73 覚悟
地獄・デロス・テンペルト邸
「帰ったか、ルート、ルード。」
クーパーの家に侵入してきた2人は、気絶したオクチオとオレッチオのそれぞれを抱え、食事中の市長・テンペルトの前に姿を現した。
「「……」」
「相変わらず、何も喋らんことだ。まぁ、いい。2人の少女を捕らえたのはわかるが、本題の息子はどこだ?」
「「……」」
「逃したか…まったく、まったくまったく、少し、お前たちにはがっかりだ。が、まぁ、いい。この2人をここに置いておけば、来る可能性もあるだろう。」
テンペルトは右手のナイフを置き、ナプキンで口元を拭いた。
「あの男、なんと言ったか。クーパーだったか、アヤツの処罰は明日実行となった。2人に任せぞ。まったく、まったくまったく、我が子を勝手に匿うとは、身の丈を弁えていただきたい。さきにアヤツに何故そのようなことを行ったかを聞くと、『家族になったんでな。』などと意味のわからんことを言った。まったく、まったくまったく、理解し難いな。」
テンペルトはグラスに入ったワインを一口。
「その少女2人。なかなか容姿は優れているようだな。1人は幼すぎるようにも見えるが、世界には理解し難き変態もたくさんいる。まったく、まったくまったくそういう奴に限って、金払いのいい権力者ばかりだ。だが、すぐには売れない。息子がここに来る理由になる。1週間は様子を見るとしよう。」
テンペルトは綺麗に何も残さず、食べ終えた。
「では、私はアスモデウス様へ祈りを捧げる。邪魔するでないぞ。」
テンペルトは服の中からサソリのネックレスを見える位置に持って来ると、足早に部屋を後にし、ルートとルードの2人はテンペルトに軽く頭を下げた。
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地獄・デロス・テンペルト邸(地下牢)
「お姉ちゃん…お姉ちゃん…」
「んん…」
誰かに呼ばれる声と揺らされる感覚を感じたオクチオは目を覚ました。」
「オレッチオ…オレッチオ!よかった!よかった!」
「お姉ちゃん…苦しい…」
「あら、ごめんなさい。」
無事だったオレッチオの様子を見たオクチオは強い力でオレッチオを抱きしめた。
「ここは、どこかしら。」
オクチオは辺りを見回すが、ただ石でできた鉄格子のついた牢屋だった。
「わかんない。」
「そうよね、わかんないわよね。」
「逃げ道でも探す?」
「そう…」
オクチオの脳内に燃える家の中でナソと交わした約束が流れた。
「いや…みんなを待ちましょう。」
「でも、お姉ちゃん。来るとは限らない。」
「そうね、でも待ちます。家族との約束だから。それに直感的にきっとくるわ。1週間でも1ヶ月でも待っていましょう。」
「う…ん…」
「大丈夫。お姉ちゃんがついてるわ。」
ガシャンッ!ガシャンッ!
すると、2人の耳に、金物を引きずる音といくつかの足音が聞こえてきた。
「「!!!」」
2人は牢屋に近づいてくる音の正体を見て驚愕した。
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地獄・あるどこか
「なるほど、なるほど。なんとなく家の構造と事情はわかった。それで侵入は…」
「多分、コソコソ侵入して行く方が見つかった時バレたらめんどくさくなる気がする。」
「同感。それにボッカも多分コソコソ行くのは性に合わない気がする。そもそも我慢できないかもしれない。」
「そうなの?ボッカ?」
「?」
「あぁ、できねぇ。」
「フォアッ!!!!」
てっきり2人で喋っている気、満々だったナソ。気付かぬうちにボッカは目を覚まし、セルベロは気づいていたがナソは完全に気づいていなかった。
「ボッカ、いつから起きてた?」
「家の構造の中盤あたり。」
「結構、聞いてたね。起きたなら言ってよ。」
「お前ら2人、なんか真剣そうだったからな。俺はあんまり頭を使うのが得意じゃない。」
「まぁまぁ、心臓に悪い。」
「で、どう思うボッカ?」
「この案で行こう。というか別の案を考えても結局、この案に落ち着く気がする。」
「じゃあ、これで行こう。」
「セル、大丈夫か?親に一発入れる覚悟はできたか?」
「…実を言うと結構怖い。でもそれよりも元の生活に戻りたいっていう気持ちの方が大きいんだ。2人がオクチオとオレッチオを助けるのに僕が燻ってていい理由なんてない。覚悟はできた。」
「じゃあ、2人には1つ魔法を教えよう。絶対に役に立つ。」
「わかった。」
「おう。」
ーー終ーー