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DeViL 悪魔生転物語  作者: オクラ
 7章最終節 『次なる王』 -三界事変-
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 208 Whole lotta Love


 地獄・サンクタムシティ


 腹を貫かれたレノは静かに目を瞑った。

 それを見たラーバルは親を失った子のように、激しい涙を流し、叫んだ。その叫びはサンクタムシティ全域に響いた。


 「レノ…ごめんよ…僕が不甲斐ないばかりで…でも…(きみ)がいないと僕は……情けないけど何もできる気がしないんだ…」


 ラーバルはレノの頬を頭を優しく撫でた。

 レノの汚くなった前髪からクズを払い、目瞑った顔を目に焼き付けた。


 「あ”ぁ…ごめんな…ごめん…」


 ラーバルの心は酷く傷ついていた。

 しかし、いくらそう思ってもレノは帰って来ない。そうとわかっているからこそ、ラーバルは余計に後悔で傷ついていた。


 そんなラーバルが傷心を刻んでいる時だった。

 なんと、死んだと思っていたレノが薄らと目を開けたのだ。


 「レノ…!レノか!生きているのか!!レノ!!!」


 レノの黒目が涙で顔が見っともない事になっているラーバルを捕らえた。


 「…私もてっきり…死んだと思っていたけど…まだ…首の皮一枚って…ところで生きているみたい…」


 レノは多量の出血のせいでかなり浅い呼吸で声を捻り出していた。

 実際、レノの視界から見えるラーバルもかなりぼやけており、体に力を入れる事もままならないような状態だったのだ。


 「よかった…よかったよ…」


 ラーバルは奇跡的に生きているレノを見て、嬉しさでさらに涙が溢れ出た。


 「何…泣いてるの…終わってないでしょ…」


 レノはラーバルを見て、微かでか弱い声を絞り出してラーバルを諭す。


 「泣くのは…全部終わってからにして……悔しい…なら…こうなった原因を…倒して来て…私も…それまでは…死なないように…頑張る……から…」

 「…そうか…そうだね。」


 ラーバルは目元に溢れた涙を服の袖で拭き取って立ち上がった。

 そして、覚悟を決めたように両頬を強く挟んで叩く。


 「レノ…見ていてくれ…僕がアイツに一発、叩き込むところを!!!」


 ラーバルは、さっきまで号泣していたとは思えない程に意気揚々とレノを振り向き、宣言をする。

 レノはそんなラーバルの姿を見て、少しだけ口角が上がった。


 「悪いけど…早くしないと…私…死んじゃうけどね…」


 ラーバルは少しだけ口角の上がったレノの顔を顔を見て、もう一度涙が出そうになったがそれをなんとか抑え込んで、プレズデントの方を見ると歩き出した。

 レノはそんな彼氏の背中を見て、静かに目を瞑った。


 ラーバルはプレズデントの前に立った。

 プレズデントの様子はどこか空虚で何か感情に浸っているような顔でどこかを見つめていた。

 そんなプレズデントもラーバルが目の前で足を止めれば、スッと我に返ってきた。


 「次は…(きみ)か。今日はよく子守りをする日だ。」


 プレズデントは掛けているサングラスの汚れをポケットから出したメガネ拭きでレンズを優しく拭き、掛け直した。


 「そこの血に伏せる少女2人を見てね…古い記憶が蘇ったよ…まだ青さが生まれ始めた少年の頃に両親を手に掛けた状況をね…だが、後悔はしていない。私の親は一般的には善良な生き方をしていたが、私的には無駄が多かったからね…」


 プレズデントはつらつらと独り言を話していた。

 これは両親を殺した状況を思い出したからだけではない。目の前のラーバルという存在に対して、クーを相手にするようなワクワクとした高揚感も何も感じていなかった、ラーバルを相手にするということに対する退屈さ、面倒ささを感じていたからだ。


