69 裏の顔
地獄・デロス
「ただいま〜っと。ごめんよ〜、帰ってくるのが遅くて……、ん?」
いつもより、遅い時間に家に帰宅したクーパーの目には、いつもの可愛い我が子3人とソファで、横になる少年がいた。
「おかえり、クーパー。」
「だ〜れ?その子、お客さん?」
「ちょっと前に公園で遊んでた時、倒れてたから拾ってきて、今風呂に入れたとこ。」
「なるほど、なるほど。えらいぞ〜、ボッカ。人助けとは。」
「みんな、とりあえず、ご飯できてるから食べましょう。」
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「オクチオ、さすがだな。どんどん腕が上がってるじゃないか。」
「定期的に作っていれば、腕も上がるわ。」
「フフフ、誇らしい。オレッチオもお姉ちゃんの料理は美味しいか?」
「美味しい。」
「そうか、そうか。」
「アイツ、誰なんだ?」
「目を覚さないことには、どうしようもない。何か事情があるのだろう。」
そんな会話をしていると、タイミングよく少年が目を開けた。
「お、起きた。」
クーパーは、少年に近づいた。
「大丈夫か?」
「クーパーどいて。」
「はい…。」
特に様子を見るだけで何もしないクーパーをオクチオはどかし、少年に水をあげた。少年は、弱々しい動きで水を飲むと、4人の食べている料理の方を見た。
「何か食べたいのね、ボッカ、1人分持って「もう持ってきてる。」
「ありがとう、ボッカ。相変わらず早くて助かるわ。」
オクチオはご飯を少年に上げると、また、弱々しくご飯を口に運んだ。
一通り、ご飯を食べ終えた時、クーパーは色々少年に聞き始めた。
「えっと、ぼく?名前は?」
「名前は、セ、セルベロです。」
「なんで、こんなボロボロだったんだ?」
「父の元から逃げてきたんです。」
「逃げる?なんで?」
「父は権力を使って人身売買をしています。さらってきた子供や女性を家の地下に監禁し、誰かに売ったりしていて、父の息子である自分もその対象でした。父が私欲に任せて僕に振るう、暴力や虐待。それに耐えきれず、僕は力を振り絞って家から脱走しました。」
「ひどいわね。」
この話を聞いたクーパーは、謎の野生の勘が働いた
「セルベロ。」
「はい?」
「聞いていいのかわからないが、父の名は?」
「……父の名は、テンペルト。この街の市長です。」
「「「「!」」」」
なんとなくそう感じたクーパーだったが、まさか本当にそうだとは。
「クーパー。これは思った以上に大きな話よ。」
「あぁ、わかってる。」
流石に汗を流すクーパー。数年前から増加しているデロスの行方不明者の数。これの根幹は市長であるテンペルトによるものだったとここで発覚した。
少しの間考えたクーパーは口を開いた。
「セルベロ。お前は、街を巻き込むほどの大きな話の中心にいる。この今のしがない1市民ではお前の役には立てそうにない。」
セルベロはせっかく脱走できたにも関わらず、やはり自分を助けてくれる者は簡単には現れないと感じ、落胆した。
「だが、しがない1市民でもできることはある。しがない1市民でも子供1人なら匿うことぐらいならできる。セルベロ、お前はこのしがない市民の象徴クーパーの名を持って守る。心配するな。いざとなったら市長に一発『爆裂・市民パンチ★』をお見舞いしてやる。」
相変わらずのお人好しに、ボッカとオクチオはやれやれと言った顔をして止めることはなかった。それは、この3人もクーパーのこのお人好しで命を救われたからだった。
この日から、少しリスクを背負いながらの5人での生活が始まった。
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地獄・デロス・市長邸
あれから場所を変え、演説を2回したテンペルとは家に帰るや否や客人が来ていることを聞き、足早に応接間に走って行った。
「お待たせしてしまって申し訳ありません。」
「何やら、バタバタしているような。」
「えぇ、実を言うと我が息子が逃げ出しましてね。」
「それは大変だな。」
「いえいえ、そんなことはありません。その気になればと言うやつです。」
テンペルトは腰を下ろした。
「では、話をしようか。今期に選挙について。」
「はい、お願いします。グガットさん。」
上座に堂々と座っているのは、グガットだった。
ーー終ーー