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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
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 219 一瞬の一線超え


 地獄


 「はぁっ!!!」


 アレクトーンは多量の魔力を放出し、ナールガを上から切り伏せる。ナールガはコレを体を横にズラして回避し、横からエクサーに蹴り振るった。エクサーは体を反らせて蹴りを避けたが、遅れて右頬に切り傷ができる。


 (避けたと思っても避けきれてない!)


 エクサーは体を反らせた勢いでバク転を2回。ナールガから距離を取る。


 「ちょこまかと…!!」


 ナールガは全身を力ませるとエクサーに弓から放たれた矢の如く向かって行く。エクサーはアレクトーンを構えて全身に魔力を回すが、全身に魔力が回り切るよりも早く、エクサーに連打が打ち込まれる。


 (スピードが…上がってる!!この後に及んで!!)


 ナールガの魔力回路はA2により破損している。出力は完全に落ちて無理はできない状態である事は否定のできない事実である。しかし、この破損はエクサーを上回るには、まだ事足りるというのもまた1つの事実であった。


 エクサーは連打の4割を防いだがそれ以上は見事に全身に叩き込まれた。後ろに体がよろめき、軽度の脳震盪を引き起こされ、視界が揺れる。ナールガは高速でその背後に回ると、エクサーの後頭部を蹴って、地面に顔を打ち付けさせた。

 顔面から地面に蹴り伏せられたエクサーはピクリとも動く様子を見せず、完全に伸び切っていた。ナールガはそれを見ると、背を向けてどこかに歩き始めた。


 「…クソッ!無駄な体力使った…早く魔力回路の修復を…」


 ナールガはエクサーという障害物を相手にしたこの数分に怒りを湧き立たせながらも歩いて行った。


 ーーーガサッ!


 ナールガの背後から物音が聞こえる。ナールガはすぐさま振り返ると、そこには顔面の負傷を治しながら立ち上がったエクサーがいた。立ち上がったエクサーを見たナールガは歯を軋ませ、目が軽く充血し、鼻息荒くした。


 「終わって…ない…」


 エクサーはボソッと言葉を吐くとゆっくりとナールガに向かって歩き始めた。


 (もう1人の僕…聞こえる?)

 ((はいはい。))

 

 エクサーは歩きながらもう1人の僕(ドッペルゲンガー)に話しかけ始めた。


 (何%からできる?)

 ((何%?”進行化”の事かい?う〜ん…そうだなぁ50%かな。))

 (じゃあ60%出す。よろしく。)

 ((いやいや話聞いてた?最初から50%以上を出すと後が大変なんだ。だから段階的に出力あげなきゃ…))

 (目の前の敵にはそんな流暢な事言ってられないんだ。)

 ((はぁ…仕方ないなぁ。こっちも頑張るから頼むよ僕。))

 (ありがとう。)


 話を終えると、エクサーの背中からは翼が生え、右額から捻じ曲がった禍々しいツノが生えると次に尾が生まれる。爪は鋭く伸び、少し大人びた風貌になると『悪魔進行化・60%』の姿になる。


 歩み寄るエクサーとナールガの重心が同じタイミングで少し前に傾く。その次の瞬きの瞬間、アレクトーンとナールガの拳が衝突する。エクサーもナールガも歯を食いしばって負けじと魔力を流した。


 ”悪魔進行化”により先よりも幾分か出力の上がったエクサーであったがそれでもナールガと肩を並べるにはもう一声が必要であると理解した。


 エクサーは一瞬、魔力を流すと、拮抗を押し込むように勢いよく”大噛”を放った。ナールガはコレに押されて体勢が崩れ、胸に右肩から斜めの大きな傷を負う。この攻撃により噴き出た血がエクサーの服に吹きかかる。

 だが、大きな技には大きな後隙がついてくる。攻撃が終わった一瞬のエクサーの体の緩みをナールガは突いてきた。傷が自動的に即座に癒したナールガはエクサーに殴りかかる。


 (間に合えッ!!)


