59 ガーディアン
地獄・ベレノアジト
「ありがとう。侵入者さん。」
「!」
エクサーの背筋は凍るような感覚を覚え、冷や汗が流れた。
完全に油断をしていた。あまりにも敵意を感じないがため、警戒も緊張も緩んでしまっていた。
「何をそんなに警戒しているんだ?僕は何もしないよ。」
やはり敵意を全く感じない。エクサーには次第にそれが不気味に感じ始めてきた。
「なんで、僕を警戒しないの?」
エクサーは思わず聴いてしまった。
「君が侵入者だろうと無かろうと。僕は、君を侵入者だからといって排除することはしない。それは僕の役割ではなく別の者の役割だ。それに君は悪いことをしていないしね。」
少年はまた別の花に水をやり始めた。
「ところで何しに来たんだい?オレッチオの目を潜れるということは、並では無いようだし。誰かを殺しにでも来たのか?」
(オレッチオ?名前か?)
「いえ、ペペルという場所をあなた達が襲った時に攫っていった住人たちを助けに来ました。」
「君はペペルの住人なのかい?」
「違います。『level 666』の所属です。」
「あぁ、聴いた事あるよ。裏の引受人だ。」
「そうです。」
「でも、街とは全く関係ないじゃないか。まぁ、仕事と言われたそれまでだが。」
「えぇ、でも話を聞いて独断で依頼を受けました。」
「優しいね。君は。余計に僕が手を下す意味がなくなってきた。」
「侵入者ですよ?僕は。」
「知っている。でも何もしていないんだろ?盗んだわけでも、誰かを殺したわけでも無いのに。」
「まぁ。」
「じゃあ別にいい。ただ中に入ってくるなら虫と一緒だ。そんなに気にする事じゃない。それとも殺されたいのなら話は変わるけど。」
花に水をあげ終わった少年は、エクサーを置いて部屋から出て行こうとした。
「どうすれば、住人を返してくれる?」
「ん?」
少年はエクサーの方を振り返った。
「あぁ、そうだったね。君は住人を解放するためにここに来たのか。」
少年は少し考えた。
「着いてきて。」
そう言うと少年は、部屋を後にし、エクサーはそれに着いて行った。
ーーーーー
迷路のようなアジトは来た道すらもわからないほど複雑で、それを難なく進む少年にエクサーは後ろから少しだけ感心していた。
「着いた。」
扉を開けると先には大きな広場が広がっていた。
2人は中に入ると、上からいきなり何か大きな物が落ちてきた。
「ガーディアン!」
エクサーの前に立ちはだかるのは、『ガーディアン』と呼ばれる、黒い岩が集まって形をなす『魔法生成モンスター』。だが、このガーディアン、は通常とは異なり、全身に水色のラインが入っていた。
「研究者、オレッチオが作り出した。超戦闘特化タイプの試作品、第一号と第二号。君がこれに勝てる実力ならば、住人は解放しよう。理由なく解放もいいんだけど…後でボッカに怒られたくないからね。」
流石は戦闘特化タイプの名を持つ、それほどに対面した時の圧がすごい。
「さぁ、さっさと始めよう。」
2体のガーディアンは、大きな足音と共にエクサーにゆっくりと近づいてきた。
ここまで来たらやるしかないエクサーも腹を括った。
エクサーは『フライ』を使い、宙に浮きガーディアンの周りを飛び始めた。
巨体を持つガーディアンにそれほどのスピードはなく、飛び回るエクサーに大きな拳を振るうが、全く当たらず、エクサーは一方的にガーディアンに魔法を放った。
少しよろけるガーディアン達だったが、すかさず反撃。2体は目からビームを出し、エクサーを追った。これにはエクサーもスピードを上げ、飛び回った。
(『ライトニング』)
飛び回るエクサーは一瞬スピードを緩めたかと思えば、電気を残し、姿を消した。
姿を完全に消したエクサーをガーディアン達は追うことすらできずにいる中、辺りには電気が立ち込め始める。
探し回るガーディアン達だったが、刻々と部屋中に電気が充満し、バリバリと音を鳴らし始めた。
すると、部屋中の電気が2体のガーディアンの頭上に集まり始めた。この状況に2体のガーディアンは上を向くと、エクサーの姿があった。
高らかと片手を上げるエクサーに集まる電気。ある一定の電気量が集まった時、電気は『槍』の形を成し、エクサーはそれを握った。
電気により髪の毛が逆立ち、下を見下ろすエクサーは、勢いよく『槍』を下に向かって振り下ろした。
凄まじき放電すらを纏い、振り下ろされる『槍』。これに気づいた2体のガーディアンは、目からビームを出し抵抗を試みるが、衝突ののち、あっさりと『槍』に打ち負け、そのまま2体に直撃した。
直撃した瞬間、轟音と共にとてつもない放電で部屋が揺れ動き、アジト内の電気が一時的に停電を起こすほどの規模の攻撃。無論、この攻撃にガーディアンが耐えられるはずもなく、粉々に破壊された。
エクサーはゆっくりと下に降りた。
「いやぁ、すごいな。君。」
そんなエクサーに少年は近づいてきた。
「戦闘特化タイプなどと言ったものの、これではまるで嘘だ。だが、うん。住人は解放しよう。」
「えっ、ほんとに!」
「うん。君は力を持つ側の者であり、振るう側の者でもある。そんな君を僕は認めるよ。これからも出し惜しみなく、力を振るってくれ。」
「?うん。」
「じゃあ、ちょっと準備を…。」
バンッ!!
エクサー達のいる部屋のドアを勢いよく誰かがこじ開けてきた。
現れたのは、気の強そうな女に、根暗そうな女、そして、ここに来る時に出会ったあの大きなガタイのいい男だった。
「どうした、2人とも?」
少年はそんな3人と顔見知りだったようだ。
「どうもこうもないぜ、セル。ナソを殺った奴が、こんなところにお出ましだぜ。」
何のこっちゃ分からないエクサー。でもこの言葉が自身を指していることをなんとなく理解した。
「セル、ナソがやられた場所に残っていた魔力性質とそいつの魔力性質が一致した。間違いない。そいつがナソを殺した。」
白衣を着た根暗っぽい女の悪魔が言った。
「どうするの、セルベロ。」
エクサーは、セルベロと言う名を聞いて血の気が引いた。最大で警戒しなくてはいけない悪魔と一緒にいたのだから。
この会話を聞いたセルベロからは、隠そうともしない絶対的、純度100%の殺意が漏れ出ていて、睨むを通り越して、真顔でエクサーの方を見た。
ーー終ーー
文の中で書こうと思ったのですが、どうも入れられそうになかったのでここに書きます。
最後の方に「ナソがやられた場所に残っていた魔力性質とそいつの魔力性質が一致した。」と書かれていますが、ナソが殺された事実を確認するためにトバルカイン魔法学校に侵入しています。これにはトバルカインだけが気付いていましたが、何か問題を起こすわけでもなく帰っていったので、トバルカインは見逃しました。
魔力性質というのは、名前の通り、個人個人にある魔力の性質のことです。性質は絶対に誰かと被ることはなく、みんなバラバラです。
魔法を使うとそこに魔力の跡みたいなものが残ります(時間経過で消えます)。今回みたいに跡が原因でバレることがたまにあります。