70 もう1人
テンペルとの邸宅の応接間に姿を現したのは、グガットだった。
「今回来た理由というのも大きな意味はない。ただ、条件は前回と同じで良いかというものだ。」
「ええ、私が捕らえた市民を提供するので、また当選を約束していただきたい。」
「構わんさ。だが、少し問題がな。」
「と言いますと?」
グガットは、葉巻を吸い始めた。
「売買の情報が広まって需要がとてつもなく大きくなっている。」
「なるほど。では数を増やせということですか?」
「そうだ。それと…」
「はい?」
「今回は手筈通り行けば市長再選はできる。それで次期の話だ。新聞にああも大々的に行方不明に関しての記事を出されては、この街のみならず、地獄中からの冷たい目が刺さる。さらに住民としても捕まえすぎたが故、減少傾向にあるのは明白。それでだ。今回の市長就任をなんとか耐え抜き、時期は私の用意する別の街で市長をやってはみないか?」
「おぉ、それは本当ですか?」
「あぁ、お前の街を運営する力には富んでいる。それを評価してだ。」
「ありがたきです。」
「だが、それをするには今期を問題なく終えるしかない。善処することだ。」
「わかりました。」
「では、帰るとするよ。」
グガットは残りのタバコを大きな手で握りつぶし『ファイア』で焼き切り、灰にした。
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セルベロを匿って4日
オクチオとオレッチオがいつもの公園の砂場で遊んでいる中、ボッカと大きな布を被ったセルベロは近くのベンチに座っていた。
「ボッカは遊ばなくていいの?」
「砂遊びはあんまり好きじゃないんだ。」
「そうなんだ。」
「少しは慣れたか?生活に。」
「それなりには、みんな優しいしね。」
「そりゃそうだ。俺たちは家族だからな。お互いを支え合って生きていくもんだ。」
「でもボッカって家族なのに2人とは全然似てない。」
「あぁ、そうか。言ってなかった。俺は誰とも血が繋がってないんだ。血が繋がってるのはオクチオとオレッチオの2人だけ。」
「え?そうなの?」
「俺の父親は早くして死に、母もそれを追うように死んだ。そんな時にクーパーが拾ってくれたんだ。家族になろうぜって言って。それからオクチオとオレッチオもクーパーが見つけてきた。」
「でも家族なんだ。」
「俺も最初は家族ってクーパーに言われてしっくりこなかった。でもクーパーは「家族であることに言葉はいらねぇ。』って何回も言ってきてなんか気づいたら家族ってことを受け入れてた。」
「へぇ。」
「だから俺たちは血が繋がっていようがいまいが、家族なんだ。」
「なんて、いい話なんだ(泣)。」
「「!」」
ボッカとセルベロが話をしていた横から全く知りもしない少年が話を盗み聞きして薄い涙を流していた
「誰?」
「俺?俺の名か?俺のナソ。家出少年だ。」
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セルベロ、ボッカ、オクチオ、の後ろに隠れるオレッチオは集合して、ナソと名乗る少年の話を聞いていた。
「で、話をまとめると。トバルカイン魔法学校ってところに通っていたが、もっと強くなるために辞めて家出をしたと。」
「イェア、イェア。」
「勿体無ぁ〜い、私学校に行きたくて仕方なのに。」
学校に言っていたという事実に知識欲の強いオクチオは羨ましがった。
「別に悪いところだからやめたってわけじゃない。ただ、その方がかっこいいじゃないか。」
「「「?」」」
「僕は強くなりたいんだ。そして強くなった時に自分1人で強くなりましたって言った方がカッコいいだろ?」
「そうか?」
「別に僕は気にしないかな。」
「私も。」
オクチオの後ろで首を縦に振るオレッチオ。
「わからなくていい。君たちと僕たちとでは考え方が違うんだ。僕の人生の主人公である僕がそう思うのならそういう生き方をするのは当たり前さ。」
ぐ〜〜〜〜〜
ナソのお腹が鳴った。
「すまない。何も食べてないんだ。何か食わせてくれ。」
その場にナソは力無く倒れた。
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「ふんふんふんふんふ〜ん。食材を買って帰ってきたぞ〜。ただいま〜〜!ん?」
たくさんの食料を買って家に帰ってきたクーパーの見た光景は、今朝見た子供達の人数よりも1人多い様子だった。
クーパーは初めて見る少年に近づいた。
「君、誰?」
「あっ、初めましてクーパーさん。僕の名はナソ。家出少年です。」
「なるほど、なるほど。なんだこの状況は。」
「クーパー、とりあえずご飯できてるから座って。」
ということで昨日の晩よりも1人多い夕食が始まった。ご飯を食べながら、ナソは経緯を話し始めた。
「で、家がないから泊めてくれと。」
ナソは子供とはいえ、会っていきなり泊めてくれと図々しくも提案してきた。流石にこの図々しさにクーパーも断るかと思ったが、一つ返事でOKをした。
「困っているなら、どんどん頼ってくれ。俺たちは家族だからな。」
「えっ?もうですか?」
「あぁ、同じ飯を食えば家族よ。」
「ねぇ、クーパーこれ何?」
クーパーの買ってきた物をオレッチオと整理するオクチオは、謎の缶を見つけた。
「あぁ、それな。さっき買い物した時にもらったんだ。紅茶だと。」
「紅茶?」
「おや?紅茶を知らないのかい?」
「「「知らない。」」」
「ではまず、やかんに水を入れて沸騰させよう。」
「わかった。」
オクチオはやかんに水を入れ、マッチで火をつけようとした。が、湿気でマッチがダメになってしまっていた。
「えぇ〜嘘でしょ。さっきはなんとかなったのに。」
「おやおや、魔法を使えないのか。誰も。」
「「「「うん。」」」」
「やれやれ。」
ナソは人差し指の先から小さな火を出した。
「わぁ〜。」
オレッチオは、ナソの出した火に目を輝かせた。ナソはその火をゆらゆらと指先から離し、やかんを沸かし始めた。
「すげぇ〜。」
ここにいるナソ以外は、ろくに魔法を教えられずに育ってきたので、ナソが簡単に魔法を使っていることは物珍しかった。
「朝飯前だよ。皆は魔法を使えないようだ。もしよければ教えてあげようか?」
「「「いいの?」」」
「構わない。だって便利だからね。」
「やった〜。よかったわねオクチオ。」
「じゃあ、明日にで練習しようか。」
「「「は〜〜い。」」」
子供達の仲睦まじいこの光景にクーパーは嬉しくて涙を流して見守った。
ーー終ーー