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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章 『次なる王』 ー大魔界の異常ー
222/225

 216 予感と1分


 地獄・サンクタムシティ


 エクサーとドラギナvsプレズデントは限りなく平行線のような戦いだった。

 無理もない話ではあった。ドラギナの体温は緩やかに低下中であり、それをエクサーが補助しながらの戦闘。エクサーがプレズデントに総合力で勝てていたとしても、ドラギナを庇う事に労力を割かるを得ないせいで実質的に実力が(なら)されてしまうのだ。


 「足手纏い連れてて大丈夫かエクサー?」

 「大丈夫。いないよりもいてくれた方が心強い。」


 ドラギナは冗談8割でエクサーに言った。ドラギナとしても自分がエクサーの足枷になっている事は重々理解できていたのだ。

 ただ、エクサーは今、足手纏いと自分を称するドラギナを横にしてもそれ程に辛いとは思っていなかった。

 

 「そう言ってくれて嬉しいよっ!」


 ドラギナもエクサーが無理して行っている訳ではないと感じると、今できる精一杯の力でなんとか動きを作った。

 暴走したプレズデントの攻撃は自分の四肢をムチのようにして振り回し、影を弾丸にして飛ばすなど多彩なものだった。この魔力消費度外視の攻撃を見れば、とてもプレズデントが理性的とは言い難い事は誰にでも分かる事だった。


 「ドラギナ!後どのぐらいで下がり切る!?」

 「わかんねぇ!」

 「…わかった!!」


 エクサーは何かを思いついたようにプレズデントに向かって走り出す。

 その途中プレズデントの四肢や弾丸がエクサーに向かって一極集中して襲いかかるが、それをなんとかアレクトーンを駆使して捌く。だが、攻撃の量はプレズデントとの距離を縮める程に比例して増加する。そして、エクサーは上から狙ってきた触手に右足を貫かれ、地面に固定される。そこをプレズデント攻撃が集中狙いした。

 ただ、エクサーは諦めなど一切感じさせない目でプレズデントを見ると、思いっきり、アレクトーンをプレズデントに向けて投げる。プレズデントは攻撃に労力を割いていたせいでアレクトーンを防ぐ事はできずに、巨大な体にアレクトーンが突き刺さる。


 「…()ぜろ!」


 エクサーの言葉と共にアレクトーンはプレズデントの体を吹き飛ばす。これにより、エクサーに届きそうだった攻撃が直前で止まり、影が自壊を始めた。

 エクサーの元にアレクトーンが帰って来ると、エクサーはキャッチして急いでドラギナの元に帰った。


 「随分な賭けだな。」

 「いやぁ〜本当は普通に切るつもりだったんだけど、何しろ向こうの手数が多くてね。でも即興にしては頑張った方じゃない?」

 「まぁな。オレだったらできたかどうか…」

 「できるくせに。」

 

 エクサーは頑張ったアレクトーンに感謝を伝えるようにして撫でた。


 「でも、アレじゃあ先方(せんぽう)は倒れてくれないらしいぜ。」

 「だね。」


 エクサーもドラギナも魔力反応からして、暴走したプレズデントが倒したとは一切考えていなかった。その読み通り、プレズデントはまた影を集めて、元通りになった。


 「やっぱりね。核を攻撃した感じがしなかったから仕方ないけど。」

 「でもダメージは入っているだろう?」

 「どうだろうね。HPが異常に多いボスを相手にしてる感じだから…削れてたとしてもあと何十回も繰り返さないといけないかも。」

 「はぁ〜めんどくせぇな。」

 「でも、悲観的にはならなくていい。」

 「いや、なってねぇよ。」

 「HPが減ってないって思うと攻撃が効いてないんじゃないかって心配になるよね。」

 「ならねぇよ。」

 「分かるよドラギナ。」

 「だから、なってねぇって。」

 「だからこう言う時こそ、前向きに頑張らないと!」

 「ずっと向いてるわ。背筋ピンッ!ってして前向いてるわ。」

 「あれ?ならいいんだけど。」

  

