211 三つ巴
天界・ガブリエル宮
「おう!来たかミカエル!遅ぇぞ!!」
「すみません私用で遅れました。」
A2との話を終え、ガブリエル宮に到着したミカエル。
そこではウリエルが待っていた。
「状況は?」
「見ればわかるだろ。こんな有様だ。」
2人が見つめるガブリエル宮。その様子は爆発や建物の崩壊、攻撃により発光などのありとあらゆる破壊行為が行われていた。
「ガブリエル…長いブランクがあってもこの被害規模を1人で作り上げてしまうとは…」
「私も想定外だ。引きこもってやがったからこんなに出力できるとは思ってもなかったぜ。」
ウリエルの口調は、いつもそれを止めるラファエルがいないため男勝りで強めの言葉遣いになってしまっていた。
「そういやぁミカエル。お前、A2を解放したな?」
「…バレましたか?」
「バレないと思ったか?しかも魔術と魔力を返しただろ。」
「お見通しですね。」
「ミカエル宮からの魔力の流れで一発だ。」
「彼には人間界を止めに行ってもらいました。」
「首に輪っかはつけたか?」
「つけました。裏切れば死ぬ契約を…おかげで魔力を少し減らしましたが。」
「いざとなったらラファエルに回復してもらえ。」
「ラファエルはどこに?」
「負傷者を回復中だ。あそこの結界で。」
ウリエルが指を指した方向にはガブリエル宮の少し離れた場所で、巨大なドーム型の結界を展開し自ら治療を行うラファエルの姿があった。
「頼もしいですね。」
「じゃあ私達も行くか…」
ミカエルとウリエルがガブリエル宮に向かおうとした時、ガブリエル宮の右部分が緑色に発光すると爆発。
「アハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」
それと同時にガブリエルの狂気的な笑い声が周囲に響き渡った。
「いいねぇ…乗ってんじゃねぇかよ!ガブリエル!!」
その狂気的な笑みに誘われ、ウリエルの戦闘狂が引き出される。
そして、ウリエルは笑いながらミカエルを置いてガブリエル宮に飛んで行った。ミカエルも飛び出したウリエルの後を追って、大きな純白の翼を羽ばたかせて飛んで行った。
ーーーーー
人間界
月明かりが照らすはA2、ナールガ、ギルティの3人。
各々、心情に大きな違いはあれど、向き合うその姿は魔の三つ巴であった。
「A2…何しに来やがった?」
ナールガは怒りに支配されたような表情でA2に聞いた。
「ハハハ!君達2人を倒すという契約をミカエルと結んできただけだよ?」
「ミカエルと?」
「そうだよ。だから、差し詰め今の私は天使側ということになるかな。」
「それで魔術と魔力が戻っているわけだ。」
「ピンポーン!大正解だよ!戦うならこれぐらいは必要だろうと思ってね?大先輩である大罪さんもいらっしゃるようですしねぇ。」
ナールガの方を向いて話していたA2はギルティに顔を向けた。
「大罪と言うから6人はいらっしゃると思っていたが1人とは。古い言い伝えは当てにならないね。」
「…よく喋るな。」
ギルティは次から次へと永遠に話し続けそうなA2に対して、重くのしかかるような音圧を発した。
「おやおや、すごい重みだね。歴戦の猛者の声というものは。」
A2もいきなりこの音圧を聞き、思わず目をまんまるにしていた。
「おいA2…」
すると我慢の限界と思しきナールガがA2を呼ぶ。
「長話なら他所でやれって?」
A2はナールガが何を言いたいかを先読みして代弁してみせた。
ナールガは図星のようで舌打ちでA2に返した。
