29 落ち着き
地獄・クリスト城
「あ”ぁーーーーーーー!!!!!」
大きな声に城の近くの木に止まっていた鳥達もびっくりして飛び立った。
「エクサー、大丈夫ですか?」
「ダメっぽい。この前よりも、痛い…痛すぎる。」
「耐えてください。」
ピアノはエクサーにエールを送った。
エクサーは暴走魔強化時、体を破壊しながら行動を行う。それは強大な力を手にするが故に仕方のないことだった。加えてエクサーは暴走中に自我を無くし自制ができなくなるため、倒される以外では止まらず、体を壊しながらそれを理解しないまま動くため、目を覚ました頃には体はボロボロだった。
「エクサー、果物持ってきたわよ〜。」
S,Bが果物のいっぱい乗った皿を片手に部屋に入ってきた。
「大丈夫そう〜?」
S,Bはピアノに果物の皿を受け取り、りんごっぽい果物の皮を剥き出した。
「全然ダメです。」
「まぁ、魔力も少ないようだし、一旦は自然治癒に任せるしかないわね〜。」
エクサーに回復魔法を使う者は誰もいなかった。正確には使うことができなかった。
それは、エクサーの魔力回路と回復魔法に訳があった。エクサーの魔法回路は不完全な暴走魔強化の無茶な行動によってズダボロになってしまっていた。そのため魔力回路を通して全身を治癒する回復魔法の効きは、通る道がないため、0だった。
さらには、もし回復魔法を使って無茶に回復すれば、魔力回路が一生修復できなくなったり、運が悪ければもう一度、暴走魔強化してしまう可能性すら考えられた。だからエクサーの生物としての治癒に任せるしかなかった。
「あら、そういえばA2はまだ来てないの?」
「来てないです。」
「そろそろ、来ると思うのだけど。」
ピアノは皮を剥いたりんごっぽい果物を一口サイズに切った物をエクサーの口に近づけてきた。
「あの、食べられますよ、自分で。」
「そんなわけありません。大人しく食べてください。」
動けば激痛。エクサーはピアノにあーんしてもらって果物を食べた。
すると、部屋のドアを誰かがノックした。
「やぁやぁ、エクサー。相変わらず元気そうじゃないねぇ。と・り・あ・え・ず無事で何よりだ〜。死んでしまったら元もこもないからね。」
ドアを開けて部屋に入ってきたのはA2だった。相変わらず演者のような動きをして喋った。
「あれ?F,Dは?一緒にこなかったの?」
S,Bは、周りをキョロキョロと見た。
「あぁ〜、怖がってクローゼットから出てこないフォルテをなんとか外に出そうとしているよ。」
ーーーーー
「おーい、ピアノー。怖くないから出てこーい。」
部屋ではF,Dがクローゼットに話しかけるというなんともシュールな状況が繰り広げられていた。
F,Dの話しかけているクローゼットの中にはフォルテが入っている。
「おーい、フォルテの好きなチョコケーキあるぞー。」
クローゼットからの返答はない。
「はぁ…」
F,Dはため息をついた。
ーーーーー
「あら、そうなの。時間に任せるしかないと思うけどねぇ。」
「そうそう、エクサー。そろそろ君には生身の状態でしっかりと戦えるようになってもらいたいから、君に魔器を持たせようと思う。」
「魔器?」
「そう、魔力に対応できる武器のことだ。私には1つ、もし使えたら強力な魔器に心当たりがあるんだ。」
「ふぁふぁった。」
エクサーはピアノに切られた果物を無理やり口に入れさせられた。
「まぁ、とりあえず万全の状態にならなくてはいけないがね。」
エクサーが話終わると、毎回毎回ピアノがエクサーの口に果物を放り込んだ。
そしてエクサーの顔はリスのような顔になった。
「アハハハハハハ。」
S,Bも思わず笑った。
「まぁ、とりあえず安静にすることだ。」
「ふぁーい。」
「ところで、S,B。今日のご飯はなんだい?」
「あんたねぇ。」
地獄は色々あれど、平和を取り戻しました。
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天界・ガブリエル宮 数日後…
「ん?見ろ誰か来るぞ。」
