまいました。申し訳ありませんでした。では、改めまして。」
ログロードは椅子から立ち上がり、身なりを整えるとビシッと姿勢を正した。
「おかえりなさいませ。F,D様。貴方様のご帰還に備え、日々職務を全うしておりました。大変に嬉しく思います。」
「律儀だな。相変わらず。」
「もちろんですとも。貴方様の存在あっての私です。」
「バーナボーに用があるんだが、呼んでもらえるか?」
「かしこまりました。」
「すまんな。」
「バーナボー様。すみません。F,D様がお見えで、ご用件があるようです。至急お願いできますか?はい…はい…かしこまりました。ありがとうございます。失礼致します。お時間かかりますが、向かってくれるそうです。」
「わかった。」
「では、到着まで何か召し上がりますか?用意いたします。」
「頼む。」
「では、ソファでお待ちください。」
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30分後
コンコンッ
部屋のドアを誰かがノックした。
ガチャッ
部屋に入ってきた男は、かなり痩せ型でそのせいでシワの目立っている冷たい目をした悪魔だった。
「おう。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
「……」
男は何も言わずに2人に近付いてきた。ログロードが座っていたソファを譲ると、男はそこに腰をかけた。
「すまないな。バーナボー。いきなりの呼び出しで。」
「…構わない。…これ食べてもいいか?」
なんとも元気のない声で話を始めたこの悪魔の名は、『バーナボー・サンソン』。F,Dと同じく代々最終監獄での業務を務める者だった。バーナボーの役割は『処刑』。ただこの一点のみを忠実に冷酷に全うする悪魔だった。
「紅茶です。」
ログロードの出した紅茶を一口飲むと、バーナボーは勢いよくテーカップを机に置いた。
「どうした?」
「熱い。火傷した。」
「申し訳ありません。」
「構わない。熱い物は久しぶりなんで。」
「バーナボー。お前と話がしたかった。」
「『マザーシップ』だろ?めんどくさい匂いがする…」
「そんなことを言ったって、最終的にボーパロットの望みを受けたのはお前だ。」
「…そうだ。責任は持たねば。」
バーナボーは手に持った紅茶の水面に映る自身の顔と見つめ合った。
「準備はできてるのか?」
「妻とは連絡は取ってある。一度家に帰って荷物を持って行くと考えている。」
「わかった。お前がいない間の処刑は中止。その代わり帰ってきてからは忙しいぞ。」
「…問題ない。妻が手伝ってくれるらしい。」
「ログロード。すまない。砂糖をもらえるか?」
「はい。どうぞ。」
ログロードが角砂糖の入った瓶を机の上に置くと、バーナボーはこれでもかと角砂糖を紅茶に入れた。
「入れ過ぎ…じゃないか?」
「処刑場では何食ってもまずい。反動ってやつだ。」
「そういえば、A2からの情報だが『マザーシップ』で『サタンの頭部』が見られるかもしれないとのことだ。」
「なるほど…それが嫌な気配の正体か…」
ーー終ーー
ごめんなさい。少し投稿頻度が落ちます。
仮免の学科の勉強をいたします。