 エクサーはアレクトーンを使って、紙一重で防御が間に合った。しかし、勢いまでは殺しきれずに後ろの大きく弾き飛ばされる。コレと同時。アレクトーンに初めての刃こぼれが起きた。

 だがそれを労わっている暇などなかった。もうすでにナールガの猛攻は目前に迫っていたからだ。


 エクサーがアレクトーンを強く握ると、剣身から炎を纏ったように魔力が流れ出る。そして、放たれる出し惜しみが一切無い”大噛”は、目の前に差し掛かっていたナールガの右拳をぶった斬るには十分な火力だった。

 だが、ナールガはこれで怯まなかった。体を捻るとすぐさま回し蹴りに思考をシフトし、エクサーの横っ腹を蹴り飛ばした。


 エクサーは地面に転がりながら、体勢を戻して立ち上がる。

 ナールガも真っ二つの右腕をすぐに癒すと一気に加速してエクサーに向かう。エクサーも少し遅れてナールガに向かうと、2人はまたもや衝突した。


 ((はい、おまちどお!!一気に10%UP”進行化・70%!!))


 ここに来てもう1人の僕(ドッペルゲンガー)の進行化の準備が整い、エクサーの出力が上がる。そして、エクサーの容姿はさらに禍々しく悪魔的で大人びたものに変化した。


 「こんのッ!!」


 エクサーは出力が上がった事を確認すると全身を力ませる。コレと同時、ナールガも全身を力ませた。結果、2人の力が示し合わせたかのように同時にぶつかり合うと、2人共少し後ろに飛ばされる。そして、2人は同時に踏み込んでナールガは拳でエクサーは斬撃で連打の拮抗状態を作り出した。


 この時、エクサーの進行化はこの連打の最中、72%…74%…75%…76%と続くように上がる。エクサーは出力が上がり、動きがどんどんと鋭くなっていく。結果最終的に進行化は79%まで上がった。

 一方のナールガは、上がって行くエクサーの出力と逆の苦戦を強いられている。ナールガの魔力回路は戦いが長引き、魔力を使う程に傷を大きくしていくのだ。

 魔力回路の破損がなければ、エクサー程度簡単に倒せるのに、それができない。ナールガは強烈なもどかしさを感じていた。


 (このまま押し切って体勢を崩す…そして…崩れたところを”大噛”で!!!)


 エクサーはさらに手数も出力も上げる。次の一撃でなんとかナールガを沈め切るために、自分の余力をナールガの魔力を削る事に少しでも使いたかったからだ。


 アレクトーンに切られた際に出たナールガの血の飛沫が宙に飛び消えては生まれを繰り返す。


 ーーー『もう…良いではないか?』


 連打の最中、ナールガの内側から自分ではない誰かが話しかけきた。そして、その声はナールガの諦めを誘った。

 コレを聞いたナールガは周囲の時が止まったような感覚になると、体の中から何かが込み上げて来た。


 (黙ってろ!!!誰だか知らないが…オレの邪魔をするなァァァァァ!!!!!!!)


 ナールガの怒りがいきなり飽和したのだ。

 コレは対面しているエクサーにも届いた。明らかにナールガの魔力の流れがさらに荒々しくなったのだ。だが、ここで引いては今までの苦労が水の泡。なんとかこの流れで倒し切りたかったエクサーはさらに手数を増やそうとした。

 

 ーーーその時だった。

 ナールガの連打がいきなりエクサーを手数で威力で上回り始めたのだ。


 (なんだ!威力と速度が上がっている!?)


 エクサーが驚くと一気に押し込まれ始める。


 (ヤバい!!このままだと防御が…)


 そう思った時、エクサーは連打に負け、全身にナールガの連打を浴びる事になった。

 エクサーは連打を受けて後ろの地面に勢いよく吹き飛ばされる。突然の事にまだ頭が追いついていない様子で目が揺れている。

 数秒後、エクサーがハッキリとした意識を取り戻し、焦って体を起こしてアレクトーンを構えた。先にいたのは息を切らし、白目で眉間にシワの寄ったナールガだった。


 エクサーは何故いきなり優勢を取っていた自分が負けたのかを考え始める。だが、一向に理由らしき理由が見当たらなかった。決して出力は上がっていなかったし、魔力量が増えたわけでもない。