「今日、誰か来る予定あったか?」
「いいや、聞いていない。」
宮殿の門番は、警戒の体制をとった。
しかし、その警戒は必要ないとすぐに気づいた。
「これはこれはミカエル様、いきなりの訪問。何かありましたか?」
ミカエルが宮殿に来訪したのだった。
「ラキとナド、ロルはいますか?」
「はい、いらっしゃいます。しかし、ロルエルはやはりまだ体調がすぐれないようで、2人の半分の時間だけ働いてもらっています。」
「もう少し安静にしてほしいと私からも言ったのですが。」
あの後、ミカエルは罰として、ナドリエルとラキエルにガブリアル宮の雑務を言いつけた。
そのことをロルエルにも伝えると、ロルエルは自分もと言って同じように手伝った。
ロルエルは、外傷こそ回復したものの、叩きつけられたことによる肉体や魔法回路の損傷か回復とはいっていなかった。
「とりあえず、通りますね。」
「はい、どうぞ。」
そう言うとミカエル宮の扉が開いた。
ガブリエル宮・調理場
「ねぇ、ナド。このケーキ美味しそうじゃない?」
「ダメよ、食べちゃ、えぇ〜いいだろ。一口ぐらい。」
「絶対ダメよ、ロルじゃないんだから。」
「えぇ〜、いいだろ〜。」
「ダメ。」
調理場を掃除中のラキエルとナドリエル。ラキエルは勝手に冷蔵庫を開け、中に入っていたケーキをつまみ食いしようか悩んで、ナドリエルがそれを止めていた。
その2人の背後から聞き覚えのある声がした。
「順調そうですね。」
2人はこの声に驚くと錆びついたようにゆっくりと声の主の方を向いた。
ミカエルがいた。
「「ミ、ミカエル様。」」
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ガブリエル宮・食の間
「元気で安心しましたよ。全く。」
あれから2人はミカエルに怒られ、その後、おやつとして紅茶とクッキーを食べていた。
「ごめんなさい。」
「いいんですよ。ナド。それよりも、ラキ、あなたはもう少し反省しなさい。」
ラキエルは、クッキーを食べ終わってしまい、知らん顔でナドリエルのクッキーを盗もうとしていた。
「皆、元気でしたか?」
「「はい!」」
「そうですか。」
ミカエルは、サラマエルの消滅に2人が心を痛めていると思っていたが大丈夫そうだった。
否。そんなことはないことはミカエルにはお見通しだった。ミカエルに心配させまいと2人は気持ちを押し殺していた。本当は大きな傷が、穴が2人にあることはわかっていた。しかし、ミカエルはそれを聞くことも掘り起こすこともしなかった。きっと限界が近づけば2人は頼ってくると思ったからだった。
「ガブリエルは元気ですか?」
「それが、一回も顔を見ていないんですよ。」
「そうですか、そってしておいて下さい。」
それから3人は近況報告や雑談をし合った。
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「では、手伝い頑張ってくださいね。」
ミカエルは食の間を後にしようとした。
「ミカエル様、いつになったら復帰できますか?」
図々しくもラキエルはミカエルに聞いた。
「頑張り次第ですね。」
ミカエルは笑って食の間を後にした。
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ガブリエル宮・最上階・ガブリエルの間
ミカエルは目の前の施錠のかかった大きな扉に前に立った。
その前でノックをしてその先に話しかけた。
「お久しぶりですガブリエル。元気ですか?」
反応はなかった。
「私の宮殿にいつでもきてくださいね。」
そう言ってミカエルは扉を後にした。
その扉の先はカーテンを閉め切って真っ黒な部屋の中でベットの上で布団にくるまった少女の天使がいた。その天使は、一滴の涙を流した。
ーー終ーー
天使編は終わりです。短かったですね。
ラキエルはエクサーのライバルポジになる予定です。
ちなみに最後に出てきたガブリエルは結構大事な役割を持っています。