87 逆を知る
「この先だ。」
「ご苦労。」
5人は最下層のセルベロのいる場所までたどり着いた。そして、その先で見たものは地面に倒れたセルベロとエクサーの姿だった。
「セル!」
3人はセルベロが倒れていることを確認すると一目散に走っていった。I,Bとライダーの2人も歩いてエクサーに近づく。
「セル、大丈夫か?」
「あぁ、みんな。」
「ひどい、血だらけ。」
「魔力切れちゃって…」
「今治すわ。」
オクチオとオレッチオは2人がかりでセルベロに回復魔法をかけた。
「お〜〜い。エクサー、生きてる?」
「う、うん…一応。」
「なんで、傷治ってないの?」
「魔力回路…壊れちゃった…えへへ。」
「えへへ、じゃない。」
I,Bもエクサーに回復魔法をかける。
動けるぐらいに回復したセルベロはゆっくり立ち上がった。
「セル、杖なくていいの?」
「杖?あぁ、魔力と一緒に毒が0になったから苦しくない。だからいいや。」
「そう。」
「負けたのか?セル。」
「……うん。」
「そうか…」
エクサーもゆっくりと立ち上がる。セルベロとエクサーの両者が向き合い、険悪な場ができる。全員がそう思ったが、予想外にもそうはならなかった。
「負けたよ…勝てなかった。」
「うん。」
「どうする?煮るなり焼くなりするのは勝者の君の手にした特権だ。」
「…別にどうもしない。このままでいい。それに君たちの死を誰も望んでないんだ。だからライダーもI,Bも殺すという選択をしなかった。」
「そうか…」
「とりあえず、捕まえた町の住人を解放して欲しい。それでいい。」
「わかった。」
「…僕を恨んでる?」
「あぁ、君は仲間を殺したからね。この思いは僕か君のどちらかが死ななければ潰えない。」
「だよね…」
「でも、勝者は君だ。君に勝てなかった時点で僕はそれを内に止めるしかない。一旦この話は終わりだ。」
「保留ね。」
「だから、またいつかぶつけるよ。」
「じゃあその時も僕は勝者にならないと。」
セルベロは一周回って穏やかだった。恨みや復讐は潰えていなくてもエクサーが勝者である事実をしっかり理解していた。
「じゃあ、行こう。」
セルベロを先頭に住人の元へ歩いて行った。
ーーーーー
「やあやあ、みなさん!お助けに来ましたよ!」
エクサーは警戒心を吹き飛ばすかのような元気さで住人たちを解放し始めた。それでも、体力的には限界で空元気ではあった。
住人はゾロゾロとペペルへと帰っていった。それに続くように7人もペペルに戻っていった。
ー地獄・ペペルー
解放された住人たちは各々感動の再会をしたり、自由に歓喜したり様々な喜びを噛み締めていた。
住人たちはエクサーへの感謝を送った。だが、セルベロたちを見る目は明らかな拒絶を帯びていた。
「まぁ…」
「言わなくてもわかってる、ジジイ。俺たちの行いには相応の対価だ。」
「馬鹿に飲み込みが早いな。」
「皆の目は当然だ。俺も逆の立場ならそうする。俺たちは自分たちの周りを過剰に固めすぎたんだ。結果、全てに過剰に反応して、こうなった。俺たちに大切な誰かがいるってことは、傷つけた奴らにも大切な者がいる。そん逆にやっと気付いたんだ。」
「これから、どうするんだ?」
「わからん。ただ、俺含め、誰も元の鉄を踏もうという気はないらしい。そういうことだ。」
エクサーは人混みを掻き分けレストランの店主の元に走って行った。すると、ちょうど店主とその奥さんが出会う瞬間だった。
「ごめんなさいね…帰るのが遅くなりました。」
「あぁ、少し、本当に遅かった。」
涙を浮かべ店主は奥さんを抱きしめた。と、店主はエクサーに気づくと、涙を急いで拭き取り、姿勢を正した。
「ありがとう。皆を助けてくれて。」
「いえいえ、まぁ結構頑張りましたけど。」
「実は心のどこかでは、嘘だったんじゃないかと思っていました。ごめんなさい。」
「ハハハ、大丈夫です。」
「何か、食べますか?」
「じゃあ、あのサンドイッチを。」
「わかりました。いくつにします?」
「じゃあ、7つ。」
「7つですね、今。」
エクサーは急いでライダーの元に走る。
「ライダー、サンドイッチ食べない?みんなも。」
「サンドイッチか…食べるか。」
「ねぇ、みんなで食べよう。」