 一方のラーバルはプレズデントの独り言の一言も耳に入れていなかった。いや、正確に言うと耳に()()()いないのではなく、()()()いないのだ。

 それは今のラーバルが自責に渦巻いていたからだった。


 (僕はなぜあの時、動けなかった。レノは動けたのに僕は足を動かさなかったのか…)


 ラーバルは、なぜあの時レノのように倒れるクーを助けに動けなかったのか自分を責めた。


 (レノは勇敢にも自分が傷を受けるという恐怖を振り払ってクーを助けたじゃないか…なのになぜ僕はそれができなかった。自分が傷つくのを恐れていたからか…)


 ラーバルは考えを巡らせる程、自然と体に力が入り、両拳を強く握る。


 (いや…この後悔は一生を掛けてすればいいだけの話だ。今やるべき事はレノが勇敢に立ち向かってクーを守ったように…僕も勇敢に目の前の元凶を倒す事だ!)

 

 「ん?」


 プレズデントは饒舌に語っていた独り言をやめ、ラーバルの変化に目を向けた。

 ラーバルから立ち上る魔力が1秒を刻む毎にけたたましく増えているのだ。


 (なんだこの少年の変化は…?一体何が起きようとしている?)


 プレズデントはラーバルに起きている急激な変化を確認すると、なぜだか身が引けるような感覚を体が感じていた。


 「レノ…愛する(きみ)のために…僕はここで舞って見せる!!」


 ラーバルがけたたましく立ち上る魔力全てを無意識に放出させる。

 プレズデントはその瞬間、ラーバルの魔力から発せられる衝撃波を受け、右腕で顔を守る。その隙間からラーバルを見た。


 「ラーーーーーーーーーーブ!!!」


 ラーバルは思いっきり、レノに対する”ラブ”の一言を叫んだ。

 その瞬間、ラーバルが自爆でもしたかと錯覚する爆発が起き、周囲を吹き飛ばした。


 (あの少年は…一体何がしたい!)


