61 激昂
セルベロの顔は真顔でエクサーを見つめたが、それは確かな殺意や復讐心を宿していた。
そんな目で見られたエクサーの感じる危機感は、より強くなっていった。
「セル、好都合って奴だぜ。ここでコイツを殺せば復讐は完了だ。」
絶対にまずいこの状況に汗が吹き出したその時。
『紫毒晩餐(cena avvelenata)』
セルベロは自身を中心に体から分泌された毒を、さまざまな攻撃方法にしてエクサーへと打ち込んだ。
セルベロからの気配の微妙な揺らぎを見抜いたエクサーは、回避行動に入ろうとしたが、その圧倒的攻撃範囲と予備動作が無い攻撃に呆気なく攻撃を喰らうことになった。
(やばい…なんだこれ)
エクサーへと放たれた毒の性質は完全にバラバラだった。粘性が強く、体に纏わり付くものや触れた瞬間体に沁み込み、激痛を感じるもの、一瞬で気化するものなど、多くの種類があった。
時間経過で攻撃の範囲、威力、毒の量、共に増えていき、まるで、毒の洗濯機の中にいるような感覚になっていった。
攻撃が止み、部屋中の毒が全て主人の元に帰ると、そこにはギリギリ立つことのできているエクサーがいた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
毒に侵され呼吸もままならずに、それでも倒れることの無いエクサー。もう触れば倒れてしまいそうな状態だった。
「このクソが…あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!」
セルベロはいきなり癇癪を起こした。そして、エクサーを凄まじき形相で睨みつけると、無数の毒の針を作り出し、エクサーに向かって放出。毒に侵され、意識の朦朧としているエクサーは攻撃を喰らい、無力にその場に倒れた。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
さらに激昂しているセルベロは毒を使い、有りとあらゆる技を繰り出し、部屋中はカオスに。セルベロは狂乱状態になっていた。
「やばいぞ。オクチオどうする?」
「止めるしかない。あれほどとは思っていないかった。」
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
セルベロの叫び声が大きくなればなるほど、攻撃の規模がどんどん大きくなっていった。
「ボッカ、行くわよ。オレッチオ、あなたはナソを殺したアイツを見ていておきなさい。」
「うん。」
一方のエクサーは僅かな意識の中で、なんとか逃げられる方法を探していた。フルオートの回復魔法はなぜか発動せず、自身がどんどん毒に侵されていっていた。そんな中で逃げる方法は運任せの『テレポート』だった。
魔力も魔力回路もおおよそ問題はないが、毒による脳へのダメージが問題となり、おおよそ『テレポート』が使える回数は2回。それも上手くいっての話であり、もしかしたら、使えない可能性すらあった。それでもエクサーは使った。
オレッチオがエクサーを捕まえようとした瞬間、エクサーは一度目の『テレポート』に成功。
アジトの外に脱出することができたが、そこには運悪く、『ベレノ』の構成員が3人ほどいた。
「なんだ?こいつ。」
「ガキだな。」
「侵入者か?とりあえず、捕まえて報告すれば。」
「金がもらえるかも!」
「おい、ガキ。ちょっとごめんなぁ。」
1人がエクサーを捕まえようとしたが、その瞬間、エクサーは2回目の『テレポート』に成功した。
「おい、どっか行ったぞ?」
ーーーーー
2回目のエクサーのテレポート先は、名もなき荒野だった。そこに不自然に倒れ込むエクサー。モンスターが襲っていても抵抗できない。そんな中でエクサーの意識は彼方へと飛んでいった。
そんな場所に何かが近づいてくる音がした。
ガタガタガタガタ
モンスターが走る音ではなく、ガタガタといった車輪が地面を進むような音。
砂ボコリを上げ、エクサーに向かってくるそれは、2体の馬に引っ張ってもらっている馬車だった。しかし、それに高級感は全く無く、屋根も無く、ただ後ろに積荷がおけるぐらいの質素な馬車だった。
その馬車が意識を失ったエクサーの前に止まると、馬車に乗っていた1人の悪魔が降りてきて、エクサーの側に立った。この悪魔は、カウボーイの服にカウボーイハットを被った、西部劇を感じさせる、年老いた男の悪魔だった。
その悪魔は履いているブーツでエクサーをツンツンし、返答がないと知るや否や、魔法でエクサーを浮かせ、荷物の乗った荷台にエクサーを少し雑に置いた。
そして、どこかに走り去っていってしまった。
ーー終ーー
セルベロの狂乱の攻撃を3人はどうやって防いだの?ということですが、普通にバリアで守りました。厳密に言うと、誰よりも早く気づいたオレッチオが自分と2人にバリアを貼りました。しかも超ギリギリでです。