そう言ってエクサーはセルベロたちも呼んだ。
「いいの?」
「まぁ、まずご飯食べてからにしよう。」
7人はレストランに向かった。
「あらあら、こんなには入らないわねぇ。」
店主の奥さんは流石にこんなに店に入らないということで、テーブルを持ち出して外で食べることにした。
「お待たせしました。」
それぞれの前にサンドイッチが置かれた。
「いただきま〜〜す。」
腹ペコのエクサーは勢いよく食べ始めた。
「エクサー、美味しい。」
「でしょ?」
「美味いな。」
I,Bもライダーも認める美味しさだった。だが、セルベロたちは食べるのを躊躇っていた。そんな4人に奥さんは話しかけた。
「罪悪感もいいけど、まずは食べて。」
言われるがまま、4人はサンドイッチを食べた。
「「「「!」」」」
その美味しさに目をまんまるにした。
「あなたたちはまだ若いんだから、そんなに悔やむことはないわ。これからよ、これから。世の中にはあなたたちよりもっと悪い奴がいるの。誰も殺さなかったのだからあなたたちはいうほどには悪くない気がするわ。悪いけれども。」
「ごめんなさい。」
オクチオは頭を下げる。
「だから、いいのよ。悪は正義の原石。磨けば美しい宝石になるもの。」
「はい。」
「それよりも、一から始めるならお店手伝わない?私たちも歳だから手はいくつあっても足りないの。」
「どうする?セル?」
「やらせて貰おう。こんな優しさを捨てるなんてのはできない。」
「お願いします。」
「わかったわ。」
セルベロはエクサーを見る。
「ねぇ。」
「ん?」
エクサーは自分を指差す。
「そう。僕たちは一から始めるよ。だから、そのきっかけになった君には感謝を…」
「エクサー。」
「ん?」
「僕の名前はエクサー。だからそう呼んで。君じゃなくて名前があるんだ。」
「そうか…ありがとうエクサー。僕はセルベロ。」
「じゃあ、よろしくね、セルベロ。」
エクサーは肉汁でべちょべちょの手で握手を求める。
「ん……もう少し綺麗な手をお願いしたい…かな。」
「「「「「ハハハハハハハハハハ」」」」」
ーーーーー
その後…『ベレノ』は完全に解散。セルベロ、オクチオ、オレッチオ、ボッカの4人は店主の元で働き始めた。お店は、『ベレノ』の保有していた資産を使い、ペペル一帯で一番のレストランへと成長した。
最初、4人は住人たちからあまりよくない顔をされていたが、偶然にもどこかのギャングが街を襲った時に、それを瞬殺。そこから少し風当たりが変わり、4人の存在が抑止力になるということで町は少しずつ4人を受け入れていっていた。
ーーーーー
地獄・クリスト城
「あら、A2。エクサー、依頼を完了したらしいわよ。」
「ハハハハハ、よかったよかった。」
「I,Bはそのまま別れさせちゃっていいの?」
「ふ〜〜ん。用があるわけではないから別にいいんだが…呼び出しておいてくれ。」
「わかったわ。ん?」
「どうかしましたか?」
「珍しい、E,Mからの連絡よ。共有するわ。」
「あーあーあー、聞こえるッスか?」
「聞こえるわよ。」
「よかったッス。言われた通りに現地につきました。でも望みの物はなかったッス。」
「そうか…」
「力になれなくてごめんなさいッス。」
「いやいや、構わないさE,M。」
「オレ、これからどうするッスか?そのまま依頼を流してもらう感じでいい感じッスか?」
「いや、一度帰ってくるといい。」
「分かったッス。」
「よかったわね、E,M。ちょうどI,Bも帰ってくるわよ。」
「マジッスか!ベーちゃん(※I,Bのこと)帰ってくるんすか!急いで帰るッス!じゃ!」
「まったく、騒がしいな、アイツは。」
「いいじゃない。愉快で。」
「ではでは、皆を迎える準備をするとしよう。」
ーー終ーー
ということで終わりです。なんというかここだけの話、エクサーよく勝てたなって感じです。リンドとセルベロってスペックだけでエクサーと比較したら全く歯がたたないはずなんですけど、これを世の中では、主人公補正というやつです。ただし、この2人に勝っている点があって、それが『イカれ具合』ですかね。
次の次ぐらいにこの章の概要とキャラ設定をあげようか悩んでます。どうしっか。