 プレズデントは状況に対する答えが一切わからずに、混乱していた。

 そんな中、ラーバルが起こしたであろう爆発で生じた爆煙の中にプレズデントは巨大な魔力の流れを発見する。

 そして、爆煙が晴れると中からラーバルが現れた。


 そのラーバルは首元の大小並んだハートマークの刺青が入り、右目の瞳孔がハートの形になり、白髪にピンクの髪がところどころに入り混じり、少しだけ大人びた姿をしていた。


 プレズデントもラーバルの変わりようには目を丸くしていた。

 ラーバルの背後から背中を押すように追い風が吹いた。


 「行くぞ!僕とレノを引き裂こうとしたお前!!お前をぶん殴ってやる!!」


 ラーバルは圧倒的自信を胸にプレズデントを指差して宣言するとプレズデントが気づけぬ速度でプレズデントを殴り飛ばした。


 「う”ぅ”っ…!」


 プレズデントは口から血と呻き声を吐いた。


 「まだまだ、僕はこんなもんじゃないぞ!!」


 ラーバルはさらにプレズデントに連撃を叩きこんだ。


 「このっ!!」


 プレズデントも反撃として、シャドウを向かわせたり、影の触手で攻撃をするが、ラーバルはそれをもろともせずに倒してプレズデントを殴った。


 「一体なんだお前は!!」


 プレズデントは止まらないラーバルの猛攻に怒りを見せて吠えた。


 「僕は世界で一番レノを愛する男、ラーバルだァァァ!!」


 ラーバルは自分の大量の魔力を右手に一気に溜めると、魔力はラーバルの右手で巨大なハートを成形。ラーバルはそれを勢いよくプレズデントに振り翳した。

 プレズデントは今までからは想像ができないほどの悪寒を感じ、急いで何層もの『バリア』を展開して身をも守ろうとした。

 しかし、『バリア』はラーバルの拳を止める事ができず、まるで飴でできたのではないかと思う程に呆気なく破られて、プレズデントは殴り飛ばされた。


 「ハッ…ハッ…!や…やるなぁこの子供は…」


 口と鼻から血を流すプレズデントは笑って独り言を呟いた。

 だが、この一方的に子供に殴られている状況で純粋に褒めているわけがない。プレズデントは笑みの奥底に尋常ならざる怒りを隠していた。


 プレズデントの出血は回復魔法で元に戻った。怒りを沸騰させ続けるプレズデントがゆっくりと立ち上がると、ラーバルがこちらに歩いて来るのが見えた。プレズデントはラーバルを見て大層驚いた。


 「減っていないのか…魔力が…」


 ラーバルの魔力が全く持って減っていない。それどころか増しているのだ。

 大量の魔力を消費して、アレだけの攻撃をプレズデントに叩き込んだにも関わらず、ラーバルは魔力を消費していないと思わせるほどに魔力量の減少が見られないのだ。


 「どういう事かな?魔力の減少が見られないのは。」


 プレズデントはラーバルに聞いた。

 

 「僕にもわからないよ。なんでこんなに魔力が溢れ出しているのか。」

 「わからないと来るか…」

 「そんな事どうでもいいじゃないか。僕の魔力が減ってないとか。どうでもいいんだ…今僕にあるのはレノに対する”胸いっぱいの愛”だけだ!!」


 ラーバルはプレズデントに向かって走り出す。


 「向かって来てくれて感謝するよ!!」


  プレズデントはそれを待っていたと言わんばかりに迎えるとラーバルの攻撃を間一髪で避け、『影の複製体(シャドウ・コピー)』でラーバルのコピーを作った。

 プレズデントはこれで自分が楽になると思っていた。


 「この偽物がァァ!!」


 しかし、そんな事はなかった。

 ラーバルはさらに魔力で自身を強化してコピーを一撃で葬ってしまった。


 「レノを愛する奴が2人もいてたまるか!僕だけで十分だ!」


 ラーバルは高らかと言い切ると、さらに魔力量が跳ね上がった。


 『絶対純愛形態・Whole lotta love(胸いっぱいの愛を)』

 今のラーバルの状態であり、その原動力はレノに対する愛。

 これは魔術ではなく、誰しもが持っている誰かを愛するという事のさらなる延長線上に存在する状態であり、誰かに対する愛の大きさで魔力量が跳ね上がるという状態。

 ラーバルのレノに対する愛の大きさは無限と言っても過言ではない。底が知れないのだった。それがラーバルの無尽蔵な魔力を生み出していた。


 (レノ、見ていてくれ。次の一撃で倒して見せるから…)


 ラーバルは勢いよく空に飛び上がると、そこで一気に魔力を解放しピンク色に空で輝く。

 輝くラーバルの後ろではラーバルの魔力が集結し、先程の巨大なハートの形成よりもさらに大きく、遥かに大きい”超巨大なハート”が形成された。

 ラーバルから発せられる衝撃波には細細(こまごま)としたハートが乗って辺りを漂っていた。


 「絶対に倒す…」


 ラーバルは輝きながら背後の超巨大なハートをプレズデントに向かって勢いよく投げた。

 ゆっくりと進む超巨大なハート。プレズデントは影を集めて大きく渦を巻いた影の集合体を作り上げ、なんとか受け止める。


 「うぉぉぉぉぉ!!」

 「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 影と超巨大なハートは魔力同士の競り合いで火花を散らす。

 2人は絶対に負けられないと思って、自分の魔力の限りを尽くしていた。


 そんな様子を少し遠くで薄く開けた目で見るレノ。


 「ラーバル…頑張って…」


 そんなレノの言葉が、距離にして絶対に届きえないはずのラーバルに届く。

 ラーバルはその瞬間、決めにかかった。


 「Go away!恋の破壊者(ハートブレイカー)!!!」


 ラーバルが魔力の全てを放出した次の瞬間。

 ーーーラーバルがの大量の魔力でできた”超巨大なハート”はその場で粉々に壊れ、消え去ってしまった。そして、ピンク色に輝いていた光も消え、周囲が”贄の杯”の紫色に戻ってしまった。


