34 地獄経済会議
地獄・アスフォルテ会議場
この会議場の最終会議場に8体の悪魔達が円卓を囲み座っていた。
地獄の中でも最重要会議を行うこの場所。本来は一つの議題に対して第一会議場、第二会議場、最終会議場と3日間で行われた。しかし、今回は緊急であり、いきなり最終会議場からスタートする。イレギュラーだった。
「レンはまだ?」
「もう少しじゃない?」
すると、扉が開き、頭が禿げて長く伸びた白髭を下に引きずりながら歩いてくるお爺さん悪魔がきた。
「皆のもの、集まってくれて嬉しいぞ。」
ヨボヨボしたのは体だけではなく声もだった。
彼の名はレン。この会議場の管理者だった。
レンは椅子に腰掛けた。
出席者は以下の通りだった。
ヴァット 『武具王』
ネット 『情報王』
バネット 『美装王』
プレズデント 『繁栄王』
ママル 『食彩王』
F,D 『断罪王』
欠席者
ラムパルダ 『環境王』
ラベラベ 『快楽王』
キキガノ 『喜劇王』
グガット 『薬物王』 死亡
この10人は地獄経済界においても重要人物とされていた。
「今回、皆に集まってもらったのは、他でもないグガットの死だ。非常に悲しい出来事だ。しかし今、悲しさに浸っているだけはいけなくなっている。なぜなら混乱が起きようとしているからじゃ。」
グガットの死。これにより、地獄の中でも大きな勢力を占めた、薬物界が一時的に勢力を弱めることになる。これの大きな問題点は、穴埋めに時間がかかることと、運で他の企業がのし上がり、経済バランスを崩壊させることだった。
「これに対して皆の意見を聞きたい。」
「わたしゃ、さっさと勢力停止令をだしゃいいと思ってるよ。」
最初に意見を放ったのはママルだった。ママルは太って気難しいおばあちゃんのような女の悪魔だった。
「ほう、その心は?」
「地獄の経済は今、若干麻痺してる。それは、あの続けて起こった得体の知れない『殺意』によって。食料の物流の流れも悪くなって、売り上げに至っては12%も下落。この状況でさらにグガットの死。企業目線では参入や利益拡大の隙ができたように思うが、民としては経済に不信感を募らせ、さらに麻痺が大きくなる。こうなるなら、令を出せばいいんじゃないかね?」
『勢力停止令』 地獄経済において大きな穴、欠陥が発生、生じた時、発令される一時的な令のことで、企業の争い、取引をその期間停止させる。(買い物はできる)
「ふむ、わしもそう思っていたところだ。」
「反対意見はあるかね?」
「私は、反対しますよ。」
「では述べよ。ヴァット。」
「グガットの会社の自己修復はかなり早いと考える。薬物という戦争の種にもなる代物を安定した商売に落とし込めたのはグガットの力だけではない。もちろん部下や他の助けがあったからだ。つまりこれを補佐するもの達にも並々ならぬ力が存在する。それに勢力争いや企業の取引の停止は、今の経済に修復するという観点では十分な措置ではあるが、新たなる経済という意味ではいつか絶対に来る変化だ。だから私は発令には反対する。」
「でも、そのリスクを今取るべきかは悩ましいところだね。」
ネットが反論した。
「僕たち企業側の人間が最も気にかけるべきは、企業の利益でも私欲でもなく民だ。僕たちは民に生かされている。だから、民のことを最優先にして、停止令を発令し、僕たちがそれを最大限に援助する。ここで大きなリンスクを取る必要はまだないと思うよ。」
「つまり、発令には賛成と。」
「はい。」
「他には?」
そこから話し合いは難航を極めた。経済への解釈と現状の認識はそれぞれに大きな差異があり、対応に関して、不確定とも言える未来を見越した話し合いは慎重に行かなくてはならなかった。
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会議開始から6時間後
「ところで、F,Dよ。最終監獄の様子はどうだ?」
レンが話の途中で聞いた。
「特に目立った問題は見受けられない。経済が逼迫しても150年はやっていけるほどには外界を遮断し独立できている。だが、各層の老朽化が進行しているのは否めない。今すぐにとは言わないが、今後、協力は仰ぎたいと思っている。」
「構わん。」
「まぁ、どうなっても最終監獄と奈落だけは今と変わらない状態にせねばならん。奈落も最近かなり荒ぶっているようだしな。」
「で、どうするんだい?」
「あぁ、続きをせねばな。」
話し合いが1日で終息することはなかった。
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地獄・ガルガの丘
「ふぅぅぅぅー。」
エクサーは息をゆっくり整え、魔力をゆっくりと剣に流し、ここだという瞬間で目をカッっと開いて勢いよく引っ張った。
パァーン!
エクサーは吹っ飛ばされた。
「はい、もう一回。」
今日ここに一緒に来ていたのはS,Bだった。S,Bは地面にマットを広げ、読書をしてエクサーを見ていた。
パァーン!
「痛ったーー!」
エクサーは頭を勢いよく地面にぶつけた。
「さぁ、そろそろお昼にしましょう。」
S,Bは読んでいた本をパタンッと閉じると、持ってきたバケットの中からサンドイッチなどの昼食を取り出した。
「はい、いただきます。」
「いただきます。」
2人は昼食を始めた。
「美味しい?」
「うん。」
「ならよかった。」
丘ということもあり、心地よい風が吹き、楽しく昼食を摂った。
「全然抜ける気しないんだけど。」
「まぁまぁ、もう少し頑張りなさい。」
全く抜ける様子のないこの状況にS,Bもかける言葉が見つからず、なんとなくで声をかけた。
「はぁーーーーーー。」
エクサーは大きなため息をついた。
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「こいつは。」
この言葉を言ったのは、白く燃える火の玉だった。
ここは何も物がない、ただただ全てが白い、謎の空間だった。
その白く燃える火の玉の見る方向には、エクサーが映し出されていた。
ーー終ーー