 エクサーはアレクトーンを構える。


 「冗談はこの辺にして。さっき攻撃してわかった。HPが異常に多いだけで、防御面も攻撃面もそんなに特化している訳じゃない。だから時間がかかるだけかもしれない。」

 「どうすんだ?」

 「僕が時間を稼ぐよ。僕の火力は『大噛』ぐらいしかないし、僕が1人で削り切ろうとすると先に魔力切れするかもしれない。ドラギナが元に戻るまでなんとかする。」

 「なんか悪りぃな色々。」

 「別にいいよ。今できる事をやるだけ。」

 

 ドラギナにはエクサーが少し、頼りになる大人に見えた。


 「よし!稼いでくる。」

 

 エクサーは思いっきりプレズデントに走り出した。


 「!?」


 その直後、エクサーは実感する。再生を終えたプレズデントの影を操る数が先ほどよりも増加しているのだ。


 (多いな…気を抜いたらそのまま蜂の巣になる…)


 エクサーはアレクトーンで攻撃を弾きながら、距離を詰めようとする。ただ、それでも弾ける量には1人では限界があった。

 

 「ちっとは役に立たなきゃなぁ…」


 エクサーの背後で魔力の流れの変化が生じる。エクサーが軽く振り返るとドラギナができるだけの魔力を放出しプレズデントの攻撃を引き受けていた。


 「エクサー!時間稼ぎなんて言うな!削って来い!!」


 ドラギナが攻撃を引っ張ってくれているエクサーはこの状況に感謝すると、プレズデントに走って行く。せっかくドラギナが作ってくれた好機に乗じない選択はない。ここでプレズデントを少しでも削っておけば、出力が落ちる事を考え得るのだ。


 エクサーがプレズデントのそれでも向かって来る触手を弾くと、アレクトーンに流れたエクサーの魔力とプレズデントの魔力が擦れ合い、火花が散る。それは先ほどでは起こり得なかった事であり、それはプレズデントの魔力出力の上昇を意味した。

 

 素早く距離を詰めたエクサーはあと少しでプレズデントに届く距離まで来ていた。このタイミングで本体に脅威が迫っていると気がついたプレズデントの影はドラギナを見捨て、一斉にエクサーを迎撃しにかかる。

 しかし、それよりもエクサーが本体に剣先が届く方が早い。エクサーは一気にアレクトーンに魔力を流した。

 

 ドラギナも残った影を倒しながら、エクサーを見て、攻撃が当たると確信した。だが、なんとプレズデントの攻撃がエクサーの背後から間に合い、触手でエクサーの腹とアレクトーンを持っている方の右肩を貫いた。


 (出力を上げて間に合わせた…そんな理性は残っていないと思ったけど…本能的なものか…)


 エクサーはそれでも無理矢理、触手を引き抜いてプレズデントに突っ込んで行く。

 触手はエクサーを貫くのをやめるとエクサーの右腕に絡みつき、思いっきり右腕を引きちぎる。


 「あ”あ”っ…」


 エクサーは触手が右腕に絡みつくと思った瞬間に即座に左手にアレクトーンを移し替えていた。そして、右腕がない状態で切り掛かるが、次は左腕に触手が巻きつき、引きちぎったのだ。

 エクサーの両腕からは見事に柘榴(ざくろ)色の血が吹き出していた。エクサーは急激な出血にその場でアレクトーンと共に血に倒れそうになる。


 「エクサー!!」


 ドラギナが思わず大声でエクサーを呼ぶ。その瞬間、エクサーの意識がギリギリで回復する。エクサーはギリギリで踏ん張って倒れる事を阻止すると、残る力で地面に落ちたアレクトーンを口で咥える。そして、口からアレクトーンに魔力を流し、大噛を決めた。


 プレズデントは痛みに悶えるように体をくねらせると、エクサーへの攻撃が止む。その隙にドラギナがエクサーを回収し、距離を取った。


 「無茶したな。」

 

