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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章最終節 『次なる王』 -三界事変-
221/225

 215 計算


 人間界


 ”黒き稲妻”の祝福。

 コレの意味するところは紛れもない魔強化の証。絶対凌駕の証明と君臨。魔力の底力の顕現。

 この祝福の向かう先は身体中を黒い影に取り込まれ、(くれない)色に目を輝かせたA2であった。


 対するギルティとナールガはA2の変化に対して、焦りに近い感情を思った。


 「いい気持ち…だね。晴れ晴れとしているよ。」

 「チッ…まだ隠し玉なんて持ってやがったか…それも一番厄介なものを…」


 ナールガがそう言うと、A2は無言で笑って返した。


 「興味深いな…その変化。溢れ出る魔力、隠そうともしない狂気…闘争における重要点をコレほど野生的に解放しうるとは…」


 一方のギルティは先程まであった憤りを捨て去り、A2の魔強化に対して関心していた。

 

 魔強化により、この場の空気は一斉にA2に寄り添う。風も月明かりもA2に味方をするように世界を作っていた。幸い周囲に民家たる建物も人の影もない。もし、ここにいれば3人のいる場所がいくら上空とは言え、自死を選びたくなる程、空間とそれを作る空気が張り詰めていたからだ。


 時刻は23時59分と34秒。日付が次を迎える時間。

 残りの秒数を3人は無言でそれぞれを向かい合う事に消費する。

 そして、長針と短針と秒針が12の数字で共に重なり合い、遠くの教会の鐘の音が薄らと響いてきた。

 その刹那。3人は示し合わせたかのように衝突を始めた。


 「ッハハハッ!!いい日だねぇ!こんなにこんなにもこれ程に、”存在”に”呼吸”に”時”に快楽を覚えた事はないよぉ!!」


 A2は攻撃に”破壊”を交えながら狂気の笑みを浮かべる。

 ナールガはA2に対して心底怒りを煮えたぎらせた。ここまで来ると何故今までの怒りが自分という器で耐えきれているのかが謎なぐらいであった。


 (計り知れないな…この悪魔は…)


 ギルティはA2に興味を示していた。

 

 (このよくわからない形態変化で我々とナールガ(アイツ)にあった差を一瞬にして埋めて来た。加えて…厄介なのは魔術。瞬間的な火力だけで比較すればここにいる3人の中では最もと評価できる…だが)


 ギルティが稲妻のように成形した魔力を放ち、A2とナールガを貫く。

 2人はこれに強烈な痛みを感じ、口から血を吐いた。

 

 (結局はA2(この悪魔)ナールガ(アイツ)も…存在の上に無理やり、力を上乗せしたに過ぎない。背伸びをすればいつか(ほころ)びが生じる。永続的な力の証明にはならない。真の強者とは素の自分で他者を圧倒せねばならない、そうするために生まれたように…。だから我々は…サタンに敗北したという誤算を払拭(ふっしょく)し、自分を世界に刻む!)


 ギルティは2人を圧倒し始めた。

 これは同程度に見えた3人の実力からギルティが抜け出したという事実の露呈を意味した。

 だが、2人はこれに負けじと喰らいつく。そして、次にナールガが突出し、次にA2が突出し、またギルティが突出するという無限に見える実力の競り合いを見せた。


 「ハイターチッ!!」


 そんな激化する戦闘の最中、A2がギルティの右手に合わせてハイタッチをする。そして、続け様にA2はナールガの攻撃を掻い潜って、ナールガにもハイタッチをする。


 「うぅっ…!」

 「くっ…」


 ハイタッチを受けた2人の全身に激痛が走る。

 それはまるで全身の血管全てに痛みが流れるようだった。


 少し怯んだ2人を見てニヤつくA2だったが、ナールガは想像以上の速さで立ち直るとA2の顔面を殴り飛ばした。

 

 「やっぱり!テメェが一番やりずれぇ!!」


 ナールガは重く素早い一撃をA2に何発も叩き込んだ。

 その度にA2の体からは鈍い音が鳴り響く。

 この攻撃は多くの魔力を纏い繰り出された攻撃であり、その一発一発どれもが生半可な防御を打ち砕く一撃。

 A2は魔強化してもなお、サタンの魔力を孕んだこの攻撃をなんとか耐え切る事しかできなかった。


 その後ろから直線上に並んだA2とナールガを一本の槍が貫く。


 「邪魔しやがって…!」


 ナールガはゆっくりと後ろを振り向き、目を見開いてギルティを睨む。

 

 「『罪の槍』痛くて当然だ。」


 ギルティは痛くて当然と教えるように言葉を呟いた。


 ナールガがギルティを強烈に睨んでいる中、A2は槍に軽く触れ、破壊すると一目散にナールガを蹴り飛ばした。その瞬間に先程とは行かないまでも全身を駆け巡る痛みがナールガを襲った。


 「ッハハッ…強烈だ。この後に及んでまだ、お2人さんの出力が上がるとは…」


 A2は傷を治しながら少し苦しそうに言った。

 ナールガの連撃が想像以上に効いていたのであった。

 そんな弱みを見せるA2はこの状況では格好の餌食。ナールガとギルティがそれを見逃すはずもなく、2人は一気にA2を仕留めにかかる。


 A2は万事休す、誰にもそう見えた。

 ただ、A2は接近してくる2人に対して笑みを浮かべた。

 

 ギルティとナールガは突如として動きを止める。

 

 (なんだ…この感覚…)


 2人は同時に自分の体に大きな違和感を覚えた。

 

 「ッハハハハハハ!!!」


 A2は2人の様子に高らかと声をあげて笑い声を響かせた。


 「あっぶないあっぶない!2人の攻撃を受けていたら死んでいたかもしれないなぁ。」

 「A2…何をした?」

 「何をした?う〜〜ん…まぁ実感してみてくれよ。」


 A2は自身の周囲の空間にヒビを入れ始める。


 「『崩壊天・覇道』…」


 空間に発生したヒビはいくつもの数を重ね、ナールガとギルティに向かって行く。

 2人はこれに魔力を使った防御を行おうとしたが、その時2人は自分の身に感じる違和感の正体に気がついた。


 ((魔力の動きが鈍い!?))


