表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 3章 『黒腕』
45/225

 43 会話の無い戦い


 地獄・サランカス


 エレベーターを降りた先の廊下で待つ1人の青年。エクサーの目には、その名も知らぬ青年から流るる緊張感が鮮明に見えていた。

 リンドはエクサーを見るや否や、鋭い眼差しで強く睨みつけ、緊張をさらにもう一段上へと押し上げた。


 2人の思いはここで共通を見た。”倒さねばならない者である”と。


 そう思って真っ先に動いたのは、リンドの方だった。

 リンドは右拳を強く握るとエクサーに頭を狙って殴りかかってきた。


 ヴァットより、この階の侵入者は全員排除しろとの命が下っていたリンドがエクサーを真っ先に排除しにかかるのは当然の事だった。


 エクサーは頭部に場所に『バリア』を張る。身を守る準備は万端だった。

 しかし、ここでエクサーに誤算が生じる。少し強度を上げて張ったはずのバリアがいとも簡単に破られたのだ。バリアを破った拳はそのまま少し軌道を逸れると、頭ではなくエクサーの顔面に当たる。エクサーは、エレベーターの扉まで吹き飛ばされた。


 (痛い!!)


 先手を取られると分かった段階でエクサーは、様子見や相手の力量を調べる意味合いも込めて、余分な強度でバリアを張ったつもりだった。それが最も容易く、飴のように打ち砕かれた。エクサーは目の前のリンドは自分の思っている以上に危険な存在だと理解した。


 痛みで涙と鼻からの出血を服の袖で拭き取ると、エクサーは回復魔法を顔にかける。その途中、リンドは容赦なくエクサーにもう一度、殴りかかった。

 エクサーはギリギリで首だけで回避する。当たらなかったリンドの拳はエレベーターの扉を凹ませた。


 エクサーは回復魔法を中断させ、両手でエレベーターの壁を力一杯押すと、そのまま滑るようにリンドの股下を縫って、その場から脱出した。

 エクサーは止めていた回復魔法を再度使用すると、治りかけだった顔面を完全に回復させた。


 リンドはエレベーターの扉を殴ったゆらりと拳を引くと、エクサーの方を振り返る。

 エクサーは両手をリンドの方に向けると、徐に両手に炎を溜め始めた。

 リンドがその堂々と見せつけるようなエクサーの攻撃を黙って見ているわけはなく、思いっきり踏み込むと、そのままエクサーに突っ込んでいった。


 「ふぅ…『インフェルノ』…」


 エクサーは息を吐いて迫ってくるリンドの緊張感を抑え込むと正確に狙いを定める。そして、両手から放たれたものは『インフェルノ』であった。


 リンドは技が飛んできて回避しようとブレーキを踏んだが、インフェルノの攻撃範囲と火力に逃げ場がなく、そのまま両手を顔の前でクロスさせて、攻撃を正面から受けた。

 この攻撃により廊下に貼られたガラスが1枚残らず吹き飛んだ。


 『インフェルノ』

 『ファイア』の上位互換であり、多くの魔力、大きな溜めを必要とするが、それと引き換えに高威力である。エクサーは、これをドラギナに教えてもらっていた。だが、練習の段階で成功したことはなく、いきなり本番で成功させていた。


 辺りに渦巻く黒煙。

 エクサーが攻撃で窓ガラスを全て吹き飛ばしたおかげで煙の掃けはよかったが、それでもインフェルノの生み出した黒煙は大火事レベルだった。


 「熱っつ〜…」


 エクサーが構えをやめ、両手を見ると両手の皮膚が見事に(ただ)れた火傷状態だった。


 (無理もないよね…ぶっつけ本番であんな火力出せば…)


 インフェルノに全て注力した結果の火傷。このぐらいは当然の反動だった。

 エクサーは両手に回復魔法を回し、火傷を回復させ始めた。その時、エクサーの背後で魔力の流れが起きる。


 エクサーは急いで振り返ると、そこには殺意むき出しのリンドの拳が目の前に来ている状態だった。咄嗟にバリアを張るエクサー。それがギリギリで間に合った。


 先ほどよりも多くの魔力を消費して貼ったバリアは、リンドの拳と拮抗し合う。そして、魔力同士の衝突により、2人の間に火花が散った。

 エクサーは歯をギリギリと音を鳴らして噛み締める。それでも拮抗状態にはできている。エクサーが次の動きを考え始めた。

 その時だった。いきなりリンドの力がバリアの耐久を上回り、エクサーを殴り飛ばしたのだ。

 

 殴り飛ばされたエクサーは床に背中を擦り付けながら減速し、理解に苦しむ顔をしていた。


 リンドがなぜ、いきなりエクサーのバリアを破ったのか。リンドは一瞬で力を上げる術を1つだけ知っていた。

 ーーーそれは『潜在解放(バースト)』だった。


 『潜在解放(バースト)

 自分の能力を一部の能力に偏らせる術であり、グガットとは違い、リンドはこれを限界までパワーに偏らせていたのだ。リンドはコレを誰からも教わっていない。リンドはグガットが使っているのを見ただけで学んだのだ。


 エクサーがなんとか立ち上がると、背中に突き刺すような殴られた時とは別の痛みを感じる。エクサーが背中を見ると、背中にはインフェルノの時に割れたガラスの破片が突き刺さっていた。

 エクサーは回復魔法を使い、殴られた部分を回復させると同時に背中も回復させる。その過程で背中の皮膚が刺さったガラスを吐き出すように抜け落ちた。


 (ダメだ…意識的に回復魔法を回していたらあまりに…効率が悪い)


 薄々エクサーも気づいていた事ではあったが、いちいち傷を負ってから回復魔法を意識的に回す事はあまりに効率が悪く。回復中に攻撃されては回復を中断しなくてはならなかった。


 (やってみるかここで…A2に言ってた()()を)


 エクサーはここで1かバチかで自分を追い込む賭けに出る決心をした。


 リンドは両手を開いたり閉じたりして『潜在解放(バースト)』を実感した。そして、次にステータスをパワーではなく、スピードに偏らせた。


 リンドは軽く両足に力を込めて、走り出すと圧倒的な浮遊感と共に、エクサーの立っている場所を通り過ぎてしまった。リンドはコレに驚いてブレーキをかけた。速すぎた。自分でも想像以上の速度だった。

 もちろん、エクサーがコレに目で追いつけるわけもない。エクサーが感じた事は自分の目の前を何かが通り過ぎた際の風圧に襲われた後だった。


 エクサーが冷や汗を流した瞬間、リンドはエクサーが到底捉えられない速度でエクサーを壁に殴り飛ばした。リンドはエクサーを殴った拳を見つめると、さらに拳を強く握った。


 ーー終ーー



 ちなみにリンドは魔法が使えないだけで、魔力はあります。なので自己強化の魔法など本当にし初歩ぐらいなら使えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