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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 4章 『復讐の毒花』
71/208

 68 過去


 10年前 地獄・デロス市


 この街は安定した街という評価を受ける街で、特別、街の経営が悪化したり、良くなったりすることはない。そんな街だった。ただ1つ問題を抱えていた。


 デロスの中心にある大きな公園。いつもは散歩している者達や親子連れで賑わっていたが、今日は特に賑わっていた。その理由は、この場にデロスの現市長・テンペルトが姿を見せていたからだった。


 「では、みなさん!市長・テンペルト、直々の演説を聞いていただきましょう。」


 公園に設置された壇上。その裏にある階段を一歩一歩踏み締め、デロス市長・テンペルトが姿を現した。


 長い手足に、司教を思わす少しダボっとした服、それにどこか冷たさを感じる顔に笑顔を貼り付けた悪魔。それこそがテンペルトだった。


 テンペルトの演説集会に集まった者達の歓声は凄まじく、テンペルトの姿を見るや否や、多くの拍手と市長コールが響き、テンペルトはそれに応えるように手を振った。


 一通り歓声を浴びたと感じたテンペルトは、振っていた手を皆に見えるように握ると、皆は一斉に静かになった。


 「ん”ん”ん。」


 テンペルトは咳払いをした。


 「皆皆、我が市民よ。次期市長選挙がいよいよ近づいてきた。今回は他の候補者も手強く、接戦を強いられている。だが、これは悪いことではない。新しい風は新しい変化をもたらす。他の候補者達がこの街を私よりもよくする可能性は大いにある。」


 すると、テンペルトは一枚の新聞を取り出し、表紙を大衆に見せた。


 「これを見よ!」


 その表紙にはデカデカと、『デロスで行方不明が爆発的に増加!その理由とは!?』と書かれていた。


 「これは今日の地獄新聞だ。私はこれを見て、自分の無力さを痛感した。自分の街で日に日に行方不明者が増えていることに。これは、私が就任した次の年、9年も前に始まった話だ。私はそれから選挙のたびに行方不明者の対策を考え、実行したが、まだ実りを掲げることはできていない。私に投票する者の中には被害者の遺族達もいるだろう。そんな者たちが私を信じて入れた一票を私は踏み躙っている。申し訳ない。本当に。いつまで経っても結果を出せない私に愛想を尽かしてしまう者もいるだろう。」


 テンペルトはの言葉に市民は悲しみの顔を浮かべた。


 「だからこそ、私に投票をお願いしたい!!虫がいいのは百も承知だ。だが、私の張り巡らせた糸はもう少しで結果を捕まえてくる。そのためには私は絶対に次期選挙を勝たなくてはならない!!」


 この言葉に集まった支持者達は、顔を一変、明るくさせた。


 「皆よ!期待をしてくれ!私は絶対に問題を野放しにはしない。解決してみせる。私は、強い!だからこそ、あなた達市民を脅かす不安を取り除いてみせる!!どうか、このテンペルトに一票を!!!!!」


 確固たるテンペルトの発言に感化された支持者は、大きな声でもう一度市長コールをした。


 「ありがとう、ありがとう。」

 

 テンペルトももちろんそれに応えるように手を振り、壇上の裏へと姿を消した。


 「テンペルト様、お次の会場は少し遠くになりますが…。」


 「構わないさ、歩いていくとしよう。」


 部下が次の演説会場の場所を言われると、テンペルトは次の会場まで歩いて行った。


 ーーーーー


 「いくぞー!」


 デロスの小さな公園。それで3人の子供がかけっこをしていた。


 「よーい、どん!!!」


 一斉に駆け出した3人。1人の少年悪魔は一番に抜け出し、その後を少女の悪魔が追った。さらにそのあとをもう1人のさらに幼い少女が追った。


 だが順位は変わらず、1位は少年だった。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、勝てない〜〜!」


 「オクチオ、まだまだだな。」


 2番で到着した少女の名はオクチオ。そして、1番で到着したのはボッカ。最後まで頑張って走っていたのはオレッチオだった。


 「オレッチオもすごいな。俺が同じ年の頃よりも早いぞ!」


 「うん。」


 順位は最下位ではあるもののボッカに褒められたオレッチオは嬉しそうにしていた。


 オクチオは公園にある時計を見た。


 「もうこんな時間。帰る時間ね。」


 「よし、じゃあ、競争だ!」


 「えぇ、今走ったばっかりじゃない。」


 「よーい、どん!」


 遊び盛りのボッカは、なりふり構わず家のある方向に走っていった。順位は先ほど競走をした時とは変わらず、オレッチオは頑張って2人の追いつこうとした。が、ここで、オレッチオは何かに躓き転んでしまった。