 「どうなってるんだ…」


 エクサーは思わず声を漏らした。この後に及んでまだ自分に不利的状況が舞い込む可能性が出てくるとは思ってもなかった。


 考えを巡らすエクサーの前で、ナールガは歯と歯を強く噛み締めながら、スーッと言う音を鳴らして息を吐くと一歩を踏み出した。その次の瞬間、瞬間移動にも見える速度でエクサーの前に移動すると、エクサーの顔面を殴り飛ばす。さらにナールガは吹き飛んだエクサーに追いつき、攻撃を加えた。その攻撃回数と威力はエクサーのフルオートの回復魔法を凌駕する程だった。

 だが、その途中、ナールガはいきなり身体中が痛んで攻撃の手を止めた。エクサーは地に伏せ、回復魔法を高速で回すと元通りに回復し終える。


 ”一体ナールガの身に何が起きたのか?”

 出力も上げず、魔力回路は以前壊れた状態のナールガに起きた事。それは…


 ーーーミカエルに没収されていたはずの”魔術の帰還”であった。


 〜〜〜〜〜


 ナールガの魔術は、ナールガと言う存在を形を保つ上で必要なピースであった。それがある時、いきなり無理矢理に没収された。それ以来、ナールガの体は本人の意識外で違和感を感じて生きていた。必要なもの、あるべきものがない。埋まらない空洞が空いてしまっていたのだ。

 だが、ナールガの体はそれをそれで終わらせなかった。ナールガほど強力な悪魔であれば、空いた穴を元に戻そうとする力が強い。つまり、常に元の形に体が戻ろうとしていたのだ。


 ミカエルの魔術の没収はミカエルの濃度の高い魔力と魔力量で魔術を摘出し、それを魔力で覆って管理するという単純な手法であった。ここから魔術を元に戻す際、障壁となるのはミカエルの魔力というただ1つだけだった。

 

 この唯一にして最難関の障壁を今、ナールガの魔力が突破した。

 いや正確に言うとナールガの魔力に上乗せされたサタンの魔力が突破したと言う方が正しかった。

 かつて、ミカエルと同等、もしくはそれ以上とまで呼ばれたサタンの魔力を持ってすれば、ミカエルの魔力の突破は可能ではあった。それもA2が魔力回路を破壊し、魔力を思った以上に消費できなかった結果、ナールガの魔力とサタンの魔力が有り余っているのが原因だった。

 

 〜〜〜〜〜


 ”連打”を取り戻したナールガにはそれを理解する理性は残っていない。ナールガにあるのは敵を倒し、自分の強さを証明する事ただ1つ。それしか見えていなかった。

 

 狂戦士(バーサーカー)となったナールガはエクサーを殺しに向かう。エクサーも諦めるわけにはいかず、対抗して見せたが攻撃をされればされる程、ナールガの威力と速度が上がるため、アレクトーンで捌ける量がどんどんと減っていった。

 だが、完全に勝ち筋が断たれたわけではなかった。ナールガは魔術の反動で猛烈な痛みにたびたび襲われ、その度に動きが鈍る。エクサーはそこを狙う事にした。


 そのチャンスはすぐさま訪れた。連打をしていたナールガの動きが鈍ったのだ。


 「”大噛”!!!」


 エクサーは”大噛”でナールガの首を狙った。


 エクサーが確実な急所である心臓ではなく首を狙ったのか。それは今のナールガの状態から首を切るだけで再生する事ができないと見たからだった。


 魔力回路が万全状態のナールガであれば、首を切られると思ったら、魔力を首から下に流して、頭を捨て、首から先を再生する方法を取る。ただ、脳と心臓部を切り離す方法は再生できはするが、魔力を大量に必要とし、その大量の魔力を流すための魔力回路の耐久が最低条件となる。今のナールガに首を切られて再生できる余力はなかったのだ。

 それに心臓と脳は生命活動上、必要不可欠な部分であると体が勝手に認識しているために、体が魔力で勝手に守る場所でもあった。そのため、直接的に脳や心臓を突くよりも首を切る方が楽なのだった。


 首を捉えたかに見えたアレクトーンだったが、ナールガがそれよりも前に体の鈍りから解放され、右手でアレクトーンの剣身を掴んで止めた。


 (ダメか!!)


