76 覚醒
地獄・デロス・テンペルト邸(玄関ロビー)
「よう!」
聞いたことなある声に顔を上げるセルベロ。そこにはここにいるはずのないクーパーの姿があった。このあり得ない状況にはセルベロも混乱を見せた。
「俺、死んじまってよぉ。もう一緒に過ごせそうにはないんだわ。4人にはさっき言葉を残してきたが、セルベロには残せてねぇなぁと思ったら、こんな絶好の機会が用意されてた。セルベロ、お前はちょっと気は弱いが、皆を常を気に掛け続けることができる。これからの人生はきっと長い。あいつら4人はきっと道を間違えることもある。だから、そこでお前は気にかけて道を正すんだ。置いていくなよ。大変な時は力を借りろ。家族は見捨てない。頼んだぜ。お前にはそれができるって信じてるぜ。」
セルベロは涙を流した。
「おいおい、みんな泣くなぁ。別れに涙は無しってもんだぜ。」
クーパーの姿は段々と薄くなり始めた。
「おっと時間か…元気でな。血が繋がっていなくても俺たちは家族だ。最後に父さんって呼んでもほし…かった…n…」
そして、クーパーの姿は前から姿を消した。
「ん?」
テンペルトは何かを感じた。
「ク、クソッ、クソーーーー!!!!あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
猛き轟くは魂の怒号。怒りという言葉では到底足りないほどにセルベロは怒った。
セルベロは、テンペルトという本来の父親という事を完全には捨てきれずにいた。そんな思いが今、吹っ切れた。
そして、吹っ切れた思いと怒りはセルベロに眠る力を開花させるには十分以上の条件だった。
「父さん!!…」
ーーーーー
地獄・デロス・テンペルト邸(庭園裏)
「おい、どけよ。デカ物ども。」
「?」
クーパーが殺されて、いきなり大口を叩くボッカに流石にガードマンたちはいきなり過ぎて疑問を浮かべる。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
そして、ボッカが大きく叫んだ瞬間、4人を押さえつけるガードマンたちは何かにバラバラに切られた。
「おい、やるぞ。ナソ。」
「うん。」
一周回って怒りを通り越したナソとボッカは冷静になっていた。
クーパーが殺されたことに怒って何かに目覚めていたのはセルベロだけではない。ボッカもオクチオも内なる才能を現実に押し上げるには十分すぎる要素だった。
ボッカの両手は大きくなり爪が鋭く伸びていて、ナソの腕は縄のように自由に伸ばすことができるようになっていた。2人には魔術の才があった。ボッカは『強爪』。ナソは『縄』。
「ふっ、魔術のようですね。でも、所詮は今、発現しただけさらには子供。恐れることはないですが、悪い芽は摘んでしまわなくては。行きなさい。ルート、ルード。」
ルートとルードは素早くボッカとナソを仕留めに走り出した。
「2人とも待っててね。ちょっと行ってくる。」
ナソは未だ涙を流すオクチオとオレッチオに優しく微笑んで言った。そして、2人もルートとルードを迎え撃った。
1対1の衝突。魔術を獲得した2人は、格上だったルートとルードを完全に押し切っていた。
少しの力で腕をしならせ圧倒的な威力で攻撃するナソの攻撃は簡単な防御では到底事足りず、それでも致命的な攻撃を喰らうまいと防戦一方のルート。
ボッカは、後先を考えないほどの身体強化魔法を使い、スピード、防御、攻撃力共に圧倒的なステータスを手にし、ルードを切り刻もうと両手を振るった。少し掠っただけでも深い傷がつき、ルートは回復魔法を使ってなんとか攻撃の隙をうかがっているが、想像以上のスピードになんとか喰らいつくことしかできなかった。
そんな様子を見るオクチオとオレッチオの背後にワルダは息を殺し接近、腰に下げた剣を抜き、切り掛かった。
「ハハハハハ!後ろがガラ空きですよ〜!ブァーーーーカ!!!(※馬鹿と言ってます)」
キンッ!
まずは小さいオレッチオに切り掛かった剣は直前で刃が折れて飛んでいってしまった。オクチオとオレッチオは2人で『バリア』を展開し、防御をした。
「小癪ですね〜〜!」
ならばと、『ファイア』を打ちもうとした時、それよりも早くオクチオとオレッチオは『ファイア』を発動し、それを掛け合わせた『擬似インフェルノ』でワルダを焼いた。
「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ、熱い熱い!助けてくれ!助けてくれぇぇぇぇぇぇ!」
「許さない。絶対に。あなた達全員を一生許さない。」
「命令されただけなんだぁぁぁぁぁ!」
「そんな言葉、虫が良すぎる。」
「うあ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁ!」
「「とっとと死にやがれこの雑魚!」」
必死の命乞いを虚しく、ワルダは炎に焼かれた。
ーー終ーー