205 大罪vsナールガ
人間界・大ピラミッド
(なんだコイツらに感じるこの感覚は…?)
ナールガは初対面のはずの”大罪”の姿を見て、謎のもの懐かしさを感じた。
会ったこともない見たこともない。そんな悪魔に対して、こんな感情が生まれるのはおかしなことなはずなのにも関わらず。
謎の感覚の出どころを探しているナールガ。
この空気に上裸で右の胸に”サソリの刺青”の入った悪魔が口を開いて、話し出した。
「サタンの魔力を感じ…来ては見たものの…別人だな。お前はなんだ?」
その悪魔は、品がありつつもガッカリしたような口調でナールガに聞いた。
「そのまま返す。なんだお前達?」
「はぁ…大魔族が生意気なのはいつまで経っても変わらんか…敬意がない。」
6体の悪魔から感じる気配と魔力量は推定でも、今のナールガを超している。
つまり、目の前の6体1人1人が、今のナールガよりも強いということだった。
これを理解したナールガは、心のどこかで危機感を感じていた。
だが、それが表に出ることはなかった。ナールガは持つ力の自負とプライドでそれを押さえ込んだからだ。
「答えろ…お前はなんだ?」
「オレの名はナールg…!」
名前を答えようとしたナールガの腹部に、サソリの刺青の悪魔の背後から伸びたサソリの尾が突き刺さった。
「お前の名前は聞いていない…聞いているのはなぜお前からサタンの魔力が感じられるかだ…」
「…オレがサタンの部位を吸収したからだ…」
ナールガは口から少量の血を吐いて答えた。
「ハッタリではないな…だが、サタンが封印?これについてはよくわからないな…まぁいいか…地獄に帰ればわかる。」
サソリの刺青の悪魔は、ナールガの腹部に貫通したサソリの尾を思いっきり引き抜いた。
ナールガの傷口は即座に回復をした。
「痛てぇな…」
「サタンを吸収したところまでは上出来のようだ。暴走していないからな。だが、サタンには遠く及んでいない。サタンであれば、今の攻撃は避けられた。少々、器としての耐久が他よりもあるだけの模造品だな、貴様は…」
サタンの部位を吸収した今のナールガは、悪魔や大魔族から見れば圧倒的な脅威であることは疑いようのない事実だった。
だが、大罪達はナールガを目の前にしても一切の物怖じがなく、それを上回る力で余裕を見せつけていた。
「…チッ…!で、どうすんだアスモデウス!!コイツを殺るのか殺らねぇのかどっちなんだ!!やるなら、さっさと命を奪っちまおうぜ!!」
ナールガと”サソリの刺青”の入った悪魔との会話に痺れを切らしたのは、右腕に”キツネの刺青”の入った悪魔だった。
「落ち着けよ、マモン。こういう時はリラックスだ。」
その様子を、左手の甲に”クマの刺青”の入った巨漢の悪魔が宥めた。
(コイツらまさか…かつて地獄を統治した”大罪”って奴か…)
ナールガは、アスモデウス、マモンなどという言葉が耳に入ってくると、目の前の6体の悪魔が、かつての地獄で大罪と呼ばれた悪魔達であると考えた。
「お前達が大罪か…」
ナールガは6体に向かって問いを投げた。
「そうだ…我々こそが真の地獄の覇者、”大罪”だ…」
色欲・アスモデウス 象徴・サソリ 右胸部・サソリの刺青
嫉妬・レヴィアタン 象徴・ヘビ 右手の甲・ヘビの刺青
暴食・ベルゼブブ 象徴・ハエ 背中・ハエの刺青
強欲・マモン 象徴・キツネ 右腕・キツネの刺青
怠惰・ベルフェゴール 象徴・クマ 左手の甲・クマの刺青
憤怒・ベリアル 象徴・オオカミ 右足のスネ・オオカミの刺青
ナールガはコレを知って、合点がいった。
なぜ、6体が異様な魔力量を持つか。なぜ、6体が物怖じをしないか。
頭に浮かんだ疑問の全ての理由が、相手が大罪だからの一言で理由に成り得たのだ。
「で、どうすんだぁ!!アスモデウスゥ!!」
「…殺れ。思うままに…」
アスモデウスが話終わった瞬間、6体全員がナールガに攻撃を仕掛け、各々の攻撃でナールガを貫いた。
「チッ…!」
ここから大罪の連携攻撃が降り注ぐ雨のように続いた。
