81 もがく あがく
ー ライダー ー
「なんで?と言った顔だな。無理もない。」
「あぁ、なんで銃弾をこんなにいきなりヒットさせることができたか、それと防御魔法を効かせた体を貫けたのか不思議で仕方ないな。」
「ジジイの優しさで教えてやる。まず、お前の体を簡単に貫通できたのは、この弾丸が俺お手製の弾丸だからだ。気づかない一瞬で、弾丸を変えて打っていたんだ。気づかなかっただろ?」
「なるほどな。」
「では、どうして、弾丸を一度に多く打ち込めたか。中身は簡単。俺の魔術『反射』を使ったからだ。」
ライダーの身に宿る魔術『反射』。物体を任意の場所で反射させることができる魔術。反射回数は無限。反射の対象となる物体には、一定のスピードが乗っていることが条件であり、反射の数を重ねるほど、物体のエネルギー量は大きくなっていく。
「厄介ってことだ。」
「あぁ、だが、こうすればもっと厄介だな。」
ライダーは腰に下げられたもう一つの拳銃と手に掴み、両手に銃を持った二丁拳銃スタイルになった。
「ガキども、久しぶりなんだ。楽しもう。」
ライダーから圧倒的な威圧感が覇気となって空間を飲み飲んだ。
ー エクサー ー
「…」
セルベロの毒から逃げるためにエクサーは必死に動き回る。そのうちに攻撃の隙を見つけられるかと思っていたエクサーだったが、その圧倒的な物量の攻撃により、その隙が全く見えない。それどころか、増えていく毒の量によって、発生する毒ガスと、毒の当たった部分の腐食により、行動範囲が狭まっていく。
「チッ、」
舌打ちとともにセルベロは床を毒で埋め尽くす。これにより、エクサーの床に逃げるという選択肢が絶望的になった。
「マジ…」
無論、エクサーの脳はこの状況で勝てるなどという考えは放棄した。ここでエクサーはA2との会話を思い出す。
ーーーーー
「いいかい?エクサー。魔術という特異なものに関しては、魔力の放出にブレーキがかかりやすいと思ってくれ。」
「なんで?」
「魔術といえどもそれを使うには根本的には魔力を消費する。では、魔術を使用する上で持っても気をつけなければいけないのは…なんだと思う?」
「魔法と同じく魔力を使うなら…魔力切れ!」
「おしい!正解は回路欠損だ!」
「えぇ?なんで?」
「魔法であれば、よほどの無茶をしない限り回路欠損することはない。でも魔術に至ってはそうはいかない。魔術は魔法に比べて出力が何十倍にもなる。出力高い、つまりはその分魔力回路への負担も大きいというわけ。」
「なるほど!だから、魔力は残っていても魔力回路が壊れることの方が多いってことだね。」
「そうそう。だから、魔術を持つ者の体は、魔力の放出を体が勝手に制御するってわけ。それでも、たまに本当にブレーキがかかっているのかと思ってしまうバケモノも生まれる。そいつを見たら…観念って感じ。」
「えぇ〜〜!それだけ?」
「ハハハ、会ってしまったら運の尽きと思って足掻くなり、もがくなりしてみるといい。でも、何もしないは一番ダメだよ。」
ーーーーー
A2の言うようにセルベロのブレーキは効いているのかわからないほどの攻撃規模であり、エクサーは怪物を相手にしていると言っても全く差し支えがなかった。
だが、エクサーはA2の言った対処法を忘れてはいなかった。
(もがくなり、足掻くなり…)
それでもエクサーは壁や天井、魔法を使って逃げ回った。何もしないと言う無駄は絶対にしない。全神経を回避に振り、不乱に逃げた。
そんなエクサーを想定外の出来事が襲う。着地した足場が想定よりも脆く、足を踏み外したのだった。下は毒沼四方からのセルベロの攻撃。
逃げ場なし。
もちろん、セルベロもこの状況を見逃すはずもなく、逃げ場を塞ぎ、一気に仕留めにかかった。
「!」
だが、エクサーはなんとかこの状況から脱することに成功した。
セルベロは驚いた。あの状況で外傷なしで綺麗にこの場を脱する方法など考えうる限り皆無だったからだ。あの状況のエクサーは、まるで罠にかかった瀕死の獲物に等しく逃げるなどは到底に不可な状態だった。
エクサーから流れる一滴の汗。その汗とともにエクサーの雑念が全て体外へ放出。
エクサーは体の芯が温まる感覚と没入感を感じ、リンドと戦った時のあの集中感を再び感じていた。
ーー終ーー