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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 3章 『黒腕』
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 39 サランカス


 発令の次の日


 地獄・サランカス


 サランカスとは、地獄にある市場のこと。


 サランカスは発令がされようとも賑わいを見せていた。実際のところ停止令の発令は商売をする者にとっては大きな痛手だったが、そんな中でもいつも通りの営業と変わらない顔で運営をしていた。


 「ママ〜、あれ買って〜。」

 「ダメよ。まだ同じやつが家にあるでしょ。」

 「お兄さん、安くしとくよ。」

 「ええぇ〜、ほんとに?」


 サランカスは今日も、家族連れやカップル主婦や学生などの多くの悪魔たちが入り浸っていた。


 「美味しいドーナッツです〜。」

 「そうか。」


 なんとこの場所には、クーとドラギナも遊びに来ていた。


 クーが片手に持っていたのは、サランカスにある老舗ドーナツ屋さんのバターアーモンドドーナッツで、これを食べるためにここにきていた。一方のドラギナは完全な付き添いで、心細いからという理由で、クーに連れ出されていた。


 「きゃーーーー!!」


 賑やかだったサランカスに悲鳴が響いた。なんだなんだと皆が悲鳴の方に顔を向けた。クーとドラギナも例に漏れず、好奇心でそこを見た。


 「何です?」

 「さあな、共食いじゃないか?」


 冗談を言って軽く笑うドラギナだったが、悲鳴の方から悪魔たちがドワッと逃げてきた。


 「大変だぁーー!!カップルの男の方がいきなり白目をむいて、女の方を食べ始めやがった!!逃げろーー!!」


 それを聞くと、周りも一斉に逃げ出した。


 真顔でドラギナの方を見るクー、目線を逸らすドラギナ。


 「オ、オレハ、ナニモシラン。」

 「こっちを見るです。」

 「ホントウニ、シラン。」


 冗談で言ったつもりが、まさかの的中。偶然とは言え、不謹慎なものが当たったのだ。クーが冷たい目で見るのも当然だった。


 逃げ惑う悪魔たち。警備の悪魔もこの混乱を鎮めるために出動してきたが、近づいた警備たちは次々と白目をむき、悪魔たちを襲っていった。


 これを見たクーとドラギナの2人は流石に只事ではないことに気づき始めた。


 するといきなり、クーはドラギナの背中を叩いた。


 「イテッ!何するんだ。」


 ドラギナはいきなり叩いてきたクーの方を見た。しかし、クーの顔はふざけた様子は一切なく真面目だった。


 「今、体の中に『バリア』を貼ったです。」

 「なんで?」

 「あの白目を剥いた悪魔たち、何かウイルスのようなものに感染しているです。」


 ドラギナの目には何も映っていなかったが、クーの目には映っていた。サーモグラフィーで見ているように何か煙のようなものが、あの白目を剥いた悪魔たちにまとわりつき、その煙はどんどんどんどん、広がり始めていた。


 これが目に映っていたクーは咄嗟に自分とドラギナの体内に薄い『バリア』を貼り、得体の知れないウイルスのようなものが体内に侵入することを防いだ。


 クーのこの判断は正しかった。ウイルスのようなものは次々に伝播、一般的な悪魔たちは、クーのような『バリア』の芸当はもちろん、そのその今何が起こっているかを冷静に見る術がないため、感染は拡大、急速に地獄中に広がっていった。