 エクサーは口に加えたアレクトーンを一旦地面に落とす。そして、魔力を回して両腕を再生した。


 「いやいや一本取られたかな。まさか、出力を極端に上げる理性があるなんて。触手が来る前に攻撃できると思ったんだけど…」

 「オレもそう思ってた。」


 若干の疲れが見えるエクサーだったが、両腕が戻り、魔力で無理矢理、血液の補充をすればおおよそ元通りであった。


 「ドラギナ体温はどう?」

 「比較的低下が緩やかになってきた。あと1分もあれば低下が止まる。」

 「わかった。あと1分ね。」

 「まぁ、じっとしているわけにもいかなそうだけどな。アイツがどうぞどうぞと1分待ってくれるとは思えない。」

 「そうだね。でも逆に言えば1分待てば、こっちの勝ちは確実かな。」

 「あんまオレに期待しすぎるな。」

 「えぇ〜ドラギナ強いから期待してもいいじゃん。」

 「こっちにもプレッシャーがあんだよ。」

 「…!!」


 ここでエクサーは何かを感じ取った。


 「どうした?いきなり目を丸くして。」

 「いや…なんだろう。この感覚…あっちで誰かに呼ばれている感じがする。」

 

 エクサーは左側を指差した。


 「は?こんな状況で誰が呼んでるって?」

 「わからない…でも、行かなきゃいけない気がする。僕が止めなきゃいけない何かが起ころうとしている。」


 エクサーは目を少し虚ろにして、体を乗っ取られたような口調で話していた。ドラギナもその様子にエクサーがふざけているわけではないと確信した。


 「ドラギナ…僕行かなきゃ…ここを任せてもいい?」

 「はぁ…よくわかんねぇけどふざけているようには見えない。あっちでなんかあるんだろ?行ってこい。あと1分耐えればオレはなんとかなる。」

 

 エクサーの虚ろな目が元に戻る。

 

 「ごめんね。ちょっと行ってくる!」


 エクサーは勢いよく空を飛ぶと、予感のする方向に飛んで行った。


 「ってたく、元人間はよくわからんな。何をしでかすかわからん。」


 ドラギナはやれやれと頭を横に振る。その刹那、ドラギナに向かってプレズデントが攻撃を開始した。エクサーの感じた通り、プレズデントの出力が上がっている事にドラギナも気づく。だがそれは裏を返せば、魔力を大きく消費するため寿命を削っていると同義だった。

 それでも、過激性を加速させたプレズデントの攻撃は今のドラギナには苦しい状況を強いる。順調に攻撃を避けているように見えるドラギナでも内心は一度のミスも許されないという緊迫感に駆られていたのだ。


 しばらくするとプレズデントが吠えた。

 そして、攻撃がさらに威力を速度を上げたのだ。


 「マジかよ…」


 ドラギナは思わず、体から血の気が引くのを感じた。

 その理由はプレズデントの攻撃が偶然にも包囲網のようになり、ドラギナの逃げ場を塞いだからだった。


 (ったく、あと少しなのによぉ…)


