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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 3章 『黒腕』
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 31 第1ラウンド


 「楽しもう…リンド。」


 2人が構えた。

 その間にある確かな間合いは緊張感を孕んでいた。

 この緊張感は見る者をまるで今から自分が戦うと錯覚させるほどに濃密なものだった。


 「では…準備はいいですか!」


 レフェリーは今すぐ逃げ出したかったが、プロ根性でその思いをなんとか止め繋ぎいだ。そして、額から汗を滴らせながら、2人に聞いた。

 

 「愚問!!」

 「…」


 グガットは戦いを楽しみたい一心で笑って返す。

 リンドはそれと対照的に、冷静に敵を見極めるようにグガットを睨んだ。


 「勝負……はじめ!!!!!」

 

 レフェリーが手を勢いよく振り下ろし、開戦の合図を宣言する。

 その瞬間、2人はフライングギリギリのところで、拳を衝突させた。それにより発生した衝撃はレフェリーを吹き飛ばし、リングの外にいる観客にも届いた。


 「やるな…リンド!!」

 「…」

 

 グガットの褒め言葉をリンドは喜ぶことなく、そのまま右に流した。

 その直後、グガットはいきなり力を弱めた。その影響で、リンドの重心が前に揺らぐ。

 グガットはそこを待ってましたと言わんばかりに、さらなる力を込めて拳を押し出し、リンドをリングの端に吹き飛ばした。


 吹き飛ばされたリンドは口から血を含んだ唾液を床に吐き捨てた。

 そこ目掛けて、グガットは飛び上がってリンドに追い打ちを決めに来た。その顔は白目で笑みを浮かべるなんとも狂戦士(バーサーカー)じみた顔をしていた。

 

 リンドは攻撃を避けながら逃げる。

 

 グガットは素早く猫のように動き回るリンドを捉えるのに苦労を強いられていた。

 どうすれば、捉えられるかをグガットは巨体を動かしながら考える。

 その最中、リンドはグガットの視界から姿を消した。


 (…上か!!)


 グガットが気づき、上を見上げた時にはすでに、リンドが頭目掛けて”踵落とし”を叩き込もうとしていたところだった。


 (これは…当たるな…)


 グガットは防御が間に合わないと直感的に理解をした。

 にもかかわらず、グガットは笑ったのだ。


 リンドはお構いなしに”踵落とし”をグガットの頭部目掛けて叩き込んだ。

 

 (!?)


 リンドは驚いた。

 命中した”踵落とし”はグガットにまったくと言っていいほど聞いていなかったのだ。

 いや、厳密に言うとダメージにはなっている。その証拠に頭部から出血が確認できたからだ。

 だが、それは肉体的な話だ。グガットはこれに全く怯まず、それどころか笑って、リンドの足を掴んできたのだ。


 グガットはリンドの足を掴み、思いっきり振り回始めた。

 その様子はまるでヌンチャクを扱うかのように、時に床に叩きつけたり、時に自身の鎧のような肉体に叩きつけたり、道具のように扱われたリンドの体には傷が生まれていた。

 その後、最後の一撃と言わんばかりに、グガットはリンドの顔面をちょうど自分の正拳突きが当たる場所に誘導し、リンドの顔面をぶん殴った。

 リンドの顔面を打った時、鈍い音が会場に響いた。


 リンドは鼻から切れた唇から目から血を流していた。

 その様子を見たグガットは、ゴミでも捨てるようにリンドを軽く投げ捨てた。


 「ハッハッハッ!!強すぎてしまったかな?」

 

 グガットは笑いながら、天井を見た。

 これは勝利を確信した高らかな笑いだった。


 「…ん?」


 グガットは突如、高らかな笑いを止めた。

 そして、視界にふらふらと立ち上がるリンドを視界に収めた。


 「立つか、リンド…だが今のお前ではオレにやられるのが精一杯ではないか?」


 グガットは冷たくリンドを笑った。


 ヒビの入った左腕。鼻血。右目の破壊及び出血。切れた唇。

 このどれもが、今のリンドを満身創痍と呼ぶには相応な状態であった。


 「だが、それでも挑んで来る…その戦士としての姿勢には敬意を払わねばなるまい。」


 グガットは腰を大きく落として、構えた。


 「お前が死すまで…何度でも殴るとしよう…」


 リンドにグガットの言葉は届いていなかった。

 それ以前に今、立っているリンドに意識はなく、別の場所にあった。


 ーーーそれは記憶の中。過去に意識はあった。


 リンドは1つの古い記憶に辿り着いていた。

 そこには、自身を血を流して覗き込む、灰色の肌をした女の悪魔の姿があった。

 その悪魔はリンドを見て一言言った。


 「あなたにこれは似合わない…」


 この言葉を聞いたリンドは一瞬にして我に帰った。

 リンドは辺りを見渡す。

 右目は見えない。見える左目で分かったことは、床に自分へと続く血痕。そこから推測するに、自身の出血だった。


 リンドは自分の血を見た瞬間に、記憶の中で灰色の女の悪魔の言っていた「あなたにこれは似合わない…』が血を指していたと、直感的に理解した。

 そして、次の瞬間、リンドの体はみるみるうちに元通りに回復を始めた。


 魔法が禁止のこの試合で、回復魔法は御法度。レフェリーはリンドを止めようとしたが、それをグガットが止めた。

 

 「多めに見てやれ…オレが許す…」


 リンドの体は傷を治すと同時に両腕から蒸気を発生させた。

 すると、リンドの両腕は指先からどんどんと黒く固くなり始めたのだった。


 「黒腕(こくわん)…やっと出したな…!!」


 グガットは冷たい笑みから、喜びの笑みへと顔を変えた。


 「ではこちらも、全力でないといけないな!!」


 グガットは力み始めた。


 「ハァァ!!潜在解放(バースト)ォォォ!!!」


 リンドの体はさらに大きくなり、体色が少し赤黒く変色した。


 『潜在解放(バースト)

 自身の体の防御能力を極限まで攻撃能力に回す、いわば超攻撃特化戦闘タイプに変身する技。


 「さぁ、やろうか。第二ラウンドだ!!」


 ーー終ーー


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