 エクサーの攻撃が止められた以上、ナールガの攻撃が再開する。エクサーはこの連打をなんとか耐え切り、次の”大噛”のタイミングを狙った。

 

 ーーーだが、エクサーもわかっていた。

 そう何度も”大噛”を決める余裕がもうないのだ。”大噛”の試行回数を増やす事はその分だけナールガの連打を受ける事と同義。しかもナールガの攻撃は威力を増し続ける。さらにここに来て、暴走したプレズデントとの戦いの際の大胆な魔力消費が痛手になる。魔力の底が薄らと見え始めて来てしまったのだ。

 

 それでももう一度ナールガの動きが鈍る。

 エクサーはこの瞬間で打ち込まれた痛みを全て振り払って首を狙った。


 「”大噛”!!!!!」

 

 先ほどよりも声を大きく言い放つ。そうでもしてエクサーは自分を奮い立たせたかったからだ。

 アレクトーンはまたもや横から首元を狙った。ナールガはそれに気がついて右手で止めにかかるが、先程よりも体が大きく鈍っているのか、動きが遅く、右手に魔力が行き届いておらず、簡単に切る事に成功した。ナールガは左手でも守りにかかるが、それよりもアレクトーンが首に届く方が速い。エクサーは当たると確信した。

 しかし、ナールガは口を大きく開け、剣身の方を振り返ると、剣身を歯で噛んで止めて見せた。


 「ダメかッ!!」


 エクサーはアレクトーンを引き抜いて、急いで距離を取ろうとするがナールガの咬合(こうごう)力がそれをさせない。白目で獲物を離すまいとする姿はまさに獣のそのもの、野生そのものであった。

 ナールガはギリギリと音を鳴らしながら噛み付く。次の瞬間、ナールガの噛んでいるアレクトーンの剣身にヒビが入り始めた。


 (マズい!!このまま剣を噛み切る気か!?)


 エクサーは急いで引き剥がそうと、体を後ろに引いて、剣を力一杯引くが全く動く気配がない。


 (どうする!?どうする!?剣を失えば、僕は素手一貫。それじゃあ負ける!絶対に負ける!!)


 エクサーはなんとしても剣身に傷が入る事を回避しようとするが、現実は無情であった。エクサーの体がいきなり浮遊感を覚えた。ナールガは噛んでいた部分を(かじ)り取ってしまい、ナールガからの力が消えたのだ。

 エクサーは自分が後ろに体重を掛けていたせいで、後ろに後退する。その最中、剣身を見ると全体にヒビが広がり始めていた。エクサーはすぐさま自分の魔力でヒビの入った剣身部分を保護して、これ以上のヒビの侵食を防ぐ。


 ナールガはここに怒涛の連打を打ち込む。

 エクサーはコレをほとんど魔力と防御魔法で耐え切る事を選択する。これ以上、アレクトーンで防御をすると破壊を進める事になると考えたからだった。


 (後1回…後1回…次で決められなきゃ…僕の負け…)


 エクサーは殴られながら次を考えていた。すると、想定よりも何倍も早くナールガの鈍りが発生し、攻撃が止んだ。ナールガの攻撃力が上がれば上がるほど反動が大きくなっている証拠だった。


 「ここダァ!!!!」


 エクサーは剣身のヒビの入っていない方に持ち変えると、大きく一歩を踏み込む。そのままナールガの横に回り、上からうなじを狙ってアレクトーンを振り下ろした。アレクトーンが首に届く道すがら、防御に回ってきたナールガの両手を切り飛ばした。残りはうなじを斬るだけ。そして、アレクトーンは初めてナールガの首を捉えた。

 だが、コレで終わりではない。ナールガは防御手段がないと見て魔力をうなじに集中させている。簡単に斬る事は叶わなかった。


 エクサーは今まで自分が握った事のない強さでアレクトーンを握って、魔力を放出している。手に汗握るとかそういうレベルの話ではなかった。


 ((お待たせ!!これ以上は未体験だからコレが限界!!))


 エクサーがもう一声を欲していた時、もう1人の僕(ドッペルゲンガー)の調整が間に合い、声がかかる。

 すると、エクサーの体がより禍々しく変化して大人びる。ほとんど背丈も容姿も青年のように変化した。


 ((お待ちかね”悪魔進行化・89%!!!))


