表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章最終節 『次なる王』 -三界事変-
215/225

 209 最悪の加速


 人間界


 とある麦畑。

 そのすぐ(そば)の舗装されていない道を黒塗りの車が1台、猛スピードで走っていた。

 先ほどまで晴れていた天気もいきなり顔も曇らせ、強風と共に横から殴りつけるような雨が車を打ちつけていた。


 その車に乗っているのは、かつてエクサーの住んでいた場所”サンタモル孤児院”に隣接する教会”サンタモル教会”の神父であるギムレット神父だった。

 神父は歯を強く噛み締めながら、汗を流し、険しい顔で焦りを隠そうともせずに車を運転していた。


 「間に合ってくれ…間に合ってくれ!!」


 神父が声を漏らして、車のアクセルを強く踏み込んだ。

 ちょうどその時、地面の凹みと、この雨でできた泥濘(ぬかるみ)に車の右前輪がはまりハンドルが勝手に動く。


 「くっ…!」


 神父が思わずハンドルを反対に切り返すが、ここから続く泥濘(ぬかるみ)に続けてハンドルを取られて、神父の車は麦畑を仕切る木製のフェンスに運悪く突っ込んでしまった。


 「クソッ!!」


 神父は思わず衝動的に言葉を吐いてハンドルを叩くとクラクションが誰もいない麦畑に響いた。

 

 雨が一層強く、車の窓を打ち付け始める。

 神父は助手席に置かれたトランクケースを開け、中から虹色に輝く”ミカエルのペンダント”を取り出した。


 「主よ…どうかお力を…」


 神父はペンダントを両手で握り込むと頭を下げて祈った。


 ーーーーー


 人間界・上空


 上空では稲妻同士の衝突でも起こっているのかと錯覚する程の速度でナールガと大罪達が戦闘を繰り広げていた。


 「バカが!」


 ナールガは大罪の1人、暴食・アスモデウスの裏をかいて殴り飛ばした。


 ピラミッドで見つけた3つ目のサタンの封印部位である”左腕”。これを吸収したナールガは格上に見えた大罪達に少し劣る程度の力を手に入れていた。

 それもこれも左腕を吸収した結果、魔力が跳ね上がった事が理由だった。


 大罪達はこれに皆々が憤りを感じていた。

 ナールガが挑発的な言動が増えた事も1つの要因であったが、大罪達が憤っているのにはもっと大きな理由があった。それは以前6人が束になってサタンに挑んだ時の情景が次第に輪郭をハッキリとさせて、記憶の奥底から蘇って来ていたからだった。


 現在、ナールガと大罪達は遥か上空で死闘を繰り広げる。

 その下には1920年代〜30年代ぐらいのヨーロッパの街並みが広がっていた。

 ここに辿り着くまでに、ナールガと大罪達はおよそ30万人の人と3つの都市を亡き物に変えた。しかも、それは誰1人として意図して行われておらず、歩いていたらたまたま虫を踏んでしまったような感覚で殺戮が行われたのだった。


 戦闘は秒針が刻まれる毎に目まぐるしく苛烈になっていった。

 そんな時、ナールガがいきなり上空から下に広がるヨーロッパの街並み目掛けて急降下して行った。


 「追え。」


 色欲・アスモデウスが他の大罪達に命令を下すと、順々にナールガを追った。


 街ではスーツを身につけた人々が忙しなく闊歩していた。

 そこにナールガは突っ込んで行くと地面スレスレで進行方向を変えて、街を飛び回った。それを大罪達が追う。人々はその様子に驚き、運悪くナールガと大罪達の進行方向にいた者は列車に轢かれるように死んでいった。


 ナールガの右頬に人間の返り血が付く。

 ナールガはそれを右の親指で拭き取って何気なく見つめる。

 すると、ナールガは何かを閃いたように笑った。


 街を飛び回るナールガと大罪。

 入り組んだ場所でも一切スピードを緩める事なく街を破壊し、人を殺しながら進む。

 そんな最中、ナールガはこの街並みでは絶対に聞こえないはずのオオカミの鳴き声を聞く。ナールガがその声のする方を振り向くと、憤怒・ベリアルが街の建物の壁を足場に走ってきおり、その場で踏ん張ってナールガに向かって飛んできた。

