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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 3章 『黒腕』
53/207

 51 哀れに非情4


 地獄・とある村


 「ねぇ、リンド。今日は一段と星が綺麗ねぇ。」


 ポベロはリンドを膝の上に置いて、丘の上で2人で星を眺めていた。


 今日の星々は一段と輝いていた。美しい、綺麗などという言葉では到底片付けるには勿体なさすぎるほどの美しさに2人は揃って空を見ていた。


 ポベロは星を見ることが好きだった。

 遠くで色とりどりに輝く星達を見ていると、辛い現実と自身の理想の狭間に浮かんでいるような不思議な気分になった。


 ポベロはリンドの頭を撫で始めた。


 「ねぇ、リンド。リンドは将来何になるのかなぁ。学者さんかな?農家さんかな?ご飯屋さんかな?社長さんかな?芸術家さんかな?お母さんね…将来リンドがどんな子になるかとっても楽しみにしているの。リンドが自分で考えて自分で描いた人生はどれほど素晴らしいのか見てみたい。楽しみねぇ。来年にはリンドに肩叩きしてもらって、再来年には、初めてのお使いに挑戦!お友達もでき始めるかもしれない。学校に行って、彼女なんかもできたりして…でもこれはお母さんのただの想像。大事なのはあなたが素直な自分に従って生きること。自分がいいと思ったことそれこそが運命。これに嘘をついたらきっと悪い方向に行ってしまう。嘘をついていいのは自分に向く牙だけ。お母さんは毎日あなたが、元気でいること以外望まないわ。だからいつまでも元気でいてね。お母さんも出るだけ

あなたを近くで見守るわ。」


 母親としての子供に向ける一生涯を元気で生きてほしいという嘘偽りのない思い。人生の多くを縛られ、逆境として生きてきたポベロの思いは誰よりも大きく、誰よりも優しかった。ポベロの言っていることがすべて理解できないリンドもこの優しさはしっかりと受け取っていた。


 ーーーーー


 翌日


 旦那が帰ってこないことに少しソワソワしながらもポベロはいつもと変わらぬ生活をしていた。


 コンコン。


 家の扉を誰かがノックした。


 「は〜い。」


 ポベロが扉を開けた先にいたのはヴァットだった。


 「あら、ヴァットさん。どうなさいました?」

 「あなたに感謝を伝えにきました。」

 「えぇ!私にですか?」

 「そうです。この村の復興、我々の事業への貢献。それらの根幹はあなたのおかげです。あなたが献身的に村を支えたからこそだと思っています。大魔族という世間の風当たりが悪い肩書きをお持ちのあなたがこれほど頑張っている。上に立つものとして、下の者への対応を見つめ直す、そして私の今後に良い教訓になりました。ここに最大の感謝を送ります。」


 いきなり褒められたポベロは嬉しくて頬を赤めた。


 「では、私はこれで。今後とも気にかけさせてもらいますね。」

 「ありがとうございました。ヴァットさん。」

 「良いんですよ。この村では全てあなたのおかげなんですから。」


 そう言ってヴァットはこの場を後にした。


 褒められたことへの嬉しさで、ポベロの自己肯定感は爆上がり。気持ちが良かった。誰かの役に立てたということがとても嬉しかった。


 ーーーーー


 いまだに帰ってこない旦那の帰りを待っているポベロだったが、時間は夕ご飯を済ませた後になっていた。


 ポベロは、いつものようにリンドと夜の散歩に出かけようと準備をしていた。

 そんな時、爆発音が聞こえた。


 「何かしら?」


 村人の魔法の暴発かと考えたポベロの耳にもう一度爆発音が聞こえた。これを聞いたポベロは流石に自然現象の類ではないと思った。


 外に出て状況を確認しようと、急いで家の外に出ると、幾つかの燃える家その付近に2人ほどが立っていた。ポベロはその2人をよく見ると、その2人は白目を剥いて、口周りが血だらけになっているように見えた。


 そのポベロの元に1人の村人が駆け寄ってきた。


 「大変だ。いきなりあの2人がいきなり暴れ出して、いきなり他を襲い始めやがった!」


 原因のわからないポベロは急いで家に戻り、リンドを抱き抱え、再度外に出た。


 外はあの凶暴化した2人によって悲惨な状態になっていた。


 ポベロはリンドを抱え急いでその場から離れるために走った。がその先もさっきと全く同じ状態になっていた。数人の村人が白目を剥き、家や農地を破壊し、そして、村人を襲いさらに凶暴を伝染させた。


