84 やりたいこと
ー エクサー ー
「ぐ……うぐ…」
後ろに退くエクサー。
「避けずにか、まさか足掻きもしないとは。」
エクサーは地面に血を吐き出した。
「あ”あ”ぁ、僕には…家族がいたかも…わからないんだ。」
「何!?」
「普通に生まれたのだからいたんだと思う。でも…生まれてから孤児院にいたし…先生やシスター、神父様も教えてはくれない。多分、本当に何も知らなかったんだと思う…それがわかってから羨むことも知ろうとすることも全て捨てた…親が僕を捨てたとしても…死に別れたとしても、僕の手には…届かないんだ。だから、君の家族に対する思いはわからない。もしわかったとしたらそれは…偽物だ。」
エクサーはなんとか踏ん張って立つ。
「君の仲間を殺してしまって悪いと思っている。これがわかっていれば、僕は殺すことはなかった…」
「もう、遅いんだ。謝っても遅いに決まってる。」
「知ってる…だから、僕は君の攻撃を受けた。君の毒で僕は時期に死ぬ……でもね、」
エクサーはより一層踏ん張りを強め、セルベロを鋭い目線で貫く。
「ただでは死なない。もちろん足掻くし…もがく。僕は…やりたいことがあるんだ…それは『知ること』。君の家族への想いや、運命、真理や過去、未来さえも、可能な全てを知りたいんだ。少し前の僕だったら、君に申し訳ないと思って死を選んでいたかも…知れない…でもね、僕にやりたいことがある以上、僕が誰かに舵を切らせることはない。やりたいことに向かって、自分で生きる。これこそが『生』だ!」
エクサーは『アレクトーン』を取り出し、足を大きく踏み込む。
「だから!負けない!」
そして、爆発的な加速とともに、セルベロに突っ込んでいく。セルベロは口元に残る鮮血を袖で拭い、毒を固めた歪な剣を作ると、エクサーを迎え撃った。
「こっちの感情はお構いなしか?」
「もちろん関係ある!でも!さっきも言ったように誰かに舵は取らせない!それを押し通すために僕は足掻く!!」
先ほどとは打って変わって勢いで優勢を取るエクサー。毒に侵されているはずの体をまるで、何事もないと言わんばかりに動かす。
「ここだ!!」
エクサーは一瞬の隙をついて、セルベロの体を掻っ捌いた。だが、それも体を毒の液体に変化させたセルベロには効かず、剣はすり抜けた。
「甘い!それじゃあ僕を捉えられはしない!」
エクサーはそんな言葉を流し、次は剣でセルベロを貫いた。もちろんこれはダメージにはならなかった。
「これはどうかな!!」
すると、セルベロを貫いた『アレクトーン』の刃は明るく発光しだし、次の瞬間、爆発を起こし、セルベロを内部から吹き飛ばした。
ー I,B ー
(当たらない!)
オクチオはI,Bとの戦闘に苦戦を強いられていた。I,Bはことごとくの攻撃を見て避けていた。それもかなりの余裕を持って。それどころか、I,Bの攻撃は受けるばかり、体がボロボロになる一方だった。
「『裂風』!」
広範囲を吹き飛ばすほど出力を上げた裂風。オレッチオもこれには手応えを感じた。が巻き上がった砂ぼこりをもろともせず、突っ込んでくるI,B。まさに獲物を刈る目。これには流石に怖気付いてしまうオレッチオ。あまりにも勝てるヴィジョンが見えない。それどころか、このままいけば負けることは確か。それほどにこのI,Bは強かった。
「これで…終わり。」
I,Bはオレッチオを蹴り飛ばし、それに追いつき、魔力の一切を右足に送り、強烈な蹴りを叩き込んだ。
「久しぶりだけど、結構楽しめた。ありがとう。」
相当のダメージを負ったオレッチオは鳥の外見から元の姿に戻った。
「負け、私の。もう少し足止めはできるかと思ったんだけど。」
「そう?結構強かったけど…」
「ありがとう。素直に受け取るわ。で、どうする?殺すなら一思いの方が嬉しいのだけれど。」
「?。別に殺しはしない。再起不能なだけで十分でしょ?それとも元気になったら私をまたもう一戦やる気?」
「まさか。でも、殺さないとは驚き。」
「あなた、別に悪いやつってわけじゃないし。」
「そう。ねぇ教えて。私は大切なみんなを守れるぐらいには強い?」
「みんな?」
「家族たちってこと。」
「家族…あぁ、お仲間さんたちね。強いんじゃない?でもなんで?」
「あなたのような侵入者1人をガーディアンを使っても勝てないのよ私。」
「驕っているように聞こえるかもだけど、指標を私にするのはよくない。私に直接勝てるのなんて探した方が難しいかも。」
「えぇ、そんなものを信じると?」
「別に信じなくたっていい。」
「うふふ、でも、間違いでもなさそう。あなたなんでそんなに強いの?」
「う〜ん…」
I,Bは少し考え込んだのち、少しずつ顔を赤らめ始めた。
「好きな人…いるから。」
ーー終ーー