 そのベリアルの手は両手が鋭利な爪の生えた獣の手をしており、その手でナールガに切り掛かった。


 「す…すみません!いただきます!!」


 大罪の中でも圧倒的に弱気で内気で臆病なベリアルはそう告げると、ナールガを切り刻んだ。

 ナールガは全身隈なく切り傷を負わせると、ナールガの左腕を切り離し、最後にナールガを切り飛ばした。


 不幸にもナールガの切り落とされた左腕の落下する先には親子連れの子供がおり、左腕は子供の頭に勢いよくぶつかりその子供は死んだ。子供の親は子供がいきなり死んだ事とそこに左腕が落ちている事の衝撃で叫び上がった。


 ナールガは左腕を切り落とされ、眼球に唇に耳に体に負った切り傷を自動で回復した。

 だが、不思議な事にナールガは切り落とされた左腕だけは治す事をしなかった。左腕の断面から大量の出血をしながら街中を飛び回っていたのだ。


 「おい!アスモデウス!アイツ何考えてんだ?傷を治さねぇぞ!?」


 血を地面に流しながら飛び回るナールガ後ろから追う強欲・マモンは荒々しい口調で隣のアスモデウスに聞いた。


 「知らぬ。気にするな。」


 アスモデウスはそれを冷静に突っぱねた。

 ただ、大罪の中でも随一の頭脳を持つ暴食・ベルゼブブは、ナールガのその行動に違和感を感じていた。


 「ベリアル!せっかく捉えたなら最後まで()り切れよ!!」

 「ひぃ〜…申しわけありません〜。」


 途中で合流したベリアルにマモンは超弩級の説教を喰らわせ、ベリアルは思わず飛びながら頭を抱えた。


 「よせマモン。くだらない事をするな。奴に集中しろ。あれだけのスピードで動いているのだ。そのうち燃料切れもするだろう。」

 「わぁったよ。」」


 アスモデウスの言葉にマモンは少しばかり落ち着きを取り戻した。


 一方のナールガは血を街の地面に垂らし続けて飛び回っていた。

 

 「そろそろか…」


 ナールガが小さく言葉を吐くと、その目線の先には地面についたナールガの血の始まりがあった。つまりは、ナールガは街中を回って血を地面に流し始めた場所に戻ってきていたのだ。

 ナールガは血の始まりと終わりを綺麗に合わせると、左腕を生やした。そして、何やらブツブツ独り言を言いながら街の外に向かって進路を変えた。


 「アスモデウス、アイツ逃げる気だよ。」


 それにいち早く気づいたベルゼブブはアスモデウスに伝える。

 

 「させるかよ!!」


 マモンは逃すかと言わんばかりに1人で速度を上げてナールガに追いつこうとした。

 しかし、ナールガはそれに気づいてさらに速度を上げて、街の外に出ると、急ブレーキをかけて止まり、大罪達の方を振り返った。


 「止まったな馬鹿が!!やっと一発入れられるぜェ!!」


 マモンはこの好機に笑みを浮かべて、ナールガに飛びかかった。

 しかし、マモンはナールガまであと少しのところで何かにぶつかったように後ろに跳ね飛ばされた。


 「チッ!なんだこれh…あ?」


 マモンがナールガをよく見ると、2人の間に薄らと何か膜のような壁のような何かがある事に気がついた。

 

