35 思惑
「こいつは。」
全く何もない、真っ白な空間に浮かぶ、白く燃える炎の玉。その見つめる先には、エクサーがいた。
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地獄・ガルガの丘
エクサーは何かを感じ取り、身震いをした。
「どうしたの?」
S,Bはエクサーに聞いた。
「わかんない。気のせいかな?」
エクサーは辺りを見回した。
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地獄・アスフォルテ会議場
「いったん今日のところはお開き。また明日といこう。」
レンのこの一言で、集まった悪魔達は今日のところは一旦解散ということで帰路に立っていた。
相変わらず、議題の結論の明確な発見には至らず、明日への持ち越しという形になった。
バネットの迎えの馬車が会議場の前につくと、中からその扉を、黒髪おかっぱの着物を着た子供の女の悪魔が開けた。
「おさえりなさい。バネット様。」
その子を見るや否や、バネットはその子に抱きついた。
「いやぁ〜〜ん。マメちゃん来たのねぇ。」
この悪魔の名前は、アマメ・カグラ。バネットからはマメちゃんと言われている。小さいながら、バネットの側近を務めている。
「苦しいです。」
抱きつかれたアマメは、バネットの大きな乳房に顔面を押し付けられていたが、いつものことのように流した。
「さぁ、帰りましょうねぇ。」
そう言うとバネットは乗り込んだ。
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ヴァットも他の者と同様に馬車に乗りながら帰路についていた。
気持ちいいほどに颯爽と風邪を切り馬車は動いていたが、馬車の中は重い空気だった。
「なぁ、トットよ。あの件はどうなっている?」
「は、はい。話は未だ門前払いの状態です。」
トット。ヴァットの側近を務め、メガネをかけ、血相の悪く、気の弱い、男の悪魔。
ヴァットは吸っているタバコの灰を外に捨て、言った。
「状況は全く芳しくない。というか最悪だ。危惧していた停止令の発令。なんとしてもこれを阻止せねばならん。だが、それも叶いそうにない。」
ヴァットは怒りに震えながらタバコをへし折って続けた。
「民のためを思うだ?笑わせるな。この利益のチャンスをものにできねば、私は死を喜んで受け入れる。それほどにこの好機はそのまま流してはいけないのだ。」
「しかし、グガットの会社の役員、幹部達もこの話には乗り気ではなく…。」
「もうこの際だ。私が赴くほかはない。なんとしてでも発令までに阻止をし、私がグガットの会社と併合し、地獄経済の中心に腰を据える!」
ヴァットは著しく勢力の衰えたグガットの会社と自分の会社を合併することを企んでいた。地獄でもかなりの権力、財力を持つグガットの会社と、同じぐらいの力を持つヴァットの会社は合併に成功できれば、地獄経済の頂点に立つことは決まったようなものだった。
勢力の衰弱の見込まれるグガットの会社は、ヴァットが合併の話を持ち込むことで、簡単に合意するとヴァット自身考えていた。しかし、それはヴァットの願望まじりの思考でしかなく、現実とは大きな差異を見せた。
なぜかこの話をグガット側は拒否の一点張りを続けた。
だが、この状況をヴァットの経営者としてのプライドが許すことはなく、なんとしてでもヴァットは合併を進めようとしていた。
グガットが怒りに震える理由の根幹には、合併が順調にいかないと言うことと、もう一つ、じわじわと迫り来る焦りによるものがあった。
実際のところ、ただ拒否されるのであれば、長期の話し合いをすることができ、合併の道が開ける可能性があった。しかし、この可能性は勢力停止令の発令により不可能なものになる。
勢力停止令が発動されてしまえば、合併そのものが不可能となり、その間にグガット陣営はグガットの後継を見つけ、合併のできないヴァットはグガットの会社と統合することができなくなる。
是が非でも合併をしたいヴァットは血眼になって尽力することを心に決めた。
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「こう言うのは絶対に聞こえない場所でするものだね。」
このヴァットの会話を誰かが盗み聞きをしていた。
『情報王』ネットだった。
ネットは情報関係全てに目を通すために、気になったこと、気がかりなことに対して、発信機をつけたり、買収をしたり、プライバシーもクソもないことを平然とやる。しかし、ここは地獄。そもそもそれが悪いことという価値観すら存在しなかった。
ネットは頑なに発令を否定するヴァットが少し気がかりだった。そのため何か裏があると、超小型の盗聴器をヴァットにつけていた。
「なるほどね。じゃあ僕たちはなんとしてでも発令させなきゃいけないと。」
ネットは、このまま、ヴァットが合併をし主導を握ることは、経済の混乱ではなく、混沌を生み出すと考えた。
ーー終ーー