72 危機
「ちょっと〜、誰か〜。お皿取ってくれない?」
「はいよ。」
「ありがとう。ボッカ。」
「ナソ、バター取って。」
「どこにあるんだ?」
「テーブルの上にあるはず。」
「ないように見えるが。」
「えぇ?さっき置いたはずなのに。」
「オクチオ。ここにある。」
「ありがとう。セル。」
「オレッチオ、料理はどう?」
「大丈夫。もうできる(ボソッ)。」
「じゃあ、みんな。席について。ご飯にするわよ。」
「「「「は〜い。」」」」
5人は台所にパンパンになりながらも仲良くご飯を作っていた。最近、クーパーの帰りが遅いということもありこういう機会が多く、最初のうちはゴタゴタで時間がかかっていたが、今では円滑にできるようになっていた。
「「「「「いただきま〜〜す!」」」」」
今日はクーパーに何も言われていなかったが、謎に帰りが遅いので料理が冷めないうちに5人で食べ始めることにした。
その間、たわいもない会話で終始和やかな空間が出来上がり、もうすっかり5人は兄弟、家族同然の関係になっていた。
「「「「「ごちそうさまでした。」」」」」
「さぁ、お皿洗っちゃいましょう。」
ご飯を食べ終えた5人は片付けに入ろうとしていた。
コンコンッ!
すると、家の扉を誰かがノックした。
「お客さん?」
「でしょうね。クーパーはなら帰ってきた時にノックはしないもの。」
「俺が出る。」
珍しい時間の訪問者。この場には子供しかいないということもあり、ボッカは少し緊張しながらドアを開けようとした。
この時、セルベロに走る嫌な予感。訳ののわからない漠然としたやめた方がいいという感覚。
ガチャッ
ボッカは恐る恐るドアを開けると、そこには、背が高く、軍服に近い服を着た、全く顔の同じ2人が立っていた。その2人は冷めた目でボッカを見下ろした。
「!」
セルベロはこの2人を見るや否や、青ざめて冷や汗を流した。
2人組はセルベロを見つけるや否や足並みを綺麗に合わせ、ボッカやナソを押し飛ばし、セルベロにの方に歩いて行った。
「痛った!何すんだ。」
オレッチオは怖くてオクチオの後ろに隠れ、オクチオもなんとかそれを守ろうと身構えた。
「この野郎やってくれたな。」
完全に頭に血が上ったボッカは、身体強化の魔法を使い、1人の方に殴りかかった。
「ぐはっ。」
だが、そんな攻撃も虚しく、簡単に交わされ、ボッカの腹に素早く一発カウンターを打ち込んだ。ボッカは壁を突き破り、隣の部屋まで飛ばされた。
「大丈夫か。」
そこにナソは急いで近寄った。
ボッカを殴った1人はキリッとすぐに元の姿勢に戻ると、オクチオとオレッチオの方へ近寄り、もう1人はセルベロの方に近づいた。
オクチオとオレッチオは、近寄ってくる1人にじわじわと後ろの壁まで追い込まれ、セルベロはその場から動けなくなってしまっていた。
そして、1人はオクチオとオレッチオの2人を担ぎ上げた。そして、もう1人もセルベロを掴もうとした時、
「セルベロ!」
ナソの言葉にセルベロは我を取り戻した。すると、セルベロを掴もうとした1人の足元に3発の『ファイア』を打ち込んだ。直撃させる気のない、目眩しが目的の『ファイア』は効果的だった。
「セルベロ、こっちに来い!」
流石にこの不意打ちに驚いた1人。そんな1人の先にいるナソの元にセルベロは走り出した。
「早く!」
ボッカの突き破った先の部屋にいるナソに向かってセルベロは走った。これに気づいた1人はセルベロを掴もうとしたがかなりの距離と火でギリギリのところでセルベロを掴み損ねた。
なんとか隣の部屋まで行くナソはセルベロの手を口よく握った。ボッカは攻撃で気を失っているようだった。
「今からどこかにワープする。いいな。逃げるぞ。」
「でも、オクチオとオレッチオは?」
「今のこの状況じゃどうしようもない。一旦逃げる。それは後だ。」
「でも、」
「現実を見ろ。今選択を誤れば全員死ぬ。今を見ろ!いいな!!」
「う………ん……」
「オクチオ!」
ナソは捕まったオクチオに向かって大きな声を投げた。
「絶対に助けるからな。絶対に。家族は絶対に見捨てない!!!」
ナソの方に近づく1人。
「行くぞ。」
3人はもう1人の前でどこかにワープした。
2人の男は顔を見合わせた。そして、1人がオクチオとオレッチオの2人を気絶させた。
そして、燃え盛る家は柱が折れ、家は倒れてしまった。
ーーーーー
バシャン!!!
3人は浅いどこかの川にワープした。
「プハッ!どこだここ。」
ナソは辺りを見回した。
「あそこに陸がある。そこに行こう。」
陸を見つけたナソは、3人を連れて陸についた。
「大丈夫か?セルベロ。」
「うん…」
ナソとセルベロは木や葉っぱを集め焚き火を作り、ボッカを木や葉っぱで作った即席のベットに優しく寝かせた。
「はぁ、なんなんだ。アイツら。」
ナソはなぜいきなり2人組が家に来たのかを考えだした。が特に面識があるわけでも近所にいるわけでもなかったので全くと言っていいほど見当がつかなかった。
「なんか知ってるか?セルベロ。」
「…あ…あの2人は…父の部下で…ルードとルートと言います…」
「ん?父ってことは街の市長の部下ってことか。あっ!なるほどな。なんとなくわかった。アイツらは父の命令かなんかでお前を捕まえに来たってわけか。」
「多分…」
「マジか…ってことは敵はお前の父さんで、ほとんど市ってことか。」
ナソは流石に頭を抱えた。まさか敵がこんなに大きいとは思ってもなかった。でもそんな落胆をナソはすぐにどこかに捨てた。
「でも、しょうがねぇ。あの状況で全員助かることはどう転んでも無理だった。切り替えるぞ、思考。」
ナソは自分の顔面を強く叩いた。
「セルベロ。」
「ん?」
「元気なさそうにしているところ悪いが今すぐそれを捨てろ。」
「うん…」
「とりあえず作戦を今から考える。セル、聞け。」
「うん(小声)。」
「俺たちはオクチオとオレッチオを助けなくちゃいけない。だからこんなところで感情に揺らいでいる暇はないんだ!。お前の父親の部下のなんとかって奴らが2人を連れて行ったなら、そこに2人はいる可能性が高い。」
うつむくセルベロ。
「なぁ、セル。そもそもお前はもっと早くから父親と腹を割って話さなきゃいけなかったんだ。でもお前はそれを放棄して問題を後回しにしてきた。だからこうなった!問題を先送りにしても問題の大きさがそれ以下になることは絶対にない!今の俺たちとの関係と父親との関係、どっちが良い?」
「今の方が…良い。」
「だったら、今腹を割って父親と話をしてこい!父親と俺たちは共存できない。どちらかを捨てなきゃいけないんだ。居心地の悪い父親に一発拳でも入れてこい!いいな。」
セルベロは後悔や責任、無力さ、などのさまざまな感情を涙として流した。
セルベロは一通り泣くと、今までの父親にされた事を思い出し、それを元に父親との離別の覚悟を胸に宿した。
ーー終ーー