 「マモン、何をしている?」


 遅れて追いついた大罪達は何故か攻撃をしないマモンを疑問に思い、怠惰・ベルフェゴールがその事について聞いた。


 「結界だ…あの野郎、結界を張りやがった!!」


 マモンは悔しそうにして怒鳴った。


 「よく頑張って考えたな。正解だ。」


 ナールガはそれを見下すように笑って、どこかに飛び去って行った。


 「なるほど…あの大魔族、考えたな。」

 「そうだね。」


 この状況で、ベルゼブブとアスモデウスは全てを理解したように冷静な顔をしていた。


 「どういうことだ説明しろ!!」

 「シャー!気になるね。マモンでも破れない結界…」


 マモンと嫉妬・レヴィアタンは思わず2人に聞いた。


 「アスモデウス、僕が説明するよ。」


 そう言ってベルゼブブが説明を始めた。


 「まず、ここに来るまでに大きな違和感があった事はわかるかい?」

 「あぁ?違和感?」

 「そうだ。まぁ手短に言うとそれはあの大魔族がベリアルに切った左腕を一切治さなかった事だ。」

 「それがなんだってんだ?」

 「街を地面を見てみろ?」

 「地面?」


 アスモデウスとベリアル以外の大罪が街の地面を見るとそこには、確かに地面に一本の線で繋がったナールガの血があった。


 「ここからだとよくわからないがアレはあの大魔族が作った”街を利用した魔法陣”だ。」

 「「「「!!!」」」」


 ベルゼブブの言う通り、街の地面を上空から見ると、そこには街中を利用して描かれた綺麗な血の魔法陣があった。


 「我々はまんまと騙されていた。逃げていると思っていたのにまさか全て計算だったとは。」

 「ベリアル!テメェ半端な攻撃しやがるから!!」

 「ひぃ〜〜!!」


 マモンは左腕を切り落としたベリアルの服の襟を掴んで怒りを見せた。


 「シャー!でも不思議。マモンの一撃でも壊れないなんて。確かに魔法陣は大きいけどこれぐらいなら許容範囲内じゃないの?」

 

 レヴィアタンは舌をヘビのように動かしながら聞いた。


 「それは多分、あの大魔族が結界術の”詠唱”を魔法陣を描き終わったタイミングで始めたからだと思う。というかこれだけ強固な結界を張るにはそれしかない。」

 「…考え抜かれてたわけか。」


 ベルフェゴールも思わずこれには少しばかり感嘆している様子だった。


 「もういいだろう…」


 アスモデウスは口を開くと重く響く声が発せられた。


 「茶番は終わりだ。あんな大魔族1人…あんなサタンの模造品に間を抜かれるのはもううんざりだ。」


 アスモデウスはそういうとゆっくりとマモンに近づき、手をマモンに向けた。


 「なんだよ、アスモデウス?」


 マモンはそのアスモデウスの不思議な行動に疑問を投げると、アスモデウスはいきなりマモンの頭を掴んで、手のひらにできた口からマモンを飲み込んだ。


 「シャー!!何ごt…!」


 アスモデウスはそれに驚いたレヴィアタンを次に手の甲にできた口から飲み込み、次にベリアル、ベルフェゴールと順に飲み込んでいった。


 「あとはお前だベルゼブブ。」

 「わかってる。そんな気はしていたから逃げようとは思わないよ。元に戻るだけだ。受け入れる。」

 

 アスモデウスはゆっくりと目を閉じたベルゼブブの頭に手で触れるとベルゼブブの飲み込み、アスモデウス1人となった。


 「本当に…腹の立つ世だ…」


 アスモデウスが空を見上げると、アスモデウスは胸から発生した黒い竜巻がアスモデウスを取り巻き、包み込んだ。


 「はぁ…楽になるのも楽ではないな…」


 アスモデウスは取り巻く黒い竜巻を晴らすと、その容姿を大きく変えた状態で姿を現した。

 髪の毛は逆靡(さかなび)き、上半身(はだか)で両肘から手先にかけて黒色の亀裂が入っている。下半身は黒い影のようなものに包まれ、その先の足先は獣のような形になっていた。背中からは真っ黒なコウモリのような翼が生え、首には緑、青、赤、黄、白、黒の石の並んだネックレスをつけていた。


 この状態のアスモデウスをアスモデウスと呼ぶにはあまりに不適当だった。

 容姿、気配、魔力量、魔力性質など、これら全てが先程のアスモデウスと言う1個体と同じと呼ぶには差異がありすぎるのだ。


 この状態はアスモデウスでも大罪の誰でもない。

 『大罪集極体・ギルティ』と呼ぶに相応しかった。


 「()()の前に障壁があってはならぬ…」


 ギルティが前に向かって加速し飛んで行くと、その先に張られたナールガの結界は呆気なく崩壊した。

 そしてギルティはナールガに向かって飛んで行くのだった。


 ーーーーー

 

 人間界に存在するサタンの封印部位は残り1つ。ナールガは自分が吸収した”頭部”、”左腕”、”右腕”の示す残りの封印部位”右足”を求めて速度を上げた。

 風を切って進むナールガ。すると、だんだんと前から感じる風が、湿度を含んだような風に変わっていった。

 ナールガの顔に1粒の水が当たる。

 雨粒は1つまた1つと連鎖的に降ってくると天候はある場所を境に雨へと変化していった。


 (そろそろだな…)


 ナールガは次第に大きくなっていく”右足”の気配に胸が高鳴っていた。

 強まる雨足をもろともぜずにナールガが進んで行くと、灯りの灯った建物が見えた。この建物の他に周囲に灯りと呼べるものは無い。ナールガは好都合だと思いその建物の前に立った。


