75 家族よ…
地獄・デロス・テンペルト邸(庭園)
「どこだ。」
クーパーが殺されそうになっていると聞いた4人は血眼になって探すが、庭園にそれらしき姿は見えず、邸宅の方からはドカーン、ドカーンという音が響いていた。
(この音、大丈夫なのか、セル)
と、オレッチオが邸宅の庭の裏にある扉が開いていることに気づく。
「お姉ちゃん。これ。」
「ほんとね。行ってみましょうか。ちょっと、2人とも〜来て〜〜〜。」
4人はその先へ進んで行くと丘へとたどり着いた。
「クーパー!」
オクチオの言葉通り、丘の上には木造の血が染み付いた台が用意されていて、その上にクーパーが座らされていた。
4人は急いで走って向かって行った。が4人は息を殺していた隠れていたガードマンに取り押さえさえられてしまった。
「っとっとっと、テンペルト様の言う通りでしたね。やはり来ましたか。」
クーパーのいる丘の上の台の横に誰かの影が現れた。
「私は、テンペルト様の秘書・ワルダです。君たちがここに来た理由はこの男を助けに来たのでしょう?ですがこの男は時期にテンペルト様の名を持って殺される。そこで黙って見ていろ。弱者が(笑)!」
そしてワルダがパンパンっと手を叩くと奥の両サイドからルートとルードが現れた。
「まったく、いつまで寝ているんですか。起きなさい!」
「グアァ!」
度重なる拷問で気絶していたクーパーをワルダは無理やり起こした。
「最後にお話の時間ぐらいあげますよ(笑)。どうぞ家族とやらの暖かな時間を(笑)。」
「「「「クーパー!」」」」
4人の声に気付き目を開けるクーパーだったが、拷問されたことにより、すでに両目を失っていて何も見えない状態だった。
「おぉ、その声は愛しの我が子たちじゃないか…見えなくともわかるぞ。セルベロはいないらしいが。」
クーパーは笑っていた。
「どうやら、俺の旅路はここで終わりみたいだ。最後はこんなんだけどよ、後悔はしてないぜ。なんでかって?それでも愛する子供たちと過ごせたからだ。ナソ、お前はまだ会ってから日が浅いが、家族だ。劣等に駆られる必要はない。お前は誰かと接することに長けている。強くなれるぜお前は。判断を誤るなよ。オレッチオ、可愛いんだなお前が。照れ屋なところとか負けず嫌いなところとか、出会った時は赤ちゃんだったのによぉ。もうすっかりお姉ちゃんに似てきたな。いずれは結婚なんて見たかったなぁ。オクチオ、頑張りすぎるなよ。お前はどうも溜め込む癖がある。そういうところはボッカと協力しろ。潰れちまったら守るものも守れないぜ。ボッカ、お前にはなんとなく既視感を感じてた。似てるからこそお前には共感できた。家族を助けてやってくれ。手を差し伸べてやってくれ。セルベロは…後でいいか。最後に楽しい時をありがとう。家族よ…」
「長いな。」
ルードとルートはクーパの心臓を2発の銃弾で撃ち抜いた。
「長いんだよ、話が。もっと簡潔に述べれないのかねぇ。」
ワルダは耳をほじりながら悪態をついた。
悲しみに暮れるオクチオとオレッチオ、そして泣きながら怒りの感情が湧きがるナソとボッカ。それも一瞬にして限界を突破し、怒りの叫びを上げた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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地獄・デロス・テンペルト邸(玄関ロビー)
「フフフフフフフフッ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!」
高らかと笑い声を上げるテンペルトその周囲には攻撃に巻き込まれた、見るも無惨な使用人たちと、テンペルトの見る先にいる倒れたセルベロがいた。
「笑えてくるなぁ!まったく、まったくまったく!どうして弱者ばかり一丁前の理想を口にするのだ!叶えられもしなことを堂々と口にするのは恥ずかしくないのか!そんなことを聞くこちらの身になっていただきたいね!」
テンペルトはセルベロを睨む。
「それはお前も同じだ、セルベロよ。願いだけも持ってここに来たお前も同じだ。醜い。血の繋がった我が子がこれほどまでに弱者だとは…」
事実、100%テンぺルトの息子であるセルベロ。実の子供であるセルベロへのテンペルトの対応はもはや、他人と捉えられてもおかしくない程の異常なものであった。だが、これはテンペルトが『実力主義』、そして平等ではなく『公平』を心中にしていたからだった。これが息子でなくとも同じことをテンペルトは行う、息子という特別扱いを断じて行わない『真の公平主義者』ではあった。
セルベロはなんとか起き上がる。
「な、なんで、言葉だけで解決させてくれないんだ。と、父さん。」
「ん?説明しないとわからないか?言葉で解決できるかどうかを決めることすら私が決めるのだ。それに異論があるのなら力でねぎ曲げれば良いのだ。」
「ゴフッ、カッ!」
無理をして立ったセルベロは吐血をして今にも倒れてしまいそうだった。
「ふんっ、おや、そろそろ時間か…」
テンペルトは腕時計をのぞいた。
「そろそろ時間かな。セルベロよ、見に行くか?」
「んん?」
テンペルトは悪意に満ちた笑顔をした。
「お前の大好きなクーパー処刑だよ!」
この言葉を聞いたセルベロはただでさえ力の少ない体からさらに力が抜け、視界が真っ白になるように感じた。
「弱いとはいえ、勝手に抜け出したとはいえ、市長の息子を許可無く息子を勝手に匿ったのだ。処罰対象だ。」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
セルベロの脳内はくちゃくちゃになっていた。自分が逃げなければ、自分があの場でクーパーを断っていれば…
自分が生まれていなければ…
「顔を上げんかいな、セルベロ。」
「!」
絶望で頭の中が埋め尽くされる中、セルベロはクーパーの声を聞こえ、顔を前に上げた。
「よう!」
そこにはクーパーがニコニコのクーパーがセルベロを見ていた。
ーー終ーー