 「「あっ!」」


 ボッカとオクチオが振り返った時には、転んだオレッチオは泣いてしまっていた。


 このオレッチオを急いで助けに行く2人。だが、それよりも早くオレッチオを助けた者がいた。


 「大丈夫かな?」


 それは、市長・テンペルトだった。テンペルトは次の場所に歩いて向かっている今、偶然に転んだオレッチオを見つけ助けに来てくれたのだ。


 「どれどれ、痛くない痛くない。」


 テンペルトはオレッチオに手をかざすと、オレッチオの膝の傷がみるみる治った。


 テンペルトとオレッチオの元に2人は追いついた。


 「あの、ありがとうございます。」


 「いえいえ、いいんですよ。市民を守るのも市長の役目です。」


 「市長?もしかして市長のテンペルトさんですか?」


 オクチオは見かけによらず、毎日新聞を読むほど知識欲があり、テンペルトについて知っていた。


 「まさか、こんな小さな女性にまで知られているとは、感激です。」


 オレッチオは足が治ったことを確認すると、急いでオクチオの後ろに回った。


 「オレッチオ、しっかり挨拶して。」


 「ありがとうございます(ボソッ)。」


 「いいんですよ。では私はこれで。気をつけてくださいね。若き体は大切にしなくてはなりませんよ。」


 テンペルトはニコッと3人に笑みを見せると去って行った。


 ーーーーー


 デロス・3人の家


 少し、年季の入ったボロい家に3人は足を止めた。

 

 ガチャッ


 「おかえり〜我が子達。」


 家のドアをくぐると同時に、あるガタイのいい男が3人を力強く抱きしめた。


 「ご飯はできてるぞ〜。食べよう!」


 この男の名はクーパー。3人の父親(仮)だ。3人の親は早くして死に、孤児となっていた3人をこのクーパーが拾った。クーパーはお酒大好きの男。少しガサツさは目立つが裏表のない優しい悪魔だった。


 4人がボロい机に腰をかけると、机の上にはパンとスープが用意されていて、4人は談笑をしながら食べた。


 「ねぇ、クーパー。さっき市長さんに会ったの。」


 「市長?あぁ、テンペルトのことか。」


 「そう。オレッチオが転んで怪我したのを回復魔法で治してくれたの。」


 「ヘンッ!なーにが回復魔法だ。俺だってその気になれば使えるわ!」


 「何、対抗心燃やしてんだ、大人気ない。」


 「何!ボッカ、対抗心なんて言葉、どこで覚えた!」


 「オレッチオが教えてくれた。」


 「そうか、そういう小さい学びが大切だぞ!だが、俺は断じて対抗心など燃やしてはいない!もう一度言う断じて対抗心など燃やしてない!」


 「クーパー、食事中よ。大きな声出さないで。」


 「はい。ごめんなさい。(しょぼん)」


 酒が入っているとは言え、この会話。子供達の方がよっぽど大人な対応ができた。


 夕食を終え、ボッカはシャワーに行った。


 「おっ!そうだそうだ。オクチオこれ買ってきたぞ!」


 酒に酔って、少しフラフラになりながら、クーパーはオクチオに紙袋を渡した。オクチオは何かとワクワクして開けると、中には一冊の本があった。


 「えぇ!買ってきてくれたの?」


 その本は、この前オクチオがクーパーと行った本屋に置いてあった一冊の本。オクチオはこれを欲しそうに見つめていたことをクーパーはもちろんわかっていて、買ってきたのだった。


 「ありがとう!クーパー。でも高かったでしょ?」


 「ちと高かったがな。まぁ、子供に金がかかるのは当たり前だ。気にするな。」


 「うん!ありがとう!」


 オレッチオも本には興味津々で覗き込んでいた。


 「オレッチオも後で一緒に読みましょう。」


 「うん。」


 ーーーーー


 翌朝


 カンカンカンッ!


 「んあ?」


 ベットで爆睡のクーパーの鼻提灯はフライパンをお玉で叩く音で割れた。


 「朝食、できたわよ。クーパー。」


 「もう朝か。ハァァ〜〜。」


 大きな口を開け起き上がるクーパーは、朝食に向かった。


 新聞を見ながら運ばれてくる料理をクーパーは口に運んだ。ボッカとオレッチオはまだ寝ているらしく、早起きのできるオクチオは朝食担当だった。


 「オクチオ。」


 「何?」


 「これから外で遊ぶときは、少し注意して遊べ。」


 「?。なんで?」


 クーパーがオクチオに見せた新聞にはこう書いてあった。『デロス市 行方不明者の割合を市長が公表 7割が子供 人心売買の可能性 浮上』



 「お前達が攫われる可能性は十分にある。俺が仕事に言っている間は当たり前だが、もし、お前達が攫われても助けることはできない。だから少し警戒感を強めて過ごせ。」


 「わかった。」


 「じゃあ、仕事に行ってくる。今日はちょっと遅くなる。」


 クーパーは荷物を持って、仕事に向かって家から出て行った。


 ーーーーー


 それから、午後


 ボッカとオクチオは警戒感を強め、周囲を気にしながらもいつもの公園で遊んでいた。


 「ん?」


 「どうしたの?ボッカ。」


 「あれ。」


 ボッカの指を刺す方向に、ボロボロに服を着た少年がトボトボと歩いていた。


 「大丈夫かな?」


 と、少年はいきなりその場に倒れ込んだ。


 「助けた方が良さそうだ。」


 「オレッチオ、おいで。」


 呼ばれたオレッチオは急いでオクチオの方に近づいた。3人は少年に走って行った。


 「大丈夫か?」


 ボッカの言葉に返答はない。少年からは少しキツイ匂いがした。多分まともに風呂に入っていないのだろう。さらには、ひどい傷。新しい傷から古い傷まで、多くの傷があり、ところどころ膿んでいたり、瘡蓋になっていたりした。


 「とりあえず、このままって訳にもいかないよな。」 


 「えぇ。」


 「持って帰るか。」


 ボッカは匂いを我慢しながら、少年を担ぎ上げ、家に帰った。


 ーー終ーー


 

 




 


 






















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