 ポベロはその場で思わず足を止めてしまった。

 周囲は火に囲まれ、さらには住民は凶暴化。地獄の中の地獄とはここなのだと思わせる状況。


 そんなポベロは後ろにいる凶暴化した村人に気づかず、鉄パイプのようなもので殴られた。


 「痛っ!」


 ポベロは倒れ込んだ。

 そして、頭の痛みを覚えた場所を触ると出血をしていた。


 「!」


 だが、そんなことはどうでも良かった。

 抱えていたはずのリンドがいなかったのだ。


 そのリンドというのは殴られた拍子にポベロは手を離してしまっていたのだ。リンドは遠くで手を離され、地面に落ちたことで泣いていた。


 その泣き声を聞きつけて、凶暴化した村人が続々と集まってきた。

 その中の1人がリンドを乱暴に持ち上げた。


 「ダ…ダメーー!!!!!」


 ポベロは力を振り絞って立ち上がると、リンドを奪い返そうとした。だが、凶暴化した村人の力は強くなかなか話してくれない。


 ポベロは泣きながら奪い返そうと奮闘した。

 そんなポベロを凶暴化した村人たちは鈍器や鉄パイプなどで殴った。


 完全なリンチだった。

 だが、村人たちも被害者と言えばそうなのだ。


 それでもポベロはなんとかリンドを奪い返すと、抱き抱えて一心不乱に走った。

 逃げる場所を探した。頭からの血が目に入って視界がぼやけようともポベロは走ったのだった。


 そして、2人は丘を目指した。


 ーーーーー


 丘に着いたポベロは息を整え、村の方を見た。『サーチ』でサーモグラフィーを通したように見た村は、謎の煙のようなものが蔓延しているように見えた。


 「う、嘘…何あれ。」


 得体の知れない煙。だが絶対にあの煙が原因であると、ポベロは確信した。


 そんなポベロをある事実が発覚し、ポベロは絶望へと落ちていった。

 自分の体もその煙に侵されていたのだった。それどころかリンドもだった。


 ーーーーー


 「おいおい、ヴァット。スッゲェなぁ。」

 「いや私も予想以上だよ。」


 村のこの状況を空中からヴァットとグガットは見下ろしていた。


 「成功だろぉ〜〜!!」

 「いや失敗だ。」

 「何でだ!!!」

 「こんな物を凶暴性の強い物を世に放てば、薬物事業の信頼はガタ落ちになる。流石にこんな物は出せない。」

 「そうかぁ〜。」

 「ヴァット様。」


 2人の元に1人の悪魔がよってきた。


 「どうした。」

 「あの薬物が空気感染を始めました。」

 「「!!」」


 2人は驚いた。


 「そんなふうに作ったか?」

 「いや作っていない。」

 「じゃあなぜだ?」

 「考えうるのは、試しとして村人に打った薬物が進化したということだ。この薬物を作るにあたって、即効性を高めるために魔力を織り交ぜた。よもやそれが、悪魔という魔力の塊のようなものと接触したことで魔力同士の反発を起こし、原因不明の進化へと誘ったというわけだ。」

 「じゃあ、どうする。」

 「空気感染を起こすようであれば、今この場にいる我々としても危険。もしこれを放置し地獄に広めでもすれば、混乱を引き起こす。」

 「ってことは。」

 「あぁ、申し訳ないがここでこの村を無かったことにする。」

 「ひでぇやつだ。」

 「私とて心苦しいぞグガット。せっかく大魔族のいるという超レアな状態を無きものにするのだから。この薬物が大魔族にも効果を問題なく発揮すると分かれば、地獄のみで市場は終わらず、もっと利益が拡大したのだ。これでは、そんな計画もなしだ。」

 「まぁ、仕方ねぇ。やっていか?」

 「やってくれ。」


 グガットは、右腕を上に上げると、とてつもなく大きな魔力の球体を作り出した。さらにどんどんどんどん大きくして、そのサイズはいつしか村が収まる以上の大きさになった。


 エネルギーの強さにあたりには電撃のようなものがバリバリと発生し始めた。


 「こんなもんでいいか?」

 「あぁ、跡形もなくやってくれ。」

 「わかったよ。」


 グガットは村に目線を下げると、哀れんだ顔をした。


 「悔やむなら自身の運命を悔め。それがお前ら、下につく者たちの最後だ。」


 グガットが勢いよく右腕を振り下ろすと、球体は村に向かって落下していった。


 ーーーーー


 ポベロは絶望の底にいた。


 なぜ私の人生はこうも不幸なのかと問いた。そして嗚咽まじりで涙を流した。ただ普通を夢見ることがこれほど悪いことなのか。理想を願うことがこれほどにいけないことなのか。ポベロは泣いた。喉が壊れるほどに泣き叫んだ。


