19 お返し
炎の鎖でエクサーの動きを止めたドラギナだったが、想像以上に早く高速を解かれ、一気にピンチに。
しかし、そこにトバルカインではなく、A2が現れる。
A2は目の付いた杖を取り出し、エクサーとの戦闘が始まる。
エクサーは睨んだ。
A2は笑った。
この空間に漂う緊張感。この空気の重さを2人は正面から受けていた。
この空気を破るのはどちらか。それはもちろんエクサーだった。
本能のままに振るったエクサーの拳は、A2目掛けて振りかざされ、A2に当たった。
しかし、A2は打撃の威力を受け流すように回転し。
「エクサー。お返しするよ。」
目の付いた杖から出た衝撃波は、エクサーに直撃して壁まで吹っ飛んだ。
「あ”、、あ”、あ”。」
かなりタフに見えたエクサーにも、確かなダメージになっていた。
エクサーは口から黒い液体を吐いた。
液体はかなりの熱を持っているようで、床に落ちると地面が少し溶けた。
「痛いかい?自分の打撃は。」
A2の言葉通りが全てだった。
A2はエクサーの打撃の威力をそのままエクサーに返していた。それを可能にしていたのは、A2の手にある目の付いた杖だった。
魔器『ディクト』
魔器とは魔力に対応した武器で、『ディクト』の能力は、攻撃の威力を一時的に杖の中に吸収、放出が可能。吸収してからの威力の貯蓄時間は5秒。5秒以内に放出しなけえば『ディクト』が自動的に破壊される。
欠点は、杖を持った状態で使用者が体にダメージを受け、ダメージを杖に送るため、一度、体にダメージを受けなくてはならない。しかし、A2は特殊な体術により、ダメージを上手くそのまま杖に送ることを可能にしていた。
そこからは勝敗はすぐだった。
終始余裕のA2は、エクサーと鬼ごっこするように逃げ回り、攻撃をエクサーに返していた。
A2に攻撃しては返され、黒い液体を吐くことを繰り返し、エクサーは見る見るうちに弱体化していった。
「そろそろ幕引きだね。」
A2は、『ディクト』をエクサーの方に向けると、クーとドラギナに言った。
「耳を塞いでおくことをオススメするよ。」
2人は指示通り、耳を塞いだ。
A2は杖を強く握った。そして、超広範囲の音波をエクサーに与えた。
エクサーは苦しんだ。
口から黒い液体が滝のように流れ出ていた。それでも倒れまいと持ち堪えていた。
粘るエクサーに対し、A2はさらに音波の威力を上げ、部屋中にヒビが入り始めた。
キーーーーーン。
音は超高音に達し、エクサーは膝から崩れ落ちた。
エクサーは口から液体を吐きながら、気絶した。
ーーーーー
エクサーは、黒い液体の中にいた。
この浮いているような流れているような、この感覚はとても心地よかった。
このまま、こうしていたいそう思った矢先、エクサーの虚な目は急に元に戻った。
そして、エクサーは思い出したように息をしようとした。すると黒い液体はエクサーの体に流れ込むように入っていった。
苦しい。その思いを抱えたまま、エクサーの意識は遠くに行った。
ーーーーー
エクサーの体は吐くと一緒に徐々に元に戻っていた。
A2は空間の裂け目にを作り出し、そこに『ディクト』をしまった。
A2は『ディクト』をF,Dに頼んで、音波が出せるように改造してもらっていた。音波は外傷無しに相手を気絶させることができるため、A2にとっては都合のいい技だった。
「お、終わったですか。」
「そうらしいな。」
A2は『バリア』を解除した。
「2人とも大丈夫かい?」
A2は2人に近づいた。
「だ、大丈夫です。」
「君たちがクーとドラギナだね。いつもエクサーと仲良くしてくれて嬉しいよ。」
「あんたが、A2か。」
「お、知ってくれてるのかい?」
「親父が言ってたよ。ミカエル、ナールガ、そしてあんたA2には気をつけろって。」
「ナールガ!久しぶりに聞いたよその名前。元気かねぇ、最近見ないよ。」
相変わらず1人でペチャクチャ喋り始めた。
「あの〜、そろそろここ崩れるんじゃないです?」
「ん?」
A2は全く気づいていなかったが、音波の影響で部屋ボロボロ、崩壊一歩手前だった。
「あややや、気づかなかった。」
次第に揺れ出す部屋、壁が次々に崩れ出した。
「ドラギナ、君はラーバルの手を握ってくれ、私はエクサーを担いでっと。」
ドラギナは倒れたラーバルの手を握り、A2はエクサーを担ぎ、みんなで手を握って、瞬間移動した。
ーーーーー
「な、なんでしょうこの揺れ、だ、大丈夫でしょうか。」
「きっと、大丈夫ですよ。先生。」
揺れる校長室ではトバルカイン校長とフールル先生が帰りを待っていた。
そこにA2達は戻ってきた。
揺れが収まった。
「お、お帰りなさい。み、みなさん大丈夫ですか?」
「まぁ、一応。」
「あぁ、た、大変だ。わ、私は急いでラーバルを医務室に連れて行きます。」
フールル先生はボロボロのラーバルを見ると、ドラギナからラーバルを受け取り医務室に向かって行った。
「2人は私が家まで送ります。」
「わかった。じゃあ私も早々と帰らせてもらうよ。トバルカイン、図書館壊れちゃったけど、ごめんね。」
「まぁ、いいですよ。学校が壊れること、この子達が死ぬことに比べたら、全然。」
「ごめんね〜。」
そう言って、A2はエクサーを持って、クリスト城に帰って行った。
「大丈夫ですか?2人とも。」
「大丈夫です。疲れたです。」
「そうですか、早く帰りましょうか。」
3人は校長室のベランダに出ると、トバルカインは大きなコウモリになり、2人はトバルカインの背中に乗った。
「しっかり捕まっててください。」
トバルカインは翼を羽ばたかせて、風を切って空へと飛んでいった。
ーー終ーー
魔強化、これからこの物語が終わるまで数人使うことになるのですが、基本的に魔強化に勝てるのは魔強化だけです。なのでA2は、魔強化暴走中のエクサーの攻撃をそのまま返して、ダメージにすることにしています。