 確実な偶然の攻撃。

 普段のドラギナならこの程度、自慢の炎を駆使しして回潜れるのだが、今に限ってはそんなことはできない。逃げ場がないなら作れば良いが通じないのだ。

 そして、ついに確実に四方から触手に串刺しにされると思ったドラギナ。そんな時、そのギリギリのところでドラギナの周りに『バリア』が展開され、攻撃を防いだ。


 「なんだ?」


 ドラギナがどこ産のバリアかと周囲を見回す。


 「やれやれ…です。この程度…どうにかできないとは…高潔なイフリートの先祖が泣くですよ?」


 ドラギナが声の方を振り返るとそこには若干フラつき気味のクーの姿があった。

 触手は攻撃の手を止めた。


 「なんだお前、もう動けるのか?」

 「動けるわけないです。無理矢理、動かしているだけです。」


 誰の目から見てもクーは疲労困憊な様子をしていた。

 ドラギナはそんなクーにやれやれとした顔をすると、クーに近づき、クーの頬についた返り血を拭き取って上げた。


 「…ありがとです。」


 クーは照れくさそうにドラギナが血を拭き取ってくれた事に感謝した。


 「こっちこそな。助けてもらってありがとうな。」

 「ところで、エクサーはどこ行ったですか?さっきまでいたはずです。」

 「なんかよくわかんねぇけど、どっか行った。なんか変な事言ってたが、まぁふざけてるわけじゃなさそうだったからいいかと思ってな。」

 「遅刻してきて、その次は早退とかいいご身分です。」

 「おい、クー。魔力はどうだ?」

 「使える事は使えるです。量は少ないし、魔力回路に傷も入っているですが。」

 「戦えるか?」

 「そりゃあ戦えなきゃ、あそこでまだ寝てるです。ドラギナこそ、それで戦えるです?」

 「舐めんなよ…」


 ドラギナは目を瞑ると体温を急激に上昇させる。

 クーが守ってくれた段階で体温が下がり切っていたのだった。

 そして、ドラギナから青い炎が漏れ出すと、2回目の『インフェルノ・イフリート』に変身した。


 「燃やしたらお父さんに言うです。」

 「善処する。」


 ドラギナの変化を横目にクーは、メガネを外すとギリギリ回復した力を全て使う思いで、右目に赤い炎を宿し、『処刑人の魂』を発動した。


 ドラギナはジャンプして首を捻る。

 クーは両手を開閉する。

 各々が軽くウォーミングアップを始めた。


 「やるか。」

 「やるです。」


 2人は笑い合ってそう言うと、プレズデント討伐に向けて、力強い一歩踏み出した。


 ーーーーー


 地獄・???


 サンクタムシティからおよそ15km。

 枯れ果てた荒野に1人の悪魔が口から血を流し、血に伏せていた。

 その悪魔は歯を強く擦り合わせ、ギリギリと音を鳴らしながら、立ち上がる。

 

 悪魔が顔を上げるとそれはナールガである事がわかった。

 その様子は万全とは到底言い難く、フラつきも見て取れる。それもこれのA2の計画的な行動により、魔力回路に損傷を負ってしまった事が全てであった。

 

 (アイツは…アイツは…もっと早く始末しておくべきだった…)


 ナールガの思いはこの一点に支配されていた。

 何度もA2を倒すチャンスはあったのだ。だが、ナールガはA2にトドメを刺すと言う確固たる行動を選択しなかった。心のどこかでサタンの部位を吸収し慢心して、A2は自分にはついてこれないと割り切ってしまっていた自分がいたからだ。

 これがナールガにドス黒い怒りを生み出していた。


 (早く…どこかに…)


 ナールガは不安定な重心を軸に、重く遅い一歩を踏み出し始めた。

 人間界での最後のA2に触れられた時の肉体内部の破壊と蹴りが確実に体に効いていたのだ。


 その目の前にナールガの進行方向を塞ぐようにエクサーが空から滑るように着地をする。


 「「!!!」」


 両者、眼前の存在に対して驚きを表す。


 (あの顔…!マザーシップで会ったナールガ!!)


 サタンの封印部位を吸収し、姿、容姿など見かけに変化が生じているナールガ。それでも、エクサーは今、目の前にいる大魔族とマザーシップで出会ったナールガが同一であると確信していた。

 エクサーはあの時、マザーシップで初めてナールガと対面した時の記憶を思い出すと、体が勝手に剣を構えた。


 「何しに来た…A2の使い魔…」


 ナールガは構えるエクサーに対して、冷たくのしかかるような声を放つ。エクサーは思わず武者振るいをしてしまった。魔力回路が破損し、疲労感も極限に近いよう状態でもなお、今のナールガの底力は並の悪魔を怖気付かせる事ができたのだ。


 「邪魔をするなら…容赦はしない…どけ…」


 エクサーの体が小刻みに震え始める。

 ナールガは一切冗談を言ってはいなかった。ただ、いつもならこんな事を言う前に相手を処している。一応、予防線を自分と相手の前に引いたと言う事はナールガとしても、今、戦闘をする事が懸命とは言い難いと思っていたのだ。


 「いや…引かない…」


 少しするとエクサーが口を開き、ナールガの言葉を否定した。


 「ここで引いたら…あなたを見逃す事になる。そんな力を持つあなたをだ。それだけは阻止する。渦中の元凶のあなたをここで止める…誰かがやらなきゃいけないから…」


 エクサーは震える声を無理矢理抑えて虚勢で言葉を強く放った。

 

 「誰かがやらなきゃいけないだ…?そんな思考をするのはどこの頭お花畑だ…そんな利他的な思考のやつがまだいるとはな…」


 ナールガは構えを取った。

 

 「殺す。」


 戦々恐々とするエクサーに全く慈悲を思わず、ナールガはエクサーに襲いかかるのだった。


 ーー終ーー


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