83 家族だから
ー エクサー ー
『気持ちがいい』
逃げに徹底したエクサーの体は熱を持ち、そこに少量の疲労やストレスをスパイスとして、集中へと昇華、さらにその先にある快感へとエクサーは没入していった。
リンドとの戦闘で偶然掴んだこの感覚にエクサーは再度、身を任せた。
(速い!)
セルベロも徹底的に追って攻撃をするが、かなり余裕を持って回避されていた。
エクサーはこの感覚にどんどん没入していることにより感じる快感に思わず無意識に笑顔を見てしまうほどだった。そしてエクサーの全感覚は一瞬、今のこの空間を超越するほどに研ぎ澄まされた。
全てが遅く見える中で、壁に着地している足を大きく踏ん張ると、感覚的に攻撃を間を素早く掻い潜り、セルベロが反応の一切ができないほどの速度の蹴りでセルベロを蹴り飛ばした。
時を一瞬超越するほどの一蹴。『マッハストライク』と呼ぶには十分の速度を持った技だった。
完全なる意識外からの攻撃により、蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられたセルベロ。部屋中の毒は一直線にセルベロの元に帰っていった。
「!」
攻撃が当たったことに喜びを感じたのも束の間、エクサーはその場に膝をついて苦しそうにし始めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
全てが止まったように見えたあの一瞬、エクサーは生命活動の基盤とも言える呼吸を捨てた無呼吸運動でセルベロを攻撃していた。枯渇した酸素の中で無理やり動かした体は身体中の細胞のいくつかを破壊し、その痛みが快感をも吹き飛ばし、エクサーを我に返した。
セルベロはぬるりと起き上がった。ダメージがないわけではない。ただ、許容できる一撃ではあった。
「まったく、気づけなかった…。君のポテンシャルは凄まじいな。魔術の壁を一撃で突破してくるとはね。」
セルベロはエクサーに向かって右手を向けた。
「でも、身の丈に合わない無理やりだったようだね。体が壊れてしまっているじゃないか。まったく、僕には好都合だけど。」
セルベロの背後から次々と出てくる毒は、話が終わると同時にエクサーに向かって勢いよく放たれた。
が、毒はエクサーの目の前で急停止した。エクサーは苦しいながらにセルベロの方に顔を向けた。セルベロの目や鼻口と言った顔の全てから、血が溢れ出していた。
よろけながら壁に手をつくセルベロ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、これだから、この体は好きになれない。」
エクサーはゆっくりと立ち上がる。
「見苦しいだろ?自分の毒で自分がやられてる。魔術なんて大層な物を持っていても、これなら持っていない方がマシなぐらいだ。」
「はぁ、はぁ。でも、君はそれに負けじと生きている。辛いなら諦めるkとだってできるのになんで?」
「あぁ、僕は家族を守らなきゃいけないんだ。」
「家族…」
「みんなが守ってくれるから、僕も守らなきゃいけないんだ。誰かが困っていたら、僕もって。そうやって誰も欠けないように身を寄せ合っていたんだ。でも、君はそれを壊した。ナソを殺した。家族を壊した!」
「…」
「君は家族を失ったことがあるか?」
「いや…」
「そうか…残された者には大きな失意がのしかかる。それから後悔がさらにのしかかる。誰かの死が生きる希望になるなんてドラマはよくある。だが、あんなものは幻想に過ぎない。多くは負の情を抱えて生きていく。そう言うものだ。」
セルベロは両手を前に出す。
「だから文句は言わず、僕の怒りを受け止めてくれ…僕だってもう苦しみたくはないんだ…」
セルベロは背後で、無数の結晶化した毒がエクサー目掛けて飛んでいった。これをエクサーは守ることなく全てを食らった。
ーー終ーー
感覚…感覚ねぇ… エクサーにとってはキーワードな感じがしますねぇ。わかんないけど。