5 明日は学校見学
地獄・クリスト城
「エクサー、明日学校見学に行くから。」
その言葉にエクサーは目を丸くした。
「基礎的な部分を理解するなら学校に行ったほうがいいし、何より友達ができる。」
「そうよ〜。学校に行けばもしかしたら、私みたいに愛する人ができるかもしれないわよ〜。ねぇ〜。」
そう言ってS,BはF,Dの方を見た。
しかしF,Dは見られているとわかると目を逸らした。
「とりあえず、明日行ってみよう。学校にはすでに話をしてある。」
「わかったよ。」
「では、お開きと行こうか。」
全員が席を立ち上がった。A2がエクサーに話しかけた。
「エクサーすまない。部屋に送ってあげたいところだが、2人と話があるんだ。」
とF,DとS,Bを指差した。
「だから部屋までは、ピアノに案内してもらってくれ。ピアノ頼めるかい?」
「かしこまりました。」
「えぇ〜、ずる〜い。」
それを聞いたフォルテが羨ましそうに言った。
「フォルテにはまたお願いするよ。」
「絶対だからねぇ〜。」
「ということでピアノ、頼むよ。」
チーンという音が鳴るとエレベーターの扉が開いた。
「それじゃあ、エクサーまた明日。」
「じゃあねA2。」
二人が乗り込み、扉が閉まった。
「お部屋は43階になります。」
「わかりました。」
「その…なんとお呼びすればよろしいでしょうか。」
少し恥ずかしそうにピアノがエクサーに聞いた。
「エクサーでいいですよ。堅苦しいのは嫌ですから。」
「わ、わかりました。それではエクサー下に行きますので、気をつけてください。」
「あっ、」
エクサーはすっかり忘れていた。このエレベーターがいかに速く移動するかを。
エクサーはグッと目を瞑ったが、下に行くどころかゆっくりと上に上がっていた。
「あの、下じゃないんですか?ピアノさん。」
「ピアノで構いません。」
「わかりました。ピアノ。なんで上に上がっているのですか?」
「矢と弓のようなものです。より素早く矢を放つには強く弓を引く必要があります。それと同じです。」
「へぇ、そうなんですね…え、じゃあ、」
「お気をつけください。」
キンッという音がするとエレベーターがものすごいスピードで下に下がりエクサーは大の字に天井に張り付いたと思ったらチーンという音と共に急にエレベーターが止まり、エクサーは下に落とされた。
「着きました。43階でございます。大丈夫ですか?エクサー。」
「痛ったー。」
「慣れるまでは大変ですので、頑張って慣れてください。」
ピアノが手を差し伸べるとエクサーはピアノの手を握って立った。すると、エクサーの頭に電流が走ったような痛みを感じた。
「痛っ。」
「どうかされましたか?」
少し心配そうにピアノがエクサーの方を見た。
「今一瞬、頭に痛みが。」
「頭を打ったからでしょうか?しかし、大丈夫です。人間に比べて自然治癒の速度は格段に速くなっています。多少の怪我ならすぐ治ります。」
「そうなんですね。」
エレベーターの扉がゆっくり開くと、終わりの見えない廊下に多くのドアがあった。
エクサーはピアノについて行くように歩いた。
「こんなに部屋があるんですねぇ〜。」
「どれが僕の部屋ですか?」
ピアノは不思議そうな顔をした。
「ここ全てがあなたの部屋ですよ?」
「?」
「先ほど言いましたようにお部屋は43階でございます。」
「43階に部屋があるのではなくて?」
「この階、全てがあなたの自由に使える場所なので、お部屋は43階と言いました。言葉足らずで申し訳ございません。」
「いやいやいや、僕の想像力が足りなかったというか、理解が浅かったというか。まぁとりあえず、この部屋でいいですよ。」
「かしこまりました。」
エクサーがエレベーターから一番近いドアを開けると、ベッドやクローゼット、ランプなど最低限のものが置かれていた。しかし孤児院に比べれば文句のつけようのない部屋だった。
「必要なものがあればまた言ってください。用意いたしますので。それでは明日の朝また迎えに来ます。おやすみなさい。」
そう言ってピアノはドアを閉めて出て行った。
エクサーはベッドに転がると何も考えず目を閉じた。
ーー終ーー
クリスト城
・赤と黒を主な色として着飾っている城。
・豪華でありながら、その城の形はところどころが歪であり、来訪者に若干の抵抗を植え付ける。
・階層は、玄関である1階と食事をする最上階が固定であり、その間の空間は、ほとんど無限階存在している。
・階層は日付を超えるとバラバラに組み替えられ、昨日の4階がいきなり、32階に変わっていたりする。(階の中身は一切変動しないため、基本支障は及ばない)
・上記は防犯対策を理由としているが、ただただA2がこの城を作った際、手順を端折ったためによくわからないことになっただけ。
・一度、A2に恨みを持った悪魔が城に乗り込んできたが、城が階をランダムに決めることを知らず、半年ほど閉じ込められて死んだと言う話を持つ。