194 狩られる側
地獄・ベリス島
ここは、地獄の小さな孤島。
大海の大穴より、最も近くに存在する到達可能な陸地。
しかし、ここは大海の大穴に近いが故に禁足地であり、適応できた植物以外の動物、悪魔などの生物は存在していない。
そんなこの場所に数十年ぶりに3人が降り立ち、短期的な生活を始めていた。
「ねぇライダー…いつまでここにいればいい?」
「アイツらが帰ってくるまでだ。」
「私…帰りたんだけど…」
「えぇ!ベーちゃん帰っちゃったら、俺とライダー、死んじゃうッス!!」
その3人と言うのは、I,B、E,M、ライダーの3人だった。
3人は一応、大魔界の異常が地獄中に蔓延することを防ぐ監視係をこのベリス島で務めていた。
ただ、流石にこの3人とて生身でこの島にはいられない。
島の必要な土地にI,Bの強固な結界を張ることで生活可能な域まで調整していたのだ。
「そうだぞ。お前がいないとオレ達はお釈迦だ。」
「わかってるけど…ここ楽しくない。」
「お前がそう言うと思ってまだまともなビーチに拠点を置いてるんだぞ?」
「でも、海だけじゃつまらない…」
「文句言うな。」
「そうッス。ベーちゃんのために本いっぱい持って来たッスから。」
「…ありがとう…」
「はぁ…何も変わらんなお前達は…」
一定の物事に耐性が皆無なI,Bは、この限られた結界の中と言う空間が窮屈で退屈だったのだ。
そんな中でできる事とは持って来たもので退屈を凌ぐぐらい。
本を読んだりするしか無いのだ。
「うおっ!!なんだ!!」
I,Bも落ち着き、ひと段落。ライダーが昼寝でもしようと目を瞑った時だった。
ライダーの鋭い感覚が1人の天使の気配を読み取る。
「お前達、警戒耐性だ。」
ライダーは急いで横になったら体を起こし立ち上がる。
「何?何かあった?」
「どうしたッス?」
2人はよくわかっていないようだった。
「天使だ。それも向かって来ている。」
「…ほんとだ…」
「ほんとッス!」
2人も遅れて気づく。
「…魔力が弱い…限りなく気配を絞ってる。」
「そのようだ。」
向かってくる天使に戦闘体制を取る3人。
そして、その天使の姿がいよいよ見えた時、白い衣を纏ったその天使は一直線に大海の大穴に突っ込んで行ってしまった。
「あれ?あっけないッス。」
「…終わり?単身で?」
「終わり…だな…」
「なんスかあれ?新手の身投げッスか?」
「知らん。とりあえず、何かあったらその時だ。あの天使がもし死んでもオレ達に責任はない。」
「そうッスね…」
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大魔界・オールトリバー城
大雨、強風、落雷。
この日のこの城周辺の気候は大変虫の居所が悪い様子だった。
しかし、この城の周辺には幸運なことに住宅がない。森の中にこのオールトリバー城が佇んでいるだけなのだ。
「で?」
この城の主人は『五大貴族』であり、『黙悦の凶星』と呼ばれる大魔族・スティスだった。
そのスティスが玉座に足を組んで座り、見下ろす先にはカイエルがいた。
「先日、あなたが戦った我々の同胞をお返しいただけますよう交渉を。」
「単身で?」
「はい。戦闘をしに来たのではないので。」
スティスは笑っていた。
「それで交渉?何を…?」
「それはあなたの提案で決めようかと…」
「お前は確か…ミカエルの四席だったな…」
「…!知っていましたか。」
「…」
「しかしながら今はその肩書きではなく今は…」
「興味ない…喋るな…」
その瞬間、スティスの顔から笑みが消え、身体中に痛みを感じるような眼力でカイエルを見た。
「も…申し訳ない…」
カイエルが恐怖を覚えたことをスティスが確認すると、スティスは再度、うっすらと笑みを浮かべた。
「雑魚は知らない…ただ、強そうな3体の天使は地下に残っている。好きに連れて行け。」
「交渉なしで良いのですか…?」
「猛者以外に用はない…」
「感謝いたします。」
カイエルが頭を下げて感謝をし、顔を上げるとカイエルの右肩に小さな風穴が空く。
「何を…?」
「お前もこちらではないか…素質はありそうだが…去ね。」
カイエルは何か危機感のようなものを覚えると颯爽と玉座を後にし、城の地下に足早に進んで行った。
その途中、カイエルは右肩の傷を治しながらこう思った。
(あれは…化け物だ。攻撃が見えない…予備動作も見えない…きっとあれはスティスの凝縮された魔力が右肩を貫通したのだ。…私もまだまだ狩られる側か…)
カイエルは地下に行き、幽閉されていたゴーエル、アムエル、ノグエルを解放させ、先に天界に返し、次なる役目であるA2の参考人の同行を遂行するべく、オールトリバー城を後にした。
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大魔界・キリエグ屋敷(キリエグ領)
「土鬼?」
「おや?お嬢様、どうなさいました?」
屋敷の一室で洗濯物を畳んでいた土鬼の元に、レイヒがひょこっと現れた。
もうレイヒの通った場所が凍りついたり、霜ができたりと言うことはなく、力は完全に制御できるようになっていた。そのため、先日初めての付近の街へ買い物、つまるところ『はじめてのおつかい』をしたところだった。
「エクサーどこに行った?」
「エクサーですか…エクサーなら旦那様とお食事中のようです。」
すると、レイヒはほっぺを軽く膨らませた。
「もう!お父さんったら!!」
「そう言わないであげてください。お話の一つもありますよ。」
すると、レイヒは珍しく足音を大きく立てて、キリエグのいる天守閣に向かって歩いて行ってしまった。
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大魔界・キリエグ屋敷天守閣(キリエグ領)
天守閣にはやはり、エクサーとキリエグがいた。
2人の前には豪華な和食がお盆の上にずらりと置かれ、それが1人ずつの前に置かれていた。
こんな豪華な和食を目の前に、空気はなんとも張り詰めており、エクサーは正座をして下を向き、キリエグは堂々とあぐらをかいて、何やら不満そうな顔をしていた。
ーー終ーー