 「!!」


 プレズデントもこれには驚いた。

 いきなり攻撃の手が緩んだ…いや無くなったからだった。

 すると、プレズデントの目の前にラーバルが上空から落ちて来た。


 「あ”ぁ”っ!!!」


 プレズデントは上空から落ちてきて骨が折れているラーバルを見て、ニヤりと笑った。


 「回復しなくていいのかい?生身に骨折はツラいものがあるだろう?」


 プレズデントは煽るようにラーバルに聞いた。


 「いや、違うね。回復できないのであろう?調子に乗って魔力を出力しすぎて魔力回路が保たなかったんだ!!」


 プレズデントのこの言葉が全てだった。

 ラーバルは途中で攻撃をやめたのではなかった。大量の魔力を放出しすぎたために魔力回路が損傷を負った結果、魔力が扱えなくなってしまったのだ。

 魔力、魔法による強化では魔力回路の強度を上げる事は不可能。ラーバルのようにいくら魔力を手に入れても魔力回路の強度はそのままなのだ。

 学校でも習うこの事をすっかり忘れていたラーバルは、魔力回路の事など忘れていたのだ。


 「学校で習うだろう?戦闘時の最も注意すべき事は魔力切れと魔力回路の損傷だ!それが頭から抜けていたとはな!!」


 プレズデントはまるで勝ち誇ったようにラーバルに言った。

 ラーバルは魔力回路が破損した事により、落下し地面に打ち付けられた時の骨折すら治す事ができなかった。ラーバルが精々今できる事は、悔しさを顔に浮かべる事ぐらいだった。


 「賞賛を贈りたいが(きみ)に散々やられたんだ。今の僕はそれ程の優しさを贈る事ができそうにない…」


 プレズデントは右手に影を集めて、回転するドリルを作った。


 「では、ここで別れだ!少年!!」


 プレズデントは倒れるラーバルの頭目掛けて影でできたドリルを突き刺そうとした。


 その瞬間だった。

 プレズデントの背後に隕石のように何かが落ちて来た。

 プレズデントがラーバルへの手を止めて、後ろを振り返る。

 そこにはこの距離でも分かる高温を周囲に撒き散らし、空に立ち上る火柱があった。


 「次は…なんだァァ!!」


 プレズデントは次から次へとやってくる誰かにいい加減飽き飽きしており、思わず声を荒げてしまった。


 空に立ち昇る火柱を見たラーバルはこの声を聞いて一発で誰が来たかが分かり、安堵の顔を浮かべる。

 そして、火柱が徐々に小さくなり、そこに姿を見せたのはドラギナだった。


 ドラギナは首をゴキゴキッと捻るとプレズデントを強い眼力で睨んだ。


 ーー終ーー

 

 

 ラーバルはクーやドラギナのように特別な親を持っているわけではありません。

 父は”弁護士”で母は”専業主婦”の一般的な家庭で育ちました。

 なので、なんの血統も持たずにここまでの力を手にしたのは天に恵まれたと言っていいと思います。


 ラーバルの両親はご近所に引かれるぐらいにラブラブです。

 そんな様子を見て育ったラーバルは両親の様子を鬱陶しく思うわけでもなく羨ましがっていました。

 自分にもいつしかこんなに愛せる誰かが欲しいと思って、歳を重ねていたと思います。その過程でレノと出会ったので、ある種、その出会いで夢が叶えたというわけです。


 ラーバルはレノが好き過ぎますが、意外にも周囲からの評価は悪くなく、実直に堅実にレノを思って行動するので周囲からは逆に尊敬される程です。


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