(コイツら…今のオレでは手も足も出ないか…)
ナールガは攻撃してくる大罪達をなんとか、自身の周りから引き剥がそうと画策したが、その全て、どれもに意味がなかった。
傷口や肉体、出血の再生はフルオートで回復魔法が働くために問題ない。だが、一向に大罪達の攻撃網から抜けられる気がしないのだ。
「シャーー!!右腕もらいっ!」
ナールガの右腕に嫉妬・レヴィアタンの舌が巻きつき、引きちぎると、そのまま右腕を捕食した。
「あんま美味くない…サタンの生の肉体じゃないからか…」
レヴィアタンは口の周りについたナールガの血を、ヘビのような舌で舐め回して、綺麗に拭き取った。
流石は、ヘビを象徴生物としているだけはある。目も口も舌も動きもどことなくヘビを感じさせるものがレヴィアタンにはあった。
ナールガの右腕は、自動的に瞬時に回復をした。
サタンの部位を2つも吸収した恩恵か、こんな損傷であれば1秒程度で再生が間に合った。だが、再生が間に合ったところで、意味もない。大罪達に勝てる道筋には成りはしなかった。
ナールガが右腕を再生してすぐ、次はナールガに向かって無数のハエが飛んできて、ナールガの耳や目、鼻や口というありとあらゆる穴から体内に侵入。体内で暴れ始めた。
「相変わらず気持ち悪りぃな、ベルゼブブの攻撃はよぉ!」
大罪は巻き込まれないようにとハエの羽音が聞こえたタイミングでナールガから離れた。
「…可哀想じゃないか…ハエも立派に生に執着しているというのに…」
「その結果がこのキモさなら、オレは号泣不可避だぜ?」
暴食・ベルゼブブはマモンのこの言葉にムッとした顔をした。
ハエは一通りナールガの体内を掻き乱し終えると、どこかに飛んで行ってしまった。
ハエがボロボロにしたナールガの目はぐちゃぐちゃに萎れ、身体中虫食いだらけのグロテスクな姿をしていた。
それでも、ナールガの肉体は瞬時に回復をした。
「あぁ…忘れてた。自動回復持ちだとハエはあんまり意味ないんだったっけ。まだ寝ぼけてるのかな。」
ベルゼブブは頭を左右に振って、物理的に脳を揺らした。
ナールガは考えも巡らせていた。
(このままじゃ勝てないか…ここでちまちま魔力を消費するのも愚策…)
ナールガは一周回って、ひどく冷静に考えを巡らせた。
そして、怠惰・ベルフェゴールの顔面に一発、反撃を加えた。
「痛くないな…」
大罪の中でも圧倒的な巨体を筋肉の鎧で覆っているベルフェゴールは、ナールガの一撃ではビクともしなかった。
ベルフェゴールはお返しと言わんばかりに、右手でナールガをぶん殴り返すと、ナールガはピラミッドの方に飛ばされた。
「ん…?」
ベルフェゴールはナールガを殴った右拳を、何か疑問を浮かべたような顔で見つめた。
「どうした、ベルフェゴール?」
アスモデウスはそんなベルフェゴールに聞いた。
「感触に違和感があった…」
「支障はあるか?」
「…ない。」
「なら気にするな。」
「わかった…」
ベルフェゴールはアスモデウスに諭され、違和感を忘れ去った。
「おい、アスモデウス見ろよ!アイツ、ベルフェゴールに殴られたまんま、人間の方に逃げてるぜ!」
アスモデウスがナールガの方を見るとナールガは確かに、ピラミッドの方に逃げるように飛んで行っていた。
そんな様子を見て、アスモデウスは逃すまいと一目散に、ナールガを追っていき、他の大罪もその後を追う。
「教授!!なっ何かがこちらに向かってきています!!」
ピラミッドでの発掘作業中の学者、研究員、その手伝い人達は高速でこちらに突っ込んでくるナールガとその後を追う、大罪達を目視で確認した。
「おっ…おぉ…にっ逃げるのだぁぁ!!」
豪速で向かってくるナールガと大罪を見た人間達は、即座にピラミッドから離れようとする。
「サタンの模造品よぉ!人間の近くなら何もしないと思ったかぁ!不正解だよ!」
ナールガと大罪はピラミッドの周りを不規則に攻撃をしながら飛び回り、それに巻き込まれた人間達は死体も残らずに死亡。ナールガと大罪の戦闘はピラミッドを無惨に破壊しながら侵攻した。
