47 ハイ!
エクサーもリンドも一歩も譲らないこの戦い。
潜在解放に慣れ始め、動きに一層の鋭さを帯びるリンド。もちろんエクサーも動きに鋭さは帯びていたが、リンドには及ばないほどだった。それよりも『アレクトーン』の方が鋭さを帯びていた。
『アレクトーン』は硬いリンドの黒くなった両腕を攻撃をしても一切の刃こぼれを見せず、それどころか、何かにあたるたびに研がれ、切れ味を増していた。
リンドはエクサーに横蹴りを加えると、エクサーはアレクトーンで防御をした。先と同様に体の周りにビー玉サイズに凝縮したいくつかの魔法を纏い、エクサーはリンドに突っ込んだ。
纏った魔法をすぐにリンドに向かって飛ばした。リンドはそれを避けることをせず、手をクロスさせながら前傾姿勢で突っ込んでいった。
魔法をもろともせずに突っ込んでいくリンド。
リンドはエクサーの位置を確認するために顔を上げた。先には、『アレクトーン』を振り上げたエクサーが、待ち構えていた。
「『大噛』!!!」
エクサーは、待ち構えている間に溜めていた魔力を一気に『アレクトーン』の流し込み、爆発的に魔力を剣から放出すると、その勢いのままリンドを上から叩きつけるように『アレクトーン』を振り下ろした。
リンドも両腕を素早く上に持ってきて咄嗟のガード。黒くなり硬化した両腕なら、十分に耐えられるはずだったが、今回ばかりはそうもいかなかった。体勢が悪かったのだった。リンドは歯を食いしばって必死に耐えた。
『アレクトーン』からの爆発的な魔力放出に加え、その上からエクサーが魔力をさらに上乗せ、両腕と意識のみが防御体勢になっているリンドでは防御は不十分と言えた。
そして、この状態のリンドが取った行動は、なんとかして逃げの選択肢を取ることだった。だが想像以上の威力に、その判断を弾き出すのにリンドは遅れた。
結果として、エクサーと『アレクトーン』の威力に防御力が足りず、右腕に刃が通り、右腕が切断されてしまった。
右腕一本を犠牲に逃げに成功したリンドだったが、この状況で右腕を失ったことをそう易々と飲み込めるほどの余裕は、『アレクトーン』に右腕と一緒に切り捨てられていた。
息を切らし、腕を生やすことを試みるリンドとは対照的にエクサーは『アレクトーン』を床に突き刺すと、突如、上を向いた。
そして、右の人差し指を頭に当てると、『プラズマ』で頭を打った。
気を失っているのかエクサーは床に向かって倒れ始めていた。この行動に全く理解が追いつかないリンド。すると、エクサーは倒れるギリギリで目を開け、なんとか足で踏ん張って、倒れることを回避した。
「ッハハハハハハハハハハァァァ〜!」
エクサーは完全にハイになっていた。
〜〜〜〜〜
エクサーの記憶
どこかの森でA2とエクサーはサンドイッチを食べながら昼休憩を取っていた。
「エクサー、今のままでは勝てない!って思ったら君ならどうする?」
「何いきなり?なぞなぞ?」
「い〜や、なぁ〜んのタネも仕掛けもないよ。」
「そうなの?う〜ん。どうするって言われてもなぁ〜。」
エクサーは顎を右手で摩りながら考えた。
「難しいかな?」
「まぁ、その時になってみないと。」
「ハハハ!そんな暇があったらいいけど、勝てない!と思った相手にそんなこと思っている暇は果たしてあるのかな?」
「う〜ん、確かに無いかも。」
「では、ここで助言を。どうするかと言うとぉ〜、今の思考を超えるでした〜。」
「おおまかに言いすぎてない?」
「いやいやぁ〜。このぐらいでいいんだよ。やっぱり大事なことは自分で気づいて初めて力になるのさ。」
「ふ〜ん。でも、どうやって?」
「この世界には便利なものがあるじゃぁないか。」
A2は右手の人差し指の先から小さい火を出してみせた。
「魔法って言う、とっても便利なものがね。」
〜〜〜〜〜
想像以上に長引くこの戦いに終止符を打つには、今の超過集中では足りないと考えたエクサーは、自身の頭、正確には脳に電気を流し、自身の考えを一時的にバグらせ、想像以上の思考を手に入れようとしていた。
これにより、エクサーは今の思考とは別のイかれた思考にたどり着いた。
超過集中に加え、一時的なハイ状態の加わった、完全予測不可能なエクサーの攻撃は、リンドも対応できぬほどの荒さ。エクサーは瞬きをせず笑いながらリンドに切り掛かった。
片腕を失い、未だに治せていないリンドにこの状況は不利も不利。体には切られた傷がいくつも付き、殺られるのも時間の問題と思われた、その時、リンドにフラッシュバックする記憶。奥底で眠っていた淡き記憶が鮮明な記憶へと姿を変え、リンドの元に回帰した。
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数十年前 地獄・とある村
その記憶はリンドがまだ生まれて1年ほどの名もなき村から始まった。
ーー終ーー