 「教会か…いい場所じゃねぇな。」


 人間界・サンタモル教会


 ナールガは教会の扉をノックした。


 「は〜い。あら、こんな時間にお客様かしら。孤児…には見えないのだけれど。」


 孤児院の扉が開くと中から50歳ぐらいのおばさんシスターがナールガを迎えた。


 「神父はいるか?」

 「神父?ギムレット神父の事?」

 

 シスターはいきなり神父様を呼び捨てするナールガを見て少し疑問に思ったが、ここはシスターとしての”ホーリー(ごころ)”でグッと抑え込んだ。


 「ごめんさないねぇ、神父様は今いらっしゃらないの。」

 「そうか。」

 

 ナールガはいきなり血相を変えてシスターの首を掴んだ。


 「好都合だ。A2の言ってた悪魔キラーが今いなくて。」


 ナールガはシスターの頭に魔力を送ると、それに耐えられなかったシスターの頭は綺麗に吹き飛んだ。

 床や壁にシスターの脳や骨、血が吹きかかる。


 「こっちか…」


 ナールガはシスターの死体を踏んづけて教会の中に入ると目的の”右足”に向けて歩き始めた。

 その間、事態を聞きつけたシスター達がナールガと対面するが、その誰もが悉く瞬殺。教会の中が無惨に血の匂いを漂わせ始めた。


 10人程を殺した頃、ナールガは礼拝室の前に立った。

 そのドアノブにナールガが手をかけた時、横から1人のシスターが向かってくる。ナールガはシスターの腕を掴むと絶対に曲がってはいけない方向へ腕をへし曲げる。シスターは悶絶しながら涙を流した。そして、ナールガを睨んだ。


 「悪魔め…」


 ナールガはシスターの吐き捨てた言葉に反応した。


 「もし仮に俺が必死に生きていてもそんなことが言えるか?」

 「…」

 「お前らはもう少し器用な方になった方がいい。」


 ナールガは一瞬だけ魔力を放出すると、それを受けたシスターは魔力に耐えきれずただ1人唯一、血を出さずに気絶するように死んでいった。

 ナールガは次こそドアノブに手をかけて扉を開け礼拝室に入った。

 その先には壁に飾られたたくさんの日のろうそくと壇上に飾られたミカエルの像を向く木製の長椅子達があった。


 ナールガはそのど真ん中を悠然と歩き、ミカエル像の前に立った。

 窓は全て閉まり、隙間風もないこの部屋に飾られたたくさんのろうそく。そこに灯った火が不穏さを表すように荒々しく揺れ始める。

 

 「下か…」


 ナールガは数秒、ミカエルの像を見つめたのちに自分の足元に目をやると、勢いよく足元の床を拳で殴った。

 殴られた床には教会と隣接する孤児院にまで響く大きな振動と共に大きな亀裂が入る。ナールガは亀裂の中に手を入れ込むと、その先で何かを掴み取り、勢いよく引き抜いた。


 「見つけたぞ…」


 ナールガが引き上げた物は土のかかった布に包まれたサタンの封印部位”右足”だった。右腕は他の封印部位同様、水気のない、乾燥した状態でかろうじて骨の周りに肉がある状態をしていた。

 ナールガはついに見つけた封印部位を胸に押し当て吸収する。直後に溢れ出す圧倒的な力。ナールガは手を開いたり閉じたりして肉体の感覚を確かめた。


 「残るは天界か…」


 ナールガは礼拝室にそう言い残すと教会の出口に向かって歩き始めた。


 ーーーーー


 天界・ミカエル宮


 ミカエルは足早にミカエル宮の中を歩いていた。

 それもこれも人間界にナールガが行った事が原因であり、さらには先程、人間界より封印されていた大罪の復活が報告された事も原因となっていた。

 

 ウリエルからの軍部の編成、配属の通達があり、それに尽力するミカエル。その様子は他の天使から見ても珍しくミカエルが焦っているのがわかる状態だった。


 そんな一刻を争う事態の最中ミカエルの元に”ミカエル親衛隊・次席”フレリエルが息を切らして現れる。

 他の天使と違って弓道着のような服装をしていてメガネをかけているフレリエルは大人しい文学女子のような印象を常に持つ。しかし、今回ばかりは大変に焦っている様子だった。

 

 ミカエルは珍しいフレリエルの様子にすぐに寄り添った。

 

 「どうしましたか?」

 「大変ですミカエル様!!」


 フレリエルは息を整えずにそのままミカエルに話した。


 「現在、ガブリエル宮でガブリエル様が乱心なさり、ガブリエル宮および周辺の3割が壊滅している状況です!」


 ーー終ーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