「全員…集まれ…」
アスモデウスはピラミッドのはるか上空に瞬間移動し、大罪全員に集合をかけ、大罪達はそこに集合した。
「…どうした?」
「飽いた…コイツを相手にするのは力が勿体無い。これなら、天界に殴り込んだ方がマシだ。」
「…わかった。」
ベルフェゴールはアスモデウスの発言に納得。他の大罪も納得した。
アスモデウスは右手を高らかに天に掲げた。
これを見た他の大罪も同じように手を掲げると、アスモデウスの手に魔力を送る。
そして、アスモデウスの右手には軽々と周辺を吹き飛ばれるであろう魔力でできた巨大なエネルギーの球体が完成した。
アスモデウスは右手を振り下ろし、巨大なエネルギーの球体をナールガのいるピラミッドに向けて放った。
それは稲妻を球体の周囲に発生させながら、空気を飲み込むように進む。
「アスモデウス。アレ当たるの?」
ベルゼブブはアスモデウスに聞いた。
「受けるに決まっているだろう。奴のプライドを鑑みればな…」
ベルゼブブの目論見通り、ナールガは自身に向かってくる球体を正面から全身全霊で受けて見せた。
しかし、ナールガの戦況は劣勢。拮抗ですらなかった。
(クッソ…何かないか…!)
ナールガは歯茎から血が出るほど歯を食いしばって、攻撃に対抗していた。だが、それも時間の問題であることは自明であり、状況は絶対的な絶望的と言えた。
「終わりだ…」
アスモデウスは終わりを告げると、右手を巨大なエネルギーの球体に向けて、強く握った。
その瞬間、球体は周囲を木っ端微塵に吹き飛ばし、クレーターができるほどの大爆発を起こして、巨大なキノコ雲を発生させた。
「ん…?」
普通のこの状況であれば、誰もが大罪の勝利が確定したと思うはずだ。だが、アスモデウスは違った。
巻き上がる爆煙の中に微弱な魔力を感知したのだ。
「生きているのか…」
大罪が詳しく爆煙を見ると、そこには爆煙の中で立ち上がる人影があった。
その影は腕で爆煙を勢いよく振り払うと、爆煙が綺麗に晴れた。
そこには、全身の火傷を再生中のナールガだった。加えて、このナールガは何かを手に持っていた。
ナールガは鋭い目線で上空の大罪達を見上げると、手に持った何かを大罪達に見せつけ、それを胸に押し当てると、ナールガはそれを吸収し始めた。
「アレが言っていたサタンの封印部位”左腕”か…」
アスモデウスは冷静にナールガが手に持っていた物を分析し、纏った魔力からそれがサタンの左腕だと断定した。
「うぅ…はぁ…」
ナールガは”左腕"の吸収を終えると、額から出た少しの汗を拭って、息を吐いた。
そして、大罪達の目の前に瞬間移動した。
「なんだ?耐えたのを自慢しにでも来たのか?子供のように。」
アスモデウスは、左腕を吸収し魔力量の跳ね上がったナールガを見ても、至って冷静に相手を挑発した。
「教えろ。お前達はサタンと戦ったのは本当だな?」
「だったらどうした?」
「なら、思い出して教えろ…お前達はサタンは余裕だったか?」
ピキッ!
大罪達は額に血管が浮き上がる。
大罪達の脳裏には、脳裏に蘇ったサタンとの戦闘が朧げに思い起こされていた。
その時のサタンの余裕の笑みと底を見せない様子。絶対的強さを自負していた大罪達が本気で戦って、サタンがその様子を見せたことは、大罪達にとっての鮮明で永久的な消えない怒りという原動力を生み出していた。
「その反応…そうかお前達は余裕で負けたんだなw」
ナールガは大罪の反応を鼻で笑った。
「貴様…死にたいのなら今すぐに叶えてやる。」
アスモデウスの言葉から大罪達が怒髪衝天であることは明らかだった。
そんな様子を見たナールガは鼻で笑って、さらに大罪の神経を逆撫でした。
すると、ナールガはいきなりどこかに飛んで行ってしまった。
この逃走が大罪達の琴線に触れるどころではなく、激しい怒りのその先に誘った。
ブチギレた大罪達はナールガを本気で殺すべく、追いかけて行った。
ーー終ーー