「分かっている。そう急がないでくれよナールガ。こんなマッチアップなかなかできるものじゃない。一刻一刻を楽しまなくては損というものだ。」
「…」
ナールガはA2の目の前に瞬間移動し、右手でA2を殴ろうとした。
「勘違いするなよA2。そんな事を思っているのはお前だけだ。」
ナールガはA2に冷たく言葉を投げる。
攻撃に気がついたA2はナールガの右手を掴んで、触れた部分からナールガを破壊を始めた。
ナールガはこの破壊が放っておけば身体中を粉々にすると理解し、破壊の先にある右腕を切り落とし、距離を離し、右腕を再生した。
「良き判断d…!」
A2がナールガの判断速度に評価を下そうとした時、A2の腹に1本の槍が突き刺さる。
A2の口からは血が少しだけ吹き返し、攻撃された方向を薄ら笑みで振り返ると、ギルティがいた。
「やるねぇ…」
A2はそう呟くと、腹に刺さった槍に触れ、粉々に破壊。傷はすぐさま癒える。
「特異な術だ。便利なものだな…」
ギルティはA2の魔術に対して少しばかり興味を示した様子だった。
「どこ見てんだA2?」
「!?」
A2の背後をナールガが強襲。A2に連打を叩き込むと最後に蹴りで、地表に向けて蹴り飛ばした。
その途中、A2は血を吐きながら体勢を立て直そうとするが、そこを無数のギルティの槍が貫き、A2は無力にも地面に落下。
「はぁ…はぁ…」
A2は笑みを浮かべながらも浅い呼吸で息を吐き、体に突き刺さったギルティの槍に触れる。
「ッハハ!私がこれほどに後手とは…」
珍しく自信が完全に後手である事を実感したA2。
それ程に、サタンを封印部位を吸収したナールガとギルティは驚異的で圧倒的な力を有しているのだった。
「今ので分かったか?お前では話にならない。ここに来たところで勝ち目はない。」
宙に浮きながらナールガは地面のA2にそう言い放った。
その構図はナールガがA2を見下すような構図をしていた。
「よっと!」
A2は体をヒョイっと立ち上がって、服の汚れをパッパと払った。
「言ってくれるじゃないかナールガ。しかしだ。仮にそれが本当だとして、『はい、そうですか』と帰るように生を歩んではいなくてね。」
A2は右手と左手の指をポキポキと鳴らしながら順々に折り曲げて始めた。
「例え負け試合だったとしても、私は一刻を楽しむよ…生憎そうではないようだけどね。」
A2は話終わると両手をナールガに差し向ける。
それと同時、無数の空間の亀裂がナールガと大罪を襲う。その亀裂はまるで窓ガラスにボールを勢いよくぶつけた時のような亀裂だった。
『崩壊天・連覇』
A2の魔術”破壊”を利用した技、崩壊天シリーズの1つ。
崩壊天は空間を破壊する事で致命的な範囲と威力で相手を攻撃する技。
その中でもこの『崩壊天・連覇』は大きな空間破壊ではなく、空間破壊を小さくし魔力消費を抑える代わりに、数を増やし、相手の行動を制限する事に向くという利点を持っていた。
(小さい崩壊とは言え…触れれば致命傷。それもA2に直で触られるよりも厄介…魔力総量も出力も我々に劣るが厄介度合いだけで言えば我々を凌ぐか…)
ギルティは自身の周囲や行先に発生する空間のヒビを避けながら冷静に思考を巡らせ、A2を最初に始末する事が得策であると断定する。
A2は崩壊天から逃げる2人を見ながら、右足の踵を浮かせる。
すると、浮かせた踵に小さな空間の亀裂が生じる。次の瞬間、A2はとんでもない速度でギルティの元に移動。
「お顔失礼しますよ?」
そのままギルティの顔面を右手で掴んだ。そのまま、ギルティの顔をバリバリと破壊し始める。
(なんだ…コイツの今の速度は…!?)