 エクサーは”悪魔進行化・89%”が間に合ったのだった。

 89%はエクサーが体験して、今のエクサーでなんとか悪魔化を進行できる数値だった。これ以上は暴走の危険があるとA2に止められているため、自制を利かせてこの数値に抑えている。90%の大台は未だ未到なのだ。


 エクサーは圧倒的な出力を手にした。しかし、出力が上げる事ができても、残りの魔力量がそれほど多いわけではない。正真正銘の最後をエクサーは覚悟する。

 お互い、全身の力を入れているせいで歯にヒビが入り、歯茎から出血。目も充血し、体が小刻みに震え始めた。


 (!?)


 ここでエクサーナールガの体が起き上がり始めてきている事に気が付く。

 ナールガがだんだんと鈍りから解放されつつあったのだ。今、エクサーは上からナールガの首を剣で押さえつける状態になっているためポジションとしては最高。だが、コレでもし押し返されれば、次に待つのは不利…それどころか死。


 (僕…)


 エクサーはもう1人の僕(ドッペルゲンガー)に話しかける。


 ((どうした!集中しろ!!))

 (無茶するから…よろしく…)

 ((は?))


 エクサーはもう1人の僕(ドッペルゲンガー)にそう言うと、無理やり”悪魔進行化・90%"を超えた。エクサーの魔力の人格を司るもう1人の僕(ドッペルゲンガー)を完全に無視して、未到の90%の大台に乗った。


 ((何やってるんだ!!死にたいのか!!暴走するぞ!!!))


 もう1人の僕(ドッペルゲンガー)はエクサーを怒鳴る。


 (こうでもしないと…押し返される…暴走するぐらいの力がないと…)

 ((勘弁してくれ!魔力回路だってボロボロなんだぞ!!))


 さらに、エクサーはもう1%を無理やり上げる。結果”悪魔進行化・91%”に到達した。

 エクサーはそれを確認すると、後先を一切考えずに魔力を放出し、ナールガの首を落としにかかった。地面に亀裂が入り、亀裂により生まれた小さな岩達が2人の周りで浮き始める。


 「ハァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」


 エクサーは大きく声を出して力を全て込める。そしてやっとうなじの肉に剣身が少し入る。それでも、その先にある骨が異常に固くそれ以上剣身が進まない。


 ((マズい!!コレ以上は回路が壊れるぞ!!早く終わらせろ!!!))

 

 もう1人の僕(ドッペルゲンガー)はエクサーに魔力回路の耐久が残りわずかだと伝える。


 (わかってる!!わかってるんだけどさァァ!!!ここでやらないと…後の人が大変だからァァ!!!)


 エクサーはコレ以上出力を上げる事も出力を維持する事も危険な事は百も承知だった。わかっている事をつべこべ言って来るもう1人の僕(ドッペルゲンガー)に怒りを覚えたその時だった。


 エクサーが一瞬だけ大きな一線を超えた。

 これは悪い意味ではなかった。エクサーが地獄中に”黒き稲妻”を響き渡らせたのだ。


 ーーーエクサーが一瞬だけ”魔強化”をして、そのままナールガの首を切り落としたのだ。


 エクサーはこの自分の魔強化を認識できなかった。

 本当にそれほどの一瞬だけだった。だが、そんな一瞬でもアレクトーンの剣身がナールガの首を切り落とすには十分な一瞬だった。

 

 首を切り落とす際のほんのわずかな瞬間、エクサーの体は影に包まれた。しかしそれを誰も見る事は叶わなかった。エクサーの魔強化を証明する事は”黒き稲妻”しかなかったのだ。


 切られたナールガの首は転げ落ちると、頭を失った体が横に倒れた。エクサーの読み通り、首を切っても再生する余力はもうナールガにはなかったのだ。

 エクサーはナールガの首を落とした事を確認すると、仰向け大の字で倒れる。そして、進行化が解除され、姿が元の少年の姿に戻った。


 仰向けで見上げる空。その目に映る空は祝福でもしてくれているように一段と輝いて見え、赤月の光が嬉しく感じた。感じた事のないやり切った感覚にエクサーも思わず笑顔になってしまったのだった。