 ヒビは2人の目の前で止まると、空間を元通りに戻した。


 「お2人さん、私が(きみ)達に触れた回数は何回かわかるかな?」

 

 A2はニヤニヤしながら、2人に質問した。


 「はい、時間切れ。正解は4回ずつ。その度に激痛が走っただろう?アレは紛れもない2人の内部破壊だ。でもただの内部破壊ではない。その程度の事をした程度では回復魔法ですぐさま回復されてしまうからね。では何を破壊したでしょうか?」


 2人はさらさら答える気はないようでものすごい剣幕でA2を睨んでいた。


 「オーディエンスのノリが悪いなぁ〜まぁいい。正解は(きみ)達の魔力回路だ。」


 A2に直接攻撃された事により2人の感じた全身を隈なく駆け巡ったあの正体は、単なる細胞破壊ではなく、魔力回路の破壊を伴った痛みだった。


 「いやぁ…苦労したよ。一気に破壊しようとすると気がついてしまうから、回数を分けてヒビを入れなくてはいけなかったからね。本当は後1回ずつ、合計5回触れる必要がある予定だったけど、その点は僕の『崩壊天』の出力を上げる事で省略できた。それに(きみ)達にも助けられたよ。(きみ)達が感情に身を任せて出力を上げてくれたおかげで、魔力回路の破損による出力低下をカモフラージュできた。まさしくラッキーと言えるね。」


 A2がこんなに呑気に話しているが、2人の起こった魔力回路の破損という実情はかなり深刻なものであった。

 ”魔力切れ”は戦闘時において注意しなくてはならないが、魔石の使用などで回避はできる。しかし、魔力回路の破損に関してはその換えが存在しない。傷がつけば回復の手段は時間経過のみ。ここに例外はない。

 つまり、どれほど強くあったとしても魔力回路の損傷、損壊は回避しなくてはならなかった。


 「魔力回路の崩壊は悪魔にとっても天使にとっても絶対回避事項。そこに強いも弱いもない。今の(きみ)達は目的地へのルートが完全に絶たれたというわけだ。魔力回路が破損した状態で魔力を無理にでも流せば、余計に傷が深くなるだけだからね。」


 ナールガとギルティは見るからに怒りを見せていた。

 だが、それでもほとんど何もできないのは事実。どう足掻いても破損した魔力回路をこれ以上、迂闊に使用できないからだった。


 「さぁさぁ…決着…と行こうかねぇ。」


 A2は怒る2人に当てつけるかのように笑って見せた。

 

 すると、A2は右手を横に伸ばして、何かを握りつぶすように何もない空間を力強く掴む。その右手の先には空間にパキパキと音を鳴らし、ヒビが生じ始める。そして、A2が右手を強く握ると、そのヒビが割れ、地獄へと通じる空間の裂け目が生まれた。


 ナールガとギルティがそれに目を向けるその隙に、A2は魔術を使い、足裏に小さな亀裂を作り、空間が修復するエネルギーを利用し爆発的な加速でナールガの顔面を思いっきり握る。

 その瞬間ナールガの身体中を、外からの突き刺す痛みと内からの身体中が破裂するような痛みの両方が襲う。魔力のロクに使えないナールガにとって出力の落ちていないA2の攻撃は完全な致命傷。ナールガは精一杯の力でA2を振り払おうと試みるが、A2が手を離す気はなかった。


 ーーー『一杯食わされたな…お前の負けだ…』


 「!!」


 ナールガは攻撃の最中(さなか)()()内側から自分以外の誰かの声を聞いた。

 すると、その直後。ナールガはA2に攻撃されながら猛烈な吐き気に襲われる。そして、A2もその様子に気付き、急いで離れると、ナールガの口から吸収したはずの”サタンの”頭部”が吐き出された。

 A2はそれを素早くキャッチする。

 

 「やはりね…無理矢理やるから、完全ではなかったようだね。」

 

 ナールガが反撃をしようと体勢を立て直そうとすると、A2はまたもや、爆発的な加速でナールガを上回ると、先程作った地獄への裂け目に向かってナールガを蹴り飛ばした。


 「地獄行き。」


 そして、ナールガはそのまま地獄送りとなった。

 

 (さぁ…後は頼んだよ…)


 A2はナールガと一緒に地獄に向けて願いを託した。


 「ではでは、ここからはタイマンと言う事で…先輩。お手柔らかに頼みますね。」


 A2は手に持ったサタンの頭部をワープホールにしまうとニヤつきながらギルティを見た。


 人間界に残ったのはA2とギルティの2人。

 ここから始まるのは確実なタイマンしかなかった。


 「あっ…でも、お手柔らかにするのは私の方だったかな?」

 

 ーー終ーー


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