 私は苦しむために生まれてきたのだと。私は生まれてこなければ良かったのだと。泣いた。答えの見つからない問いを叫んでは、自責した。


 すると、空がいきなり明るくなった。ポベロはその空を見ると、巨大で輝きを放つ球体があった。村の周りはとてつもなく明るく照らされた。


 「あぁ〜…」


 こんな絶望的な状況のポベロの耳にリンドの声が聞こえた。リンドは笑っていた。あんなに乱暴をされても母親の温もりに触れ、喜んでいた。


 ポベロはリンドを見て思い出した。自身は哀れな大魔族ではなく、1人の母親であることを。ポベロは涙を流しながらリンドに向かって微笑んだ。


 そして、笑いながらポベロは手刀で自身の心臓を突き刺した。


 「ぐっ…、はっ!」


 ポベロは手刀を抜くと、ゆっくりとリンドに近づき抱きしめた。

 ポベロが抱きしめ終わると、リンドは血だらけになってしまっていた。


 「あなたに…これは似合わない…」


 リンドの顔についた自身の血をポベロは優しく拭き取った。


 ポベロはリンドに優しく微笑むと、リンドを丘に残し、残る力を全て使って森に向かって走り出した。そこには行き場を示すように途絶えない血痕が続いていた。


 傷口を押さえながらポベロは走った。体の血がどんどん無くなっているのを感じた。呼吸も浅くなっていった。

 ポベロは走りながら、心の中でリンドに向かって語りかけた。


 (ねぇ、リンド。お母さん、ちゃんとお母さんできていたかな?お母さんもうあなたには会えないらしいの。ここでお別れらしいの。)


 ポベロは母親としてもう会えなくなるリンドに涙を流して走った。


 (ごめんね。お母さんのせいでもしかしたら窮屈だったかも知れない。お母さん、不器用だったから。お母さん、すぐ泣いちゃうから。)


 ポベロは次第に走ることができなくなってしまい、それでも進むために一歩、一歩、歩いた。


 (お母さん、毎日あなたに愛を伝えてきたけど、それでももう少し伝えておけばよかったと思ってる。あなたは、可愛い子、私の可愛い可愛い子。あなたが生まれてきてくれて、私はやっと生まれた意味を見つけたのを思い出したわ。)


 ポベロは何かに躓いて転んだ。もう立ち上がる気力も残っていなかった。それでも這いつくばって進んだ。


 (でも、ここでお別れ。あぁ…立派に成長するのよ。母親として願っているわ。)


 ついに、ポベロは這いつくばることもできなくなり動きを止めた。ポベロの意識はどんどん薄れていった。


 「…や、ひや()ひや()


 ポベロの口からうっすらと音葉が出た。


 (嫌、嫌。お母さん、まだあなたと離れたくない。一緒にまだ生きたいたい。一緒に生きたい…。旅行に…いい場所を見つけたの…。しっかり歩けるようになったら一…緒に行こうと…思って…いい場所を…見つけた…の…)


 ポベロの命はもう風前の灯火だった。


 そして最後の力を振り絞って、リンドにつけた自分の血を介してポベロはリンドと自分の位置を入れ替えた。


 丘の上に横たわるポベロは優しく笑った。


 (愛してるわ。リンド…)


 ポベロの目から光が消えた。


 そして、その数秒後、光り輝く球体は地面へと着弾し、村ごと吹き飛ばした。もちろん丘もその範囲内で、村の痕跡は跡形もなく吹き飛んだ。


 ーーーーー

 

 「ふぅ〜。派手にやったぜ。」

 「一応サンプルを取って帰ろう。いつか使えるかもしれん。」

 「おい、これは封印だ。」

 「いや、使える。」

 「危険だ。」

 「大丈夫だ、出すことはねぇサンプルだ。」


 ヴァットは何もなくなった村の方を見た。


 (全てあなたの()()()でしたよ。)


 ーー終ーー



 なんて言うか自分で書いておいてこんなに残酷に描く必要あったのか?とか思いましたね。

 いい母親です。本当に。


 ー補足ー

・村長はあの後、村が消えたことを聞かされましたが、どうでも良く、その後すぐ最後に会った女の悪魔と結婚して子供も5人できました。さらにはグガットの薬物会社の傘下の会社を受け持ち、何事もなく幸せに老衰を迎えます。

 こんな設定にしておいてなんですが、ムカつくので名前は考えてません。クズなので。


・ポベロは大魔族ですが魔法は使えません。幼い頃、大魔界にいた時は戦争が多く、親もすぐに死んでしまったので、魔法を教えてもらう機会がなかったからです。

 最後にテレポートができた理由は村長が便利だからと教えてくれた魔法だったからです。

 ですが、そのまま使っても自分は生存できないと確信していたので、自分を犠牲にしてテレポートをしたわけです。

 血を介したのはその方が魔法の効果が強くなり、成功率も上がるからです。

 

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