ギルティは流石に驚いた。
魔力の流れを感じ取れた上で反応しきれない速度だったのだ。
「離せ…!!!」
ギルティは自前の翼に魔力を流すとA2を両翼で強く挟んだ。
A2はこの攻撃により怯み、ギルティから手を離す。この怯みと同時に崩壊天は綺麗に消え去る。
ギルティはすぐさま頭を切り落とすと体から新しい頭を生み出した。切り離した頭は散り散りになって風に乗って消えて行った。
「貴様ァァ…!!!」
ギルティは怒りを露わにするとA2を襲い始める。そのA2の背後からナールガも襲いかかる。
(挟まれたか!だが…)
A2はまたもや靴の裏に小さな破壊を生み出すと、体を捻ってナールガの背後に移動する。そして、右足に魔力を送り込むとナールガの横っ腹を蹴る。
ナールガは、横っ腹にガラスにヒビが入るような感覚と共に強烈な痛みに襲われ、腹部が崩壊を始めた。
その様子を見たナールガはすぐさま崩壊を始めた胸部より下を切り離す。そして、瞬時に切り離した胸部より下の肉体を再生した。
その間にA2はギルティの背後に攻撃を仕掛ける。
ギルティもそれに気がつくとA2に触れられないように上手い事、魔力の壁で間をとりながら攻撃を交える。
だが、A2の魔術に気を取られすぎるがあまり一瞬だけ右肩に触れる事を許す。結果、ギルティはまたもや右肩を切り落とし、右腕を新しく新調する羽目になった。
「厄介極まるところ知らずだ…」
ギルティは薄笑みを絶やさないA2を見てそう告げた。
「褒めているのかな?」
「そんなわけねぇだろ…」
ギルティとA2の会話にナールガが横から入ってくる。
「やはり…お前がいると調子が狂う。どうしようもないお前といるとなァ!」
「大きな声を出すんじゃないよナールガ…ご老体に迷惑だろ?」
A2は長く生きているギルティの事を”ご老体”と呼んで煽った。
「コケにするのもいい加減にしろ…」
「「!!」」
2人はギルティから明確な殺意を感じ取る。
この異様な殺意に2人は動き出そうとするが、ギルティが強く睨みを効かせると、2人は動くどころか思考すら停止した放心状態になった。
ギルティはそこを突く。
まずはA2に夥しい数の槍を突き刺し、地面へと落とす。
次にナールガの胸を手刀で貫くと、そのまま大きく振り払いナールガを地面に落とす。
ギルティはそこに追い打ちをかけた。
右手に、自分の何十倍もの大きさの魔力の球体を作り上げると、それを見切り潰して無理やり圧縮。そして、小さく圧縮され、ビー玉サイズになった魔力をナールガに向けて払うように投げる。
ナールガは地面に叩きつけられた時になんとか意識を取り戻すが、その時にはもう目の前にギルティのビー玉サイズの魔力がそこにはあった。
「『Appetite for Destruction(絶望の欲望)』」
ギルティの圧縮した魔力は意識を取り戻して間もないギルティの目の前で、一気に元の大きさに戻る。そして、そのまま着弾。周囲に巨大なクレーター刻み込んだ。
「はぁ…はぁ…あ”ぁ…」
そのクレーターの中央で、煤汚れたナールガは激しい痛みを体に感じながら起き上がる。
「ギリギリ死ぬ手前まで魔力が回ったか…意識が吹っ飛んだ状態だった死んでたな…」
ナールガは傷を癒す中で魔力の流れが少しばかり遅くなっている事に気がつく。
そんな中、独り言を呟くナールガの目の前にギルティは静かに降り立つ。
「耐えたか…」
「おかげで魔力の流れが悪いけどな…」
「知らぬな…」
睨み合う2人は直に来るであろう決着が、そろそろ来る事を理解していた。
というよりもそれを両者が望んでいる、その結果、決着が来ると思った。
「ぐっ…あ”ぁぁ!!!」
そんなナールガとギルティから少し離れた場所でA2は槍を刺され、地面に倒れた状態で目を覚ます。A2は意識を取り戻すや否やとんでもない激痛に襲われ、それは『Appetite for Destruction(絶望の欲望)』を受けたナールガとは比にならないダメージであった。
ナールガは攻撃を受けた時に間一髪意識を取り戻して、十分とは言えずとも魔力で防御ができていた。しかしながら、A2はつい先程まで放心状態。つまりは槍に体を貫かれた時は魔力がろくに体に回っていない生身と言っても過言ではなかったのだ。
「う”ぅ”…あ”あ”あ”ぁぁ!!」
意識を取り戻したA2は首の皮一枚で生きている。
その皮一枚が本当に奇跡と呼ぶにふさわしき状況だった。
A2は槍に触れ、その全てを破壊し終えると全ての傷を癒した。
「ふぅ…」
A2は体が元通りになると息を1つ。
そして、相変わらずの薄ら笑みを浮かべる。
「後手後手も後手後手か…私がここまでなるとは嬉しいようでどこか憤るようで…なんとも面白い感情だ。さぁ!この状況をより面白くより楽しく演じるにはどうしたら良いのか…考えるとしようか。」
A2は顎に手を当てて考える。
が、こんなものは考える”フリ”だった。A2にはもうすでにやる事が決まっているのだった。
「限界…超えるとしようか…」
すると、A2はいきなり自分の内なる魔力を全て放出し始める。
この放出は少し離れた場所にいたナールガとギルティにも届いた。
「私の魔術は便利で助かるよ。無意識のリミッターすら簡単に壊せるのだからね。」
A2は右手を胸の前で強く握った次の瞬間。
ーーー”黒き稲妻”が主を祝福する。
ーー終ーー




