57 お助け
地獄・ペペル
目を覚ましたエクサーは今日の依頼を確認と準備をして店の下に降りて行った。
優しき店主はエクサーに簡単な朝食を作ってくれてエクサーはこれを食べ終わると、店から出て行った。
「っと、こっちで合ってるよなぁ。」
エクサーは依頼現場へと向かった。
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「ここかぁ〜。」
エクサーがたどり着いた場所は、多くの生物達の生息する草原だった。
(『スコープ』)
『スコープ』遠くのものを鮮明に見る魔法。
エクサーの見た先にいたのは、サファファというサイのような生物でサイと違って体毛に覆われていた。
このサファファという生物、近年、密猟者の影響で個体数を急激に減らし、地獄に存在する動物保護の団体からサファファを狙う者を排除してくれと依頼を受けていた。
排除という言葉は直接的ではないが、基本的には抹殺を意味するためサファファを襲う者がいたら殺せという依頼だった。この依頼にエクサーはなんで殺す必要があるんだ?と思ったが、深入れはするなとA2に言われているため指示通りに動くことにした。
サファファは少し動いては草を食べ、少し動いては草を食べの繰り返しだった。一見つまらないように感じるこの時間、エクサーにとっては結構面白い時間だった。
「ん?」
といきなり、サファファの近くで不自然に草が揺れ動いた。
見間違いかと疑ったエクサーだったが、姿は見えずとも確実にそこには何かがいる。
エクサーはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねると、足に魔力を送り、爆発的なスピードでサファファに向かって走って行った。
近づいていくエクサーにははっきりと見えた。攻撃の瞬間姿を現した数人の悪魔に。
「『グラヴィティ』!!」
『グラヴィティ』の射程圏内にギリギリ入った悪魔達をエクサーは地面に叩きつけた。
「ぶおおぉぉぉぉぉ!」
これに驚いたサファファは急いでこの場から走り去ってしまった。
「あっぶなぁぁぁ〜。間に合った〜。」
「なんだ…お前…」
「う〜〜ん。何って言われても答えられないかな。」
「「「「「ぐあぁぁぁ!!」」」」」
エクサーは『グラヴィティ』の威力を強め悪魔達を地面に押し付け、耐えられなくなった悪魔達は重力で潰された。
「ふぅ〜。」
意外と早く終わってしまった依頼。別にすることもないのでエクサーは帰ることにした。
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地獄・ペペル
この時間のペペルは観光客で賑わっていて、ご飯を食べようかと思ったエクサーだったがどこも大混雑。仕方なく、宿としているレストランに帰った。
店主は優しくエクサーを迎え、お腹が空いているエクサーを見ると何か作るから座っていなさいと言われた。
エクサーは座ったカウンターに置かれた一枚の小さな額縁に入った写真をみつけた。
「奥さんですか?」
エクサーは好奇心で聞いたが、店主の手が止まった。
「そうです…。私の妻です。」
店主はどこか浮かない様子だった。
「死別ですか?」
「いえ、違います。今も生きて…いるはずです。」
「?」
「実は妻は最近、行方不明になったんです。」
店主は事情を話し始めた。
「買い物に行くと言って出て行ったんです。妻が家を出て行ってから少しすると、街はギャングによる襲撃に遭いました。そして、食料などを強奪。さらには、何十人と住人達を持っていきました。その中に私の妻も…。そのため、街一丸となって、この事件の調査を依頼しました。結果は『ベレノ』というギャングによる仕業で、なんとかしてくれと頼みましたが、その『ベレノ』というギャングは大変に凶悪らしく、どこに頼んでも色濃い返事はありませんでした。」
店長は涙ぐんだ。
「どうすれば良いのでしょう。妻は加齢の影響で体がもう強くありません。そんな妻が……」
この店主の思いにエクサーはどこかに火がついた。
「店主さん。」
店主はエクサーを見た。
「僕が、いや。『level 666』がその依頼受けさせていただきます。」
意気揚々とエクサーは宣言した。
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エクサーは部屋に帰った。
いきなり依頼を受けたがそれはいいのかと思い、エクサーはA2に確認を取ることにした。
「ねぇ、A2………
結果として許しは出た。が、この件は1人でなんとかするようにとのことだった。
このA2の真意は別にエクサーが嫌いだからとかではなく、自分の依頼は責任もって自分で解決するようにということだった。
ということでこの依頼はエクサー、1人で行うことになった。
明日、執り行うことを決め、店主からアジトの位置などの情報を聞き、準備万端の状態にした。
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次の日
「よし!行ってきます。」
「ご無事を願っています。」
エクサーは勢いよく宿から出て行った。
昨日、S,Bより『ベレノ』の事前情報を伝えられていた。
ここ数年の間で勢力を伸ばし始めた組織で、地獄のあらゆる場所で事件が発生してることから、部下達の数は相当数とのこと。さらには最近、地獄経済の重鎮であるレンの家を幹部達が襲撃したとのこと。レンに掛け合った結果、『ベレノ』のボスであるセルベロに接触した際には直ちに退避しろとのことだった。
聞いていた『ベレノ』のアジトの位置に近づくにつれ、エクサーは気配を消して行った。
そして『ベレノ』のアジトと言われた場所に着いた。言われた通り確かにテントが集合している場所があった。だが、それにしては、なんというかショボク見えてしまっていた。
ギャングというから大層な場所に住んでいるかと思いきや、仮設されたようなハリボテのような場所だった。
だが、小規模ならペペルの住人を探しやすいのでこちらとしては好都合。ということでエクサーは『ステルス』を使って、侵入を始めた。
『ステルス』
自身を透明にする魔法。この魔法使用中は歩行と呼吸以外は使えない。物理的な攻撃(魔法も)を使用する際には透過を解除をしなくてはいけない。
アジトへの侵入に成功したエクサー。あたりの物色を始めるが、特に何かあるわけではなかった。飲んだくれが寝ていたり、酒盛りをしていたり、合体をしていたり…なんとも怠惰な生活を送っている様子だった。
そんな中、エクサーはどこからか近づいてくる異様な気配を察知した。
徐々に近づいてくるこの気配に周りを見るエクサーが見つけたのは、テントから出てくるガタイのいいビリビリの革ジャンを着た、男の悪魔だった。
男は葉巻に火をつけると、どこかに歩いて行った。
エクサーは不思議に思った。あれほどの気配を持ってながら最初から気づかないわけがない。つまりは、あのテントに何かあるのではないかと考えた。
エクサーは慎重にテントの中に入った。
中にはベット、机、酒、本、食べかけのチーズ、花。特にこれといって変わった物はなかった。
エクサーは『ステルス』を解除、そして『サーチ』を使った。
『サーチ』
隠れている物を見つける魔法。『ステルス』もこれにより見つかる。
エクサーは、床に強い反応を示した。
「ん?」
確かに床の踏み心地が変化していた。
色々試してみるエクサーだったが、その正体の判明には辿り着けなかった。とそこにあのガタイのいい悪魔が帰ってきていることに気づいた。
エクサーは考えた。もしここに秘密があるならここで待っていればその正体に辿りつけると。エクサーは『ステルス』を使って一か八か賭けることにした。
男が中に入ってくると、エクサーはなるだけ浅い呼吸をし始めた。
「おい、生態スキャン。」
「…………はい…。」
すると、いきなり床が回転を始め、地下へと下がり始めた。
そしてたどり着いた地下には、なんとも広い基地が現れた。
ーー終ーー