 「はぁ〜〜〜〜〜。」


 エクサーから気の抜けた声が出る。


 魔力回路もボロボロ、魔力切れ一歩手前。なぜ勝てたかはパッとはわからなかったが、そんな事を考えようとはエクサーは思わなかかった。それ以上に達成感が強かったのだ。

 エクサーは右手に重なったアレクトーンを見る。アレクトーンの剣身はヒビを魔力で止めた時よりも大きくなっているがなんとか剣身を保った状態だった。エクサーはそんなアレクトーンにお疲れ様と言わんばかりに微笑み掛けた。


 すると、ちょうど反対側から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。エクサーは顔だけ振り返ると、そこには長身、白髪、赤い瞳、白スーツ、赤ネクタイの見慣れた悪魔がいた。


 「あっ、A2!」


 A2だった。A2は何やらニヤニヤしてウキウキしている様子だった。


 「お疲れ様エクサー。素晴らしい成長だ。まさか自制状態の魔強化を体験するとはね。」

 「魔強化?」

 「あぁそうだよ。気づいていないのかい?その証拠にさっき”黒い稲妻”私の後ろに落ちたよ。」

 「えぇ〜勘違いじゃなくて?」

 「そんなわけあるもんか。どう間違えるって言うんだい?」

 「そうか…そうだね。」


 A2は倒れたナールガの体に近づくと、右手を突っ込み、中からサタンの封印部位である”左腕”、”右腕”、”右足”を引っ張り出した。


 「わぁ!ちょっとグロいね。」

 「首を切り落としておいて言うかい?」

 「へへへ…」


 A2はワープゲートの中に封印部位を入れると、ナールガの血で染まった白の手袋を新しい物に付け替えた。そして、次に地面に転がったナールガの頭をヒョイッと拾い上げた。


 「まさかエクサーがナールガに勝つとはね。魔力回路を削っているとは言え大手柄だねエクサー!!」

 「ギリギリだけどね。」

 「勝敗に状態は必要ではないよ。勝ったか負けたかが重要ってやつさ。」

 「それどうするの?」

 「まぁ…微弱な生体反応があるし…復活させてあげようかな。最終監獄(タルタロス)に収監させた方がミカエルも喜ぶだろうしね。」

 「えぇ…復活…させちゃうの?大丈夫?」

 「大丈夫大丈夫。最終監獄(タルタロス)にいるなら、もし万一があっても私が動ける。その契約の元、ミカエルにも復活を申請するとするよ。」 

 「頼むよ。もう2度とこんな戦いしたくないから。」

 「ハッハッハッ!!任せてくれよ。」


 A2は大の字で寝そべるエクサーの方に近づく。そして満足げなエクサーの顔を見て一言。


 「なんで笑っているんだい?」

 「別にー。」

 「そうかい。じゃあ歩いて帰ってくれ。」

 「薄情!疲れて立てないんだけど!!」

 「はぁやれやれ、生首片手におぶって帰るとするか〜。」


 A2はエクサーをおんぶすると生首を片手に、空に飛び上がってクリスト城の方角に飛んで行った。


 「ところでA2、天界にいたんじゃないの?」

 「まぁ…近況報告は後にしよう。私も疲れているのでね。」

 「わかった。」


 ーー終ーー



 Q,魔力回路が破損しているのになんでナールガは魔術を使えるの?


 A,ナールガの魔術は使用した時の魔力の流れが他とはちょっと違うからです。

  例えば、A2で考えてみます。A2は破壊する時に魔術を使用するため、その分の魔力を一瞬だけ大量に流す事になります。コレだと魔力回路に負荷がかかりますがナールガは違います。

 ナールガの魔術は常にONの状態が正常な状態です。なのでA2のように”その時だけ魔術を流す”のではなくて、常に魔術を使用して、いつ殴ってもバフの付く準備万端状態で魔力を一定で流しているわけです。もちろん、その状態になると流す魔力量は多くなりますが、ある程度魔力を小出しにしている+魔術が100%戻っているわけではない事が相まってなんとか、魔力回路が破損していても耐えられていたわけです。


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