 このウイルスのようなものに感染した者たちは1人も例に漏れることなく、凶暴化していった。


 凶暴化した悪魔たちは無作為に他を襲い始め、クーとドラギナの2人も襲われてそれを捌いていた。


 「おい、クー、キリがないぞ。」

 「こっちもです。」


 魔法や強化した拳で襲いくる悪魔たちに対抗する2人だったが、次々と来る悪魔たちに流石に辛さを感じていた。


 ーーーーー


 地獄・グランパス社長室


 「社長、『バブルス』をサランカスに放ちました。感染者は急速に増大、思惑通りです。」


 「そうか、よかった。」


 満面の笑みを浮かべるヴァット。全ては計画通りだった。


 「ですが中には影響を受けない者もいるようです。」

 「大丈夫だ。もしその者たちがここに来ようとも、リンドを配置している。万が一など絶対にあり得んさ。」

 「さすがは社長です。」


 ヴァットは優雅にタバコを吸っていた。


 ーーーーー


 「ふんっ!!」

 「当たらんぞ。そんなのでは。」


 ガルガとエクサーは白い空間の中で、剣の使い立ち合いをしていた。


 この空間にいてエクサーが分かったことは、この空間は仮想に近いということだった。怪我をしても血は出ないし疲れもない。しかし、体に重さは感じる。不思議な空間だった。


 剣術のけの字も知らないエクサーが、振る剣は杜撰そのものだった。それでも飲み込みの早いエクサーはしっかりと剣を振ることの感覚を覚えていった。


 間合いの管理、隙の隠し方、力の込め方。独学で感覚的に学びを得ていくエクサーの剣使いは、ガルガも驚くほどの成長性を見せた。


 しかし、それでもガルガに剣が届くことはなかった。


 エクサーは脳を全力で回し、次に一手を、今の状況を、間合いの管理を弾き出そうとしていた。この考えはいつしたエクサーを集中へと誘い、刻々とエクサーの剣術は鋭さを帯びた。


 そしてついに、エクサーはガルガの隙を見つけ、一気に距離を詰め、ガルガの体を切ろうとした。


 カンッ!


 だが、それも間一髪でガルガの防がれた。


 エクサーはガルガから離れ間合いを元に戻した。


 「やるな。」

 「ありがとうございます。」


 エクサーも完全に届くと思っていた。次の一手をエクサーは考えだし、構えをとった。


 「ここで、やめだ。」


 この一言でエクサーの集中が一気に解けた。


 「これから先は、痛みと一緒に覚えていけ。血を流し、痛みと共に自己防衛を研ぎ澄ませ、剣を振え。いいな?」

 「でもまだ、全然。」

 「いや、実際、先の一手は見事だった。こんな若い奴にあんなに詰められるとは、、まぁとりあえず、帰れ。」


 エクサーの体の色がどんどん薄くなって消え始めた。消えゆく中でエクサーはガルガに聞いた。


 「何で、僕に『アレクトーン』を?」

 「さぁな、理由はわからんが、お前が今までで一番面白かった。」


 ガルガが笑いながら言うと、エクサーは消え、この空間にはガルガだけが残った。


 ーーーーー


 第一次天魔戦争中


 地獄・ガルガの丘(過去)


 「ガルガさん!天使が来ました。早く逃げましょう!」


 天使軍がここを見つけ戦地に変わり始めていた中で、ガルガは手を止めることなく一本の剣を作り続けていた。


 「ガルガさん!死んでしまいますよ!」


 鍛治士としてのガルガの才能をここで終わらせたくなかった弟子たちは必死にガルガを逃がそうとしていた。


 「ガルガさん!こんな時まで、」


 それでもなんと言われようと、ガルガは剣を作り続けた。


 「俺の運命はこの剣をいつかの誰かに託すことだったらしい。」


 誰に言うわけでもなく独り言にようにボソっと言ったガルガの言葉に、皆は動きを止めた。


 理解できない言葉だった。しかし、弟子たちはこの言葉に、悟りや覚悟のような思いを感じた。


 一度ついていくと決めた師匠の意思を全うすることは弟子たちにとって生きる支柱と化していた。弟子たちは逃げるわけでもなく、手伝うわけでもなく、部屋にある剣を使い、天使たちの襲来に対抗し始めた。


 〜〜〜〜〜


 「ふぅーー。」


 深く呼吸をしたガルガの手には、1本の剣が完成していた。そうそれこそが、『アレクトーン』だった。


 だが、嬉しさにも感動にも触れている暇はなかった。弟子たちは天使にやられ、血生臭さは充満、そして、目の前には天使たちがもういた。


 「殺せ。」


 リーダーと思われる天使が他の天使たちにガルガの殺害を命じた。


 「我が運命よ、いつかの誰かに届け!」


 そう言ってガルガは、『アレクトーン』を地面に突き刺し、天使たちに殺されたのだった。


 ーー終ーー


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