49 哀れに非情2
突如として遠くの戦争。
規模は大きいという状況は聞いていたが、遠くで行われているために、住人はさそど警戒はしていなかった。
だが、何故かポベロたちの住む村に戦争中の軍が押し寄せてきて、巻き込まれる形で被害を受けた。各所の家は壊れ、土地は荒れ、農地や家畜場も壊れてしまっていた。
こんな状況に力無く立ち尽くす村人たちだったが、そうしていても元の生活は戻らないことはわかっていた。だから村人たちは、気力なく復旧作業に手をつけていた。
この状況に誰よりも頭を抱えていた者がいた。
それはリンドの父の村長だった。
村の復旧にはお金が必要だった。
もちろん村のためにと資金は用意してあった。だが、それもこの被害を元に戻せるだけの金額に到底足りることはなかった。
家のなくなった村人たちの家をどうするか。家畜たちが消え、お金もないこの状態で食料はどうするか。
頭を抱えても一向に解決の光を手にできる気配はなかった。
そして、村長はお金を借りてくる、他から借金をするという事を考えた。
その意向をポベロに伝えた。
「仕方ないわ。そうしましょう。」
「あぁ。」
ポベロも十分に今の状況を理解していた。だから、村人、皆のために借金をすることに賛成した。
そして、それから村長はどこか金を貸してくれる場所を探し、村を出た。
だが、これが全く順調にはいかなかった。廃村寸前のボロボロの村にお金を貸すメリットなど、粉微塵も存在しないという理由で、誰もお金を貸してくれなかった。
そんな日々が何日も続いた。
精神的にも肉体的にも苦しさが募っていった。
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地獄・とある村
ポベロは、力仕事をするにはあまりに不向きな体付きでも復旧になんとか力を貸していた。
大魔族という種族のポベロだったが、持ち前の優しやで、村内では厚い信頼を獲得していた。
いつも通り復旧を手伝い、夜を迎えた。
そんな夜を、歩けるようになったリンドと日課の散歩をしてた。そんな時でもリンドと旦那がお金を借りることに成功することを真剣に願っていた。
そんな散歩中、とある話し声が聞こえてきた。誰かの話に聞き耳を立てるのはよくないと思ったポベロは散歩ルートを変えようとしたその時、その会話の中で自分が話題になっていることに気づいてしまった。
思わずポベロは聞き耳を立てた。
「やっぱ、ポベロさんが怪しいと思うんだわ。」
「わかる。俺もそう思っていたところだ。」
「情報の戦況の進み具合からして、軍勢がいきなりこっちにくるなんてのはおかしなはずなんだ。」
「あぁ、俺たちのこの何にもない村をいきなり襲いにくるなんておかしな話だ。」
「だが、この村には他と違うことがある。大魔族がいることだ。ポベロさんは確かにいい悪魔だ。でも根は大魔族。もしかしたら、あの戦争に情報を流して、戦況をこちらに誘導したのかもしれないな。」
「あり得なくはない。」
ポベロはこの会話を聞いて自分に疑いの目がかけられていることを知った。
またもやポベロは大魔族という自分の種族の位置付けに苦しみ始めた。ただ、普通に生きたいだけ、皆と変わらず生きたいだけ。でもそれは叶わない。
ポベロはリンドを抱えあげ、足早に家に帰った。
そして、ポベロはリンドを寝かしつけると、1人寝室で涙を流した。
自分はなぜ大魔族というだけでこんな生きづらいのか、なぜこうも生まれたのか。悲しくて悔しくて涙を流した。
だがこの村人の考え『ポベロのせい』という疑いは、偶然にも現実と一致してしまった。村人たちの考えるような暗躍をポベロはしていなかった。もっと別の理由で、戦況はこちらに動いてきていた。
大魔族であるポベロは、他の悪魔たちとは全く比べられないほどの魔力量を持っていた。
そのとてつもない魔力量を察知した敵は、この村にその魔力量を持つものがいることを特定し、敵軍の隠れた本拠地はあそこではないかと仮説を立て、この村を襲撃した。
ポベロの嫌う大魔族という種族の自分が不幸を持ってきていたのだった。
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なかなか借金の当ての見つからない村長は断られ続けていた。
こんな状況が嫌になってきていたこの日、村長はバーのようなところに入り、安酒を飲んでいた。
「おっ、あなた、もしかして。」
村長が顔を向けると、今日2人目に金貸しを頼みを断った男の悪魔がいた。
「ちょっと、隣に。」
男は村長の隣に座った。
「今日は申し訳なかった。」
男は頭を下げた。
「本当は金を貸してあげたい気はあったんだ。だが、我々をかなり切羽詰まっていてね。代わりと言ってはなんだが、ここにいってみるといい。」
そう言って、男は村長に住所の書かれた紙切れを渡してきた。
「きっと君の助けになってくれる。必ずね。」
村長は、紙切れを受け取った。
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次の日、村長はその紙に書かれた住所に向かった。
そこには大きなビルがあり、中に入ると、エレベーターで最上階に行ってくださいと言われ、言われるがまま村長は最上階に行った。
最上階につき、大きな扉の前で足を止めると、ドアをノック。内側からの返事でドアを開けた。
その先にはガタイのいい悪魔と、少し太った悪魔が待っていた。
「そこに座ってくれ。」
ガタイのいい悪魔の方が村長を椅子へと誘った。
「まずは、私の自己紹介から、私の名はヴァット。そして、」
「俺はグガットだ。」
2人